異世界転生-二人-
ワードルに初めて来てから、結構な月日が経った。何日経ったかも馬鹿らしくて数えられないほどだ。
とはいえ、容姿はまだ子供。大人になるほどの月日はまだ経っていない。
この世界で日が経つ度に、わたしの容姿は元の世界のわたしとはかけ離れていく。転生した以上当たり前のことなのかもしれないが、これだけ長くここでの生活を続けていると前の姿を忘れてしまいそうだ。
そして長い旅を終えて、わたし達はようやく4人の伝説級の能力者と共に、久方ぶりにワードルへと来た。
「さて、来たぜルドーワ」
紫の煙に、自信たっぷりにお兄ちゃんは話しかけた。
【ふむ。では早速創生の準備に取り掛かるが良い】
「準備ってのはたしか、4人の伝説級の能力者を台座に立たせるんだっけか」
【よくぞ覚えておったな】
「まぁこの為にここまで頑張ってきたからな。忘れるわけないさ。じゃあ皆、頼む」
お兄ちゃんの言葉に、4人はそれぞれ頷く。
4人は皆、お兄ちゃんの能力により惚れている為、お兄ちゃんに従順だ。
最西端にいた伝説級の能力者、ドウインさんなんてもうかなり老いたおばあちゃんなのに、こんなちっこいお兄ちゃんに惚れているんだもの、能力って本当に怖い。
4人が指定の位置に付く。指定の位置とは、それぞれの伝説級の能力者が生まれた東西南北をそれぞれ逆さにした場所だ。なんでも、世の理を逆転する力を手に入れるからだとか。
そして儀式が行われる。
伝説級の4人とお兄ちゃんが光り輝く。
それはとても幻想的な光景だった。
わたしはただ、黙って待っていることしかできない。けれど、それは決して苦痛では無かった。美しい光は、何分でも、何時間でも見ていられるほどに美しい。
どれくらい経っただろうか。
お兄ちゃんが、ゆっくりと目を開いた。心なしか、疲れているように見える。
「終わったの?」
目を開いたお兄ちゃんに、わたしは尋ねる。
「多分、な。そうだろルドーワ?」
【うむ。儀式は既に完了している。あとはお主が魔法を使うだけだ。願うといい。自分と自分の分裂を。答えへの道を】
遂にお兄ちゃんが2人になるのか。
2人になったらそれぞれなんて呼ぼうかな。そもそも容姿は全く同じなのかな。 見分けつくかなぁ。
「よし、じゃあ早速使わせてもらう。発動するトリガーはなんだ?」
【今自分が最も悩んでいることを頭の中に両方イメージしろ。そしてそのイメージを爆発させ、大声で問え】
「了解」
それからお兄ちゃんは、再び目を瞑った。
そしてーーーーー
「俺の世界征服は、どちらの答えを選べばいい!」
祠の中で、お兄ちゃんの声が響く。
すると、お兄ちゃんの周りを黒い光が包んだ。黒い光はどす黒く輝き、お兄ちゃんの姿を消す。
先程の神秘的な光とは正反対だ。見ているだけで心はザワザワとざわめいて落ち着かない。
伝説級の4人も、不安そうに黒い光を見つめる。あるものはお兄ちゃんの名を呼び、またあるものは黙って手を重ね祈る。
やがて黒い光は更に輝きを増し、まるで爆発したかのように四方に光をばらまいた。
あまりの眩しさに、思わず目を瞑る。
そして目を開くとーーーーーー
そこにはお兄ちゃんが二人いた。
容姿は何も変わらない。と思いきや、片方のお兄ちゃんの姿は、前の世界のお兄ちゃんになっている。懐かしくて涙が出そうだ。
「これで儀式が終わったのか」
大人の方のお兄ちゃんがそう呟く。
「なんか、不思議な感覚だな。俺は俺のままなのに、もう1人俺が目の前にいる」
大人の方のお兄ちゃんは、小さなお兄ちゃんを見下ろし首を捻る。
なんだろう。小さな違和感がある。それがどちらのお兄ちゃんに対しての違和感かまでは分からない。
大人のお兄ちゃんはまた口を開く。
「俺の方は、皆が幸せな世界征服の方か。となると、お前の世界征服は、自分の意のままに世界を征服するって方か?」
そこで大人のお兄ちゃんの一方的な会話は途切れる。 突如、小さい方のお兄ちゃんが笑い出したのだ。高らかに、大声で。
そしてしばらく笑ってから、口を開いた。
「俺は、俺が2人になって考えを分担したところで、根本的な解決にはならないとずっと思っていた。2人になったところで何が変わるのか、と。だがようやく気づいた。2人になった意味を」
「どういうことだ?」
「ーーーー俺は2人もいらない。だから片方の俺を殺せばいい。そうすれば、答えは1つになる」
「な!?」
「ーーー伝説級の4人よ! こいつを殺せ」




