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異世界転生-能力-


「な、何が起こっているの!?」


 わたしとお兄ちゃんが談笑しているところへ若い女の人が入ってきて一言そう言った。そして顔を青ざめると、どこかへと走って行った。


「まあ、赤ちゃんが喋ってたら驚くよね普通……」


 他の人がいるかもしれないということは考えずに喋っていたのを少し申し訳なく思う。でも、一週間振りにお兄ちゃんと会えたのだ。お喋りしたくなってもしょうがない。


「で、萌衣も同じ方法で来たってことは、何か能力を書いたんだろ?」


「あ、そういえば書いた書いた。えーとね、わたしが書いたのは、あらゆるものを消せる能力」


「こりゃまたとんでもないチートもんだな。どれ、あのカードに書かれた能力が実際に使えるかどうか試しに何か消してみてくれ」


「う、うん」


 何かといっても何を消せばいいのやら。

 うーん、とりあえずあれでいいかな。目の前にある木箱。


「でも、どうやってやればいいのかな……」


 発動条件が分からない。こんなことなら能力のところに発動条件まできっちり書いておけばよかった。


「とりあえず、消したい物を消したいと強く思えばいいんじゃないか?」


「分かった。やってみる」


 木箱を消したいと強く考える。すると――


「ほんとに消えちゃった……」


 木箱は完全に消滅していた。


「やばいな……」


 お兄ちゃんの言うとおり、これはやばい。この能力は存在してはいけない能力だ。


「あはは。あんまりこれは使わないようにしようかな」


 怖くてとても使う気にならない。上手く使えば便利なのかもしれないけど。


「その方がいいかもな。まあ、どうしても必要な時になったら使う程度にしてくれ」


「うん。で、お兄ちゃんはどんな能力にしたの?」


「俺? 俺か?」


 なんだかお兄ちゃんはあまり言いたくなさそうだ。だけど一方的に教えるだけなのは納得がいかない。


「えーと……言わなくちゃダメか?」


「もちろん」


 兄と妹の間に隠し事なんてあってはいけない。


「言っても怒らない?」


「怒るような内容なの?」


「多分……」


 わたしが怒るような能力とは一体なんだろう。もしかして、わたしのパンツを脱がす能力とか?


「ええと……だな」


 言いにくそうにしながら、お兄ちゃんは目を背ける。


「大丈夫、怒らないから言って」


「ほんとか?」


「うん」


 とっても酷い能力だったら分からないけど。


「じゃあ、言うぞ」


 決心したようにお兄ちゃんはわたしの目を見る。容姿は赤ん坊だけどその目の奥には確かにお兄ちゃんがいる。


「……ウインクすると女の人を落とせる能力」


「え?」


 ちょっと理解が追いつかない。


「だから! ウインクすると女の子が俺のことを好きになっちゃう能力!」


「お兄ちゃん、それはちょっと……」


 普通にドン引きだ。それほどまでにお兄ちゃんは女の子に飢えていたのか。


「すまん。あんなカード本気にしてなかったから、つい願望を」


「ふーん」


 あからさまに機嫌を悪くするわたし。


「わたしもあまり人のことは言えないけどさ。もっと世の為人の為になる能力を書くべきなんじゃないの?」


「そんなこと言っても……」


「それにお兄ちゃん、わたしはどうなるの?」


「どうなるって、何がだよ」


「こんな可愛い妹がいて他の女の子を求めるって、それって酷いんじゃないの?」


「バカか。妹と恋愛する兄貴がどこにいる」


「むぅ……」


 わたしは本気で好きなのにこのバカ兄はなんでこんなことを言うのだろう。


 そもそも、お兄ちゃんだってきっとわたしと同じ気持ちを抱いているはずだ。そう思う場面は度々あったし、自信過剰でもなんでもない。


「お兄ちゃんはその能力禁止ね! 試すのもダメ!」


「なんで!」


「なんでも!」


 絶対に使わせてなるもんか。可愛い女の子のライバルなんてできちゃったらただの妹のわたしが勝てるわけないもん……。


「分かったよ、使わない。それよりさ、さっきからなんかかなりたくさんの足音が聞こえないか?」


「え?」


 お兄ちゃんに言われて耳を澄ますと、確かに大勢押しかけてくるような音が聞こえた。


「俺達が話しているのを見て驚いた女がいっぱい人を呼んだのかもしれない」


「えー!? どうするの」


「とりあえず、全力で赤ちゃんの振りをしろ。俺達が話していたのは勘違いってことにするんだ」


「うぅ。上手くいく気がしないけど、分かったよ」


 赤ちゃんなんて外やテレビでたまに見る程度なのに、なりきれるかなぁ。

 でも、やるしかない。もし赤ちゃんでないことがばれたら大変なのは確実だ。

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