到着
「到着です」
カリバの案内のもと、目的地イオキィまで辿り着いた。
「おっきぃいい!」
萌衣の言うとおり、とてつもなく大きい。
それに何より、トタースと比べてここはなんだか都会な感じがする。
「ねえねえ! ご飯食べようよご飯! わたし、お店でご飯もうずぅーっと食べてないんだよ!」
「ああそうだな、まずは飯にするか」
村を出てまだそれほど時間は経っていず朝飯を食べたばかりだが、せっかく新しい街に来たのだし何か食べたい。
「あの……カプチーノ様」
「ん?」
「なんなんですかこの女は! なんで私達と一緒に当たり前のように行動してるんですか!」
「あー、いや、それは」
そういえば、カリバとミステにはまだ萌衣のことについて何も話して無かった。
と言っても、なんと説明すればいいのやら。
「使える能力を持っているのならまだしも、ただ踊れるだけの女なんて必要ないはずです!」
「いや、一応能力あるんだよ。炎が出せるんだよ、な?」
「うん! 炎出せるよ! えいっ!」
ボォォ……。
「……」
「……ね?」
「何が『ね?』ですか! なんですかその炎の量は! ろうそくの方がまだマシですよ! まさかとは思いますが、それ以上出せないなんてことな無いですよね?」
「いやぁ」
えへへ、と萌衣が笑う。
「な、なんですかその反応は! カプチーノ様、こいつを仲間に入れた理由をわたしに分かるように説明してください!」
はぁ……。
隠しててもしょうがないし、正直に言うか……。
「こいつ、俺の妹なんだよ」
「妹、ですか?」
「そ。だから一緒にいるの」
「そ、そんなわけありません! あんな名前も無いような村にいた女が、たまたま妹だったなんて、そんな偶然あるわけないじゃないですか!」
いや、まったくその通り。そんな偶然あるわけないよね。おかしいよね。
でも、あったんだなあこれが……。
「カプチーノ様。これは私の予想なのですが、その女に惚れたのではないですか?」
何言ってんだこいつ。
「ちげーよ。惚れてなんかない」
「じゃあ! じゃあ! トタースにいない間は、私がずっと愛を独占しているってことでいいんですね?」
「ああ、良いんじゃねえの」
めんどくせ! すっげえめんどくせよカリバ!
「そうですか。安心です」
そう言うと、カリバはにへらと笑った。
まさかカリバがこんなに独占欲が高かったとは。
まあ俺と二人で旅に出るって決めた時、カリバ相当喜んでたし、二人だけの旅のはずが四人になってしまったとなれば仕方ないか。
「あれ? でもなんでトタースを出てから私を一度も抱いてくれていないのですか? 私が愛を独占してるんですよね?」
「いや、それは……」
なんて質問しやがるんだこいつは!
どうしよう。なんて答えればいいか全然分からない。
女を抱くのに飽きてしまったとか答えれば面倒なことになりそうだし……。
「なんでですか?」
「たまたまだよたまたま。今夜抱いてやるから、それでいいだろ?」
「はい! ありがたき幸せ!」
結局上手い言い訳が思い付かず、考えを放棄してカリバの望み通りに行動することにした。
ま、たまには女を抱くくらい良いか。
「ちょっと今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど」
やっと問題を解決したと思ったら、今度は萌衣がつっかかってきた。
「聞き捨てならないことってなんのことだよ」
頼むから面倒なことは言わないでくれよ?
「お兄ちゃん、今そいつとヤるって言ったよね?」
「それがどうしたんだ」
「そんなの許さない! お兄ちゃんは、私と一緒にいる間は絶対に誰ともエッチしないこと! 大人しく一人エッチでもしてなさい!!」
「はぁ?」
「駄目なものは駄目! 分かった?」
「いや、そんなこと言われてもだな」
「何をアホなこと言ってるんですか貧乳野郎。今夜は絶対に私はカプチーノ様と寝ますからね。あなたに止められる理由なんてありませんよ」
「ありますぅ! 超ありますぅ! だってお兄ちゃんは、私のことが大好きなんだもん!」
「可哀想に。あなたさっき、カプチーノ様があなたに惚れていないって言ってたこと聞こえなかったんですか?」
「あんなの照れ隠しですぅ! 言っとくけどわたし、お兄ちゃんにプロポーズされたことあるから」
「ぶっ……!」
なんてこと言いやがるんだこいつは!
「ね? お兄ちゃん!」
確かに俺は昔、妹にプロポーズしたことがある。
いや、でもね? しょうがないんだよ?
女性と一切関わりを持てない男はね、妹がいたら絶対妹大好きになっちゃう。絶対そう。
はぁ……。あの時の俺を殺してやりたい。
「カプチーノ様、本当ですか?」
「……」
「黙ってるってことは、本当なんですね?」
「お兄ちゃん、何も言わないなら、お兄ちゃんのプロポーズの時の台詞全部言っちゃうよ?」
それだけは本当にやめてくれ。実の妹に送ったプロポーズとかキモすぎて死にたくなるから。
「ああもう! そうだよ! 俺はこいつにプロポーズしたよ!」
「な、何か理由があって仕方なくやったのですよね! その女が好きだからではありませんよね!」
「好きだからしたに決まってんだろ」
今はもう恋愛的な感情なんぞない。
家族として好きってのは、まだあるが。
「そんな……」
俺の言葉を聞くと、ぐてっと地面に手をつきカリバは項垂れてしまった。
ちょんちょん。
「ん?」
さっきまで全く会話に加わっていなかったミステが、何か伝えたそうに俺を見た。
もじもじ。もじもじ。
「なんだよ。言いたいことがあるなら素直に言えって」
そんなに言いにくいことなのか?
「じゃあ、言う」
『お兄ちゃんと呼ばれるの 好き?』
「えーと、突然なんで?」
『プロポーズした相手に お兄ちゃん 呼ばせてるから』
いや、呼ばせてるも何も本当に妹だから呼んでてもおかしくないんだが。
『まさか 本当の妹に プロポーズ しないよね? それって キモい もんね?』
おっしゃる通りでございます。本当の妹にプロポーズするなんて世間一般から見ればキモいです。
『だから お兄ちゃん 呼ばせてるのは 趣味かなって』
それはそれでキモくないか? 妹でもない相手に趣味でお兄ちゃんって呼ばせるのは。
いや、でも妹にプロポーズするよりはマシなのか。
『お兄ちゃんと呼ばせるの 好き?』
どうしよう。なんて答えれば良いんだろう。
好きって言ったら変態だし、嫌いって言ったら実の妹にプロポーズした変態だ。
あれ? どっちで答えても変態じゃね?
『好きなら お兄ちゃん 呼ぶ』
「は?」
「……お、お兄ちゃん」
上目遣いで、緊張で目をうるうるとさせ、ミステは俺のことを小さな声でそう呼んだ。
「……普通にカプチーノで頼む」
そんな感じで毎回呼ばれたら、変な扉を開いちゃうかもしれない。
「ねえお兄ちゃん、さっきから何やってるの? もう早くご飯行こうよ!」
「ちょ、おい!」
俺の手を引っ張って、萌衣は走り出した。
はぁ……。
お前のせいでカリバとミステへの対応が大変だったっていうのに、笑顔でニコニコしやがって。
ま、その笑顔がお前の良いところなんだけどな。
俺は妹の笑顔が好きだ。
それは、今も昔も変わらない。
プロポーズしたなんて恥ずかしいことを暴露されても、俺は結局、この笑顔一つで許してしまう。
俺ってシスコンなんだろうか?
そんなわけ、ないよな?




