異世界転生-神託-
円盤が止まると、目前にはそれはもう大きな天使がいた。
あまりに大きく、例えるなら壁だ。
辛うじて、遥か上空に顔があるのが確認できる。
「あんたが、大天使様とかいうやつか?」
「いかにも、私が大天使です」
ゆったりと、落ち着いた声色で彼女は答えた。
「……俺達がここにいることに疑問は持たないのか?」
「持った方が良かったですか?」
「いや……」
わたしとお兄ちゃんがここに来れたのは、受付の人をウインクで落としたからであって正規の方法ではない。本来なら大天使様は予定外の客が来て動揺するのが普通なんだけど、そんな様子は全く無い。
「それで、私に何か用があるのですよね?」
「あ、あぁ……。あんたにお告げを頼みたくてな。この後俺はどうすればいいか」
そんなざっくりとしたお願いで伝わるのかなぁ。
「どうすれば、ですか。なるほど、それなら確かにわたしのところに来たのは正しい選択ですね」
どうやらわたしの心配は杞憂に終わったようだ。お兄ちゃんの目的は果たすことができそう。
「そうか! じゃあ早速」
「落ち着いてください。その前に、私ができることを簡単に伝えます」
「できること?」
「はい。私の予言には四種類あります。一つ目は、ただ未来を見る予言。二つ目は、自らの成長を促す新たな未来を切り開く予言。三つ目は、今より下の生活にいくための未来を閉ざす予言。そして四つ目は、まぁ四つ目はいいでしょう」
未来を見る予言かぁ。それってつまり、わたしがどんな大人に成長するかも見れちゃうってことだよね。それはちょっと興味あるけど、やっぱり見ない方がいいかな。
未来って、知っちゃったらこれからのことがつまらなくなりそうなんだもん。
お兄ちゃんもそうだと良かったんけど……。
「2つ目で頼む。自らの成長を促すってのはつまり、悩みを解決してくれるんだろう?」
「悩み、ですか?」
「あぁ。俺は今2つのことで悩んでるんだ」
「ほぅ。ではそうですね。2つ目の予言はあなたにぴったりでしょう。本来ならば何か予言を見る条件でも提示したいところですが、私はあなたに興味が湧きました。特別に見て差し上げましょう」
「ほんとか!」
「はい」
そう頷くと、大天使様は沈黙した。そして、幾ばくかの時が過ぎ一一
「そんな……」
ずっと落ち着いていた大天使様が、初めて動揺した声を出した。まるで何かとても酷いものをみたような……。
「どうかしたんですか?」
その様子があまりにも変で、ここに来てわたしは初めて口を開いた。
「い、いえ。なんでもありません。これが、この世界の、運命なんですね……」
「運命?」
「こちらの話です。ここで私があなたに予言を伝えないことも可能かもしれませんが、遅かれ早かれ今見た未来へと繋がる運命……。伝えましょう、あなたの、カプチーノの予言を」
ごくり。生唾を飲み込む。
そこまで大天使様が言うほどのことが、お兄ちゃんの行き着く先には存在しているというのか。
「……カプチーノ、あなたは、ワードルという祠に向かいなさい。そこで、あなたは2つになる」
「ふ、2つに?」
「ワードルは、本来は百年に一度のみ蘇生を行うことができる禁断の場。しかし、それだけではない。蘇生と等しく、創生もまた可能の場。あなたの悩みはあなた一人が解決するにはあまりに重すぎる。ならば、2つの悩みを、あなたが2つに別れ分担するのが道理」
と、とんでもないことを言い出したぞこの人。 お兄ちゃんが2人になったら! お兄ちゃんが2人になったら!
ぐへへ。そんなの最高に決まってる。
「お兄ちゃん、行こう!ワードルに」
「な、なんで急に乗り気になってるんだよお前は。にしても、2人か……。俺が2人……。なぁ、もし2人になったら、今の俺の意識はどっちにいくんだ?」
「記憶は両方が引き継ぎ、思想だけが2つに分かれます。意識は、そうですね。どちらにも、というのが正しいのでしょうか。そこについては恐れる心配は何もありません。あなたが消えるなんてことは無いですよ」
「そうか……。ならまぁ、行ってみるべきなのかもな。そのワードルとやらに」




