上の世界
「神?」
「はい。神様です。特に説明しなくてもどういう存在かは分かりますよね?」
「そ、そりゃ神様は分かるが、それがカリバだと!?」
「神は皆平等に人の傷を癒す力を持っています。逆に言えば、神以外で人の傷を癒す力を持つものはいません」
「そう、なのか……」
思い返してみれば、色々な街を回ったにも関わらず、回復を使っているのはカリバ以外に見た事がない。たとえ些細な傷だろうが、それは能力や魔法で治したりはしていなかった。
ゲームの定番である回復の存在が、この世界では決して定番ではなかったのか……。
「カリバが神様ってことは、大天使様より偉いんですか? でも、大天使様は今までカリバを敬ったりはしていなかったような」
シュカが大天使様に訊ねた。
たしかに、もしカリバが神様なら、大天使様の対応ももう少し違ったのではないか。
「勘違いしているみたいですね。別に神様は偉いものではありません。私達より1つ上の世界に存在しているだけです。だから私と神様の間に上下関係なんてありませんよ」
「ひ、1つ上の世界?」
「はい、そこには神のみが存在します」
突然そんなことを言われても理解が追いつかない。
世界はここだけじゃなかったのか?
いや、俺達が産まれた世界とこの世界が違う時点で、他の世界があることも疑うべきだったか。
「その様子だとまだ勘違いしているみたいですね。私の言う1つ上の世界とは異世界ではありません。世界そのものはここと同じですよ。ただ、上にあるというだけです。上と言っても天空じゃありませんよ。この星の外に出れば宇宙が広がっていますし宇宙の先には無が広がっているだけです。そういう上ではありません。世界は3つの層に別れていて、1つ目の層で神が生活し、2つ目の層に私達が住んでいるのです。そしてもう1つ更に下の層があります」
「ダメだ、全然分からない」
いや、言ってること自体は分かるんだがとても現実味が無いというかなんというか……。
「まぁこんなことは普通は知らなくてもいいんですよ。層が違う世界へは本来私達が行けるものではありません。行けるのは、神のみです。しかし神も、簡単に行ける訳では無いのですけれどね。神がこの世界に堕ちれば世界はとても目が開けられないほどの眩い光に包まれ、この世界の全ての人類が神が堕ちたことを理解します。今まで神を信じていなかったとしても、です。そして神は二度と元の世界には帰れません」
「は、はぁ……ってちょっと待って。神が堕ちたことを理解するってなんだ。俺は教えてもらうまでこの世界の神なんて存在すら知らなかったぞ」
「それは眩い光を見ていないからでしょう。光を見ることで初めて認知するのです」
「そうか、つまり俺がこっちの世界に来る前に起きた出来事なのか……。じゃあシュカは神を知ってたのか?」
この世界で生まれ、この世界で生きてきたシュカならその光とやらを見たはずだ。
「いや、初めて聞いたよ。神様なんて空想上のものだと思ってた」
「どういうことだ……?」
全ての人類が理解するんじゃなかったのか?
「簡単な話ですよ。シュカさんが産まれる前に起きた出来事だからです」
「つまり、カリバは実は年寄りだったってことなのか? いや、それともかなり幼いうちに堕ちたのか?」
てっきり若いと思っていたが、神なのなら若い容姿のまま何年生きててもおかしくない。
神の寿命がどれくらいかは知らないが。
「さてどうでしょう。女性の年齢を聞くなんて失礼ですよ」
「そうかよ、別に教えないなら教えないでいい。とりあえず、カリバがこの地に降りたのは相当前ったことなんだな? で、それが今回の話とどう関わってくるんだ」
「簡単な話ですよ。あなたは以上のことを踏まえて過去にとばねばなりません」
「はぁ? なんでそうなる。俺が過去に行くなんて話どっから出てきたんだ。全然意味が分からないぞ。大体、俺はこの時代のカリバに会いたいんだ。過去のカリバじゃない」
そりゃまあ、過去のカリバにも会ってみたいけどな。
「分かっています。とりあえず私が言えるのは一つだけ。何も分からなくても、カリバさんともう一度会いたいなら、過去に飛びなさい」




