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想い


長い、長いミステの過去の話が終わった。

そうか、そんなことがあったのか。

だからあの日、ミステは俺についてきたのか。

あれは偶然ではなくて、運命だったのか。

ミステが唯一覚えていたずっと一緒という言葉には、そんな理由があったのか。


「さて、この世界で身勝手の限りを尽くしているカプチーノさんを消すことはできそうですか?」


「できるわけないじゃん! 結局過去を振り返っただけで、得たものは何も…」


「そうですか。まぁ、そうですよね」


「な、なにそれ! 大天使様が語れって言ったから語ったのに」


あれだけ長く語ったのに大天使の反応がこれじゃあミステが怒るのももっともだ。


「語ったことは無駄ではないですよ。少なくとも、あなたの仲間に隠し事はなくなりました。これであなたはカプチーノさん達と本当の意味で繋がったと思いますよ」


「そ、それはそうだけど……でも……」


「それに何より、あなたが過去を語ったことでようやくあなたにカプチーノを消せる理由を説明できる」


「説明? 何を言われてもわたしは……」


「さて、どうでしょうか。まず私はあなたが過去を語る前に言いましたね。二兎追うものは一兎も得ずと」


今の俺にならその意味は分かる。

二人のカプチーノを、善と悪のカプチーノを二人とも救おうなんてことはできない。


「だから、なに?」


ミステにはどちらも捨てることはできない。それは多分何を言われても変わることは無いのだろう。


「そもそも、あなたは本当に二兎追っているのでしょうか?」


「え?」


「1つ良いことを教えてあげましょう。いえ、もう気づいてるかもしれませんが。この世界を支配するカプチーノさんは、この世界とは別の世界に旅立ったカプチーノさんと色々なものを分けて誕生しました。つまり、前の、分かれる前のカプチーノさんが持っていたものを全て持っている訳では無いのです」


「それは分かってるけど、それがどうしたっていうの?」


「たとえば、そうですね。あなたへの"感情"とか」


「っ……!」


「その反応、やはり気づいていたようですね。というより、あなたならば気づかないわけがありません。そうです。彼はあなたへの想いなど1ミリ足りとも残していません。それは全てもう1人の彼に持っていかれた。今の彼にとって想い人は他でもない彼自身のみ。自分さえ良ければあとはどうでもいい」


「でも、それでも……」


「それでも、彼を好きだと? 本当にそう言えますか?」


「それって……」


「本当にそう言えますか? と聞いているのです。あなたに全く興味も無い、あなたのことなんかなんとも思っていない男を、あなたは好きでいられますか? あなたが彼を好きな理由は、彼があなたを好きだから、ずっと一緒だったからではないのですか?」


それを言われて、ミステは息を呑んだ。


「つまり、結局そういうことなんですよ。あなたは彼を想っている"フリ"をしていたんです。実際は、彼が消えたところで悲しむ"フリ"をしてそれで終わりですよ。それは先程の過去の話をしていた時に何度も何度もずっと一緒という言葉を繰り返していたことからも明らかです。あなたが好きなのは、この世界を支配している男ではなく、この世界を救うために旅立った男。消すのに抵抗があるのは、容姿がこの世界で共に過ごした姿と同じだからというだけです」


「……」


ミステはしゃべらない。いや、しゃべれないのか。


「というわけで、あなたは消せますよ」


そう断言して、それ以上何も言わなかった。


そこから、長い沈黙がおとずれた。

誰も、何も言えない。

ここで俺が言うべき言葉はなんだろう。何を言えば正解なんだろう。


そんな重い空気の中、ミステはゆっくりと口を開いた。


「ねぇ、カプチーノ。わたしって、酷い人なのかな?」


いつの間にか流れていた涙を拭いもせずに、ミステは聞く。


「……酷くなんかない。誰がなんと言おうとも、お前は酷くなんかない」


自分を好きじゃない人は好きじゃない。

そこだけを見れば確かに最低なヤツかもしれない。

だが、そんなの誰だってそうだ。

一方的に好きになって、告白して、はっきりとあなたのことが嫌いですと言われて、それでも好きでいられる奴がどこにいる。

そんなの、漫画やアニメの中にしかいない。

現実は、じゃあ他の人を見つけようで終わりだ。お互いが好きで、初めて本当に"好き"になるのだ。


って、そんなことはどうでもいいか。

俺はそんな話がしたいんじゃない。


「何があろうと、萌衣(ミステ)は酷い女なんかじゃない。全て正しい。なんてったって、俺の妹だからな」


結局、それだけの話。

理由なんかどうでもいい。


そして俺はミステを力強く抱き締めた。

涙を流すミステの頭を撫でる。


温かい。ミステはとても温かい。

ミステだけではないか。

俺の心も、同じように温かい気持ちになっていく。


その熱は頬を濡らしていた涙を優しく乾かし、2人を包み込む。


そしてすっかり涙が消えたミステは顔を上げて宣言した。


「わたし、行くよ。お兄ちゃんでは無いただのこの世界の支配者を、消しに行く」

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