出会い
「まとまったようですね。では、早速過去に行きますか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺が過去に行くのは分かったが、過去に行って何をしてくればいいんだ。俺の目的はなんなんだ」
「さぁ? それを言うことで世界は変わってしまいますから教えられません。何も知らないあなたが過去に行くからこそ今がある。ただ、そうですね。一つだけヒントというか、助言を送りましょう」
そこで1度言葉を区切ると、微笑を浮かべて再び言葉を発した。
「今この世界には、明らかにおかしなことが一つあります。普通の世界でなら、絶対にそれはあってはならないものです。しかし誰もがそれに疑問を抱くことは無く生活している。それは、何故でしょうね」
そこで大天使様の言葉は終わった。
正直、何がヒントなのか全く分からなかった。
おかしなこと?
そんなものいくらでもある。だが、過去に行って俺が何かをするほどの理由となると、何一つ思い浮かばない。
「まぁ深く考えなくても理解しますよ。すぐに」
それならいいが。
「じゃあ、早速行くか。どう行けばいい。さっさと行ってさっさと帰ってくるから」
「別にいつ行っても構わないのですよ? この時代にやり残したことはありませんか? 何かやってからでも遅くはありません」
「なんだそれ。すぐ帰って来れないのか?」
「さぁ、どうでしょうね」
どうも怪しい。
帰れないってことは無いとは思うがあっちでやることってのがたくさんあるのか?
「安心してください。やること自体は単純ですよ」
またしても俺の考えを勝手に読んで大天使様は答えた。
ならなんだったんださっきの確認は。
「まぁ、頑張ってすぐ終わらせてくるから別にこっちで今やることは無い。それに、カリバに早く会いたいしな」
過去に行くことがカリバが戻ってくることに繋がるなら、今すぐやらない理由はない。
もう何日もカリバに会えていないんだ。これ以上会えないのは耐えられそうにない。
「分かりました。では、その葉を口に含んでください。時間はもう目的の時間に設定してあるのでそれ以外は特になにかする必要はありません」
「随分と簡単なんだな」
「はい。帰りも同じように使ってください。口に入れるだけで葉は消えてしまうので、間違っても帰る時以外は口に含んではいけませんよ」
「葉っぱを口に入れる機会なんてこんなことくらいでしかないっての。さて--」
萌衣、ミステ、シュカを見回す。
皆、俺を信じた熱い目をしている。
俺の力でカリバが再びトタースに帰ってくるのを全く疑っていない。
「よし、行ってくる」
「行きに使用するのは比較的大きい方の葉です」
「ということは、こっちだな」
大きい方の葉を顔に近づける。
一見なんの特徴も無いごく普通の葉だが、これで本当に過去に行けるのか?
まぁ何はともあれさっさと終わらせてしまおう。カリバが何故消えたのか、その答えが早く知りたい。
俺は、躊躇うことなく葉を口に入れた。
躊躇うことなんてあるわけない。俺はいつだって成功してきた。絶望的な状況の平行世界を救ったりもした。
きっと、大丈夫だ。
「うっ……」
軽い目眩が俺を襲った。
そして周りが真っ白になった。
まるで視力を失ったかのように白い世界が辺りに広がっている。
これは、成功したのか?
分からない。
戸惑っていると、唐突に白い世界がぐにゃぐにゃと歪んだ。
「んっ……」
再びの軽い目眩。
そして世界は一変した。
……ここを、俺は知っている。
ここはあの草原だ。
俺が皆と婚約を誓ったあの場所だ。
今が何年前なのかは分からないが、ここの景色は今も昔も変わらない。
というか、そもそも本当に過去に来たのか?
ただ単に場所を移動しただけなんじゃ……。
なんにせよ、ここからは何も分からない。
とりあえず歩いてみるか……。
ここからしばらく歩いたところにたしか街があったはずだ。そこで今がいつか聞いてみよう。
「ん?」
歩き始めようとしたところで、突如何者かが走ってくるのが見えた。
あれは……人が襲われている!?
西洋風の甲冑を来た剣士が、1人の人間を、持っている剣で斬りつけようと追いかけている。
襲われている側は布で顔を覆っており、誰が襲われているのかは分からない。
とりあえず、ここで恩を売っておくのは悪くないだろう。
それに、平行世界での経験を経て俺には少しばかり正義感的なものも生まれている。
俺には圧倒的な力がある。
あんな剣士くらい倒すのなら朝飯前だ。
ちゃちゃっと助けて、そして助けたやつに色々情報を聞こう。
どうやら街に行くより早く情報を得ることができそうだ。
さて--いくぞ!
俺は騎士を倒すため、地を蹴った。




