騎士との戦い
走ってきた2人の方へ走る。心なしか足が遅い気がする。さっきの目眩が原因だろうか。
いや、気にしても仕方ない。
俺は攻撃をしている騎士の前に割り込み、追われていた人間を守るように立った。
「だ、誰だお前は!」
突然現れた俺に動揺した騎士が、若干戸惑いながら聞く。
「誰だっていいだろ。どうせお前は、もう二度と俺と会うことなど無いんだからな」
「なんだと!? 貴様、随分と偉そうだが、死にたいのか?」
「死にたくなんかないさ、俺は今の人生に満足しているからな」
「そうか、ならばそこをどけ。罪の無い人物を無作為に殺したくはない」
どうやらこの騎士は悪人ではないらしい。
ということは、この追われている人間が罪人ということか?
となるとわざわざ守る理由も無くなるが、ここまで来てしまった以上、引くわけにもいかない。
それに、理由は分からないが、俺はここで背後の人物を守らなければいけない気がした。
「安心しろ。俺は死なない」
「なに?」
「俺は強いからな。お前みたいな雑魚にやられたりはしないんだ」
挑発するように、俺は言った。
俺と比べればあらゆる人間が雑魚だ。
いくらこいつが怒ったところで俺には傷一つつけられない。
「ふっ。どうやら随分と腕に自信があるようだな。いいだろう。殺さない程度に、潰してやる」
さて、何秒保つかな、こいつは。
本気を出しすぎると殺してしまうかもしれない。軽く殴って甲冑を粉々にして終わりにしよう。
「ほい!」
本当に軽い力で、俺は騎士の鎧に拳を当てた。
よし、終わりっと。
「なんだ今のは。ふざけてるのか?」
「何!?」
騎士の鎧は全く傷ついておらず、ピンピンとしている。
手を抜きすぎたか?
いや、いつもならこの程度の力で鎧程度は簡単に壊せるはずだ。
何かがおかしい。この鎧がとてつもなく頑丈だったとでもいうのか?
なら、もう少し力を強めるまで!
「おっりゃ!」
今度は力を入れて鎧に攻撃した。
さすがにこれなら倒せるだろう--。
「はぁ……貴様には失望した。その程度の力で、あれほど堂々としていたのか?」
相変わらず、鎧は傷一つ無くそこにあった。
何が、どうなってやがる……。
くそっ……。こうなりゃもう本気を出してやる!
死んでも知らないからな!
自分の目前に、巨大な炎の塊を展開し-- ようとしたが、できなかった。
いや、炎が出せなかった訳では無い。
巨大な炎を出すはずが、人の顔ほどの大きさしか出せなかったのだ。
まぁサイズなどどうでもいい。どれだけ小さくても俺の炎は最強だ。これで全身黒焦げにしてやる。
「なんだその炎は? まさか貴様、妖術使いか?」
「妖術? そんなもんじゃないさ」
「くっ……さすがにこれは避ける他無いかっ!」
無論避ける余裕など与えない。避けようとした騎士に、俺は勢いよく炎の塊を飛ばした。
本当は風林火山の力は使うつもりは無かったんだけどな。許せ、名も知らぬ騎士よ。
俺の炎は、騎士の腕へと直撃した。
「ぐっ……熱いッ! だが、耐えられぬ熱さでは無い!」
そう言って、騎士は燃えた炎を振り払った。
「さて、もう終わりか? ならば、反撃開始といかせてもらうかッ!」
騎士は手に持っていた剣を振り上げると、俺に向けて一直線に振り下ろした。
「くっ……」
当たる寸前で、体を大きく横に反らしギリギリ避けた。あと数秒遅かったら間違いなく死んでいた。
普段なら、いとも簡単に避けることが出来たはずなんだが……。
「ふっ。運だけは良いようだな。だが、二度目も避けられるかな……?」
悔しいが、避けられる自信は無い。
このままでは、俺はやられる。
「くそっ……!」
背後にいるフードの人間の腕を掴み、俺は走った。
「逃がすか!」
そんな俺に、騎士はすかさず斬りかかろうとする。
「くっ……!」
慌てて背後に土の壁を作る。
良かった。どうやら土の壁は出すことは出来るようだ。
だが土の壁は騎士の攻撃を弾くと、バラバラに砕け散った。いつもならそう簡単に崩れることなど有り得ないのに。
「とっりゃ!」
腕を掴んでいたのをやめ、お姫様抱っこの体勢をとる。
そして風を起こし、地面から足を飛ばした。
ふわふわと、ほんの僅かだが空に浮く。
「くっ……訳の分からない妖術を次々と使いやがって……」
幸い、騎士の攻撃が届かないほどは浮くことができた。
だが、長くはもたない。
今すぐにでも気を抜いたら落ちてしまいそうだ。
ゆっくりと移動し、何か対策は無いかと必死に考える。
それにしてもさっきからこの抱えている相手何一つしゃべらないな……。
「おい」
俺の声に返事はない。
何かおかしい。
死んではないよな?
胸元に耳を近づけ、心臓の音を……。
ん?
胸がある。
ということは、こいつ女か。
まぁ男でも女でもなんでもいい。
心拍音を確認すると、生きていることは確認できた。
よかった、死んではいないみたいだ。
よく耳を澄ますと、僅かだがすーすーと寝息が聞こえてきた。
こいつ、この緊急事態で寝てるのか!?
あーもう!
絶対に逃げ切ってこいつをぶち起こしてやる!
炎の弾を出せる限り何度も何度も飛ばす。
騎士はそれをいとも簡単そうに弾いた。
炎は次から次へと騎士に弾かれた。
やがて火が草原に燃え広がり、辺り一帯が煙に満たされていく。
よし!
これだけ煙が酷ければお互いに相手の姿を確認できない。
なんとか踏ん張って飛ぶ速度を早める。
そして火の燃え移っていない場所まで移動した。
どこか安全な場所はないか?
あそこだ!
森を見つけ、俺はその中に突っ込んだ。
そして森の中の木のひとつに入り、葉の中に隠れる。
この中でひっそりと息を殺して、なんとかやり過ごそう。
これだけ木があれば俺を特定することはおそらく出来ない。そもそも森に入ったかどうかもあいつには分からないしな。
とりあえず……これで安心か。
さて、じゃあこいつを叩き起こそう。
いつまでもこの体勢はきついからな。
頬を叩くため、フードを取る。
こいつはーー!?
そこにいたのは、俺の一番探し求めていた女性、カリバだった。




