再会する兄と妹
「な、何言ってるんだよミステ。お前のお兄ちゃんって……」
「真実だよ。あの人は私のお兄ちゃん。カプチーノ。本名は圭」
「!?」
俺の、懐かしい名前だ。それを知っているのは、萌衣以外あり得ない。
「萌衣、ようやく分かってくれたか。そうだ、俺はお兄ちゃんだ。さあ、こっちへおいで」
「やだ!」
「何だと!?」
「お兄ちゃんだけど、お兄ちゃんじゃないから!」
「なるほどな。そこまで知っているのか。だからお前はあの日からここに来てくれなかったんだな」
「そうだよ。わたしは全部覚えてる。あのリエカでの出来事も」
「そうか。なら、何故俺を殺さない」
「それは……それでもやっぱり、お兄ちゃんだから――」
「ふん。やっぱりお前は気持ち悪いな。ブラコンもそこまでいけば病気だ。ま、俺も大概だったが、そっちの感情のほとんどはあっちが持ってったよ」
「わたしは諦めない。記憶を全部失っても今こうして思い出せたように、わたしに不可能はない」
「どうだかな。その様子だと何も変わっていないようだが」
「変わったよ。変わったのは私自身じゃなく、人間関係だけどね」
「変わった成果がそこの俺だと言いたいのか」
「そう。そっちのお兄ちゃんには分からないだろうけど、これだけの成果を得られて、わたしの研究は無駄にはならなかった」
「研究? そうか。そっちの俺をここに呼んだのはお前の力か。あんなにバカだった妹がそこまで賢くなるとは。それが愛ってやつなのかね」
「そうだよ。そしてこの愛は更にその先に向かう。この人とならきっと、わたしの目的は遂行される」
さっきから二人が何を言っているのかさっぱり分からない。完全に二人だけの世界だ。
「大丈夫。あなたへの想いは偽りじゃない。カプチーノ、わたしはあなたの味方。ずっと一緒という約束を伝えたのにも、後悔していない」
ミステの言葉は俺の心には届かなかった。ミステの口から声を聞いているのに、俺にはもう彼女をミステに思えなくて何も響かない。
「カプチーノ、大天使様から連絡が」
ミステの変わりようを受け入れられず呆然としていた俺に、ツヨジョが耳打つ。
「連絡?」
ツヨジョの声で、何とか正気を取り戻す。
「はい。実は天使と天使ではどこにいても連絡が出来るのです。それで、大天使様がここへ戻ってこいと」
「戻るって言ったって、あの男はどうするんだよ」
まだ何も解決していないどころか傷一つつけることすらできていない。
「少なくとも今の私達では何をしたところで勝てないでしょう。きっと大天使様がこれから勝つ方法を伝授してくれるのではないでしょうか」
なるほど、勝つ為に一旦引くってわけか。それならまあ、ツヨジョの提案に乗ろう。悔しいが、このままここにいたところで俺には何も出来ないのは事実だし。
「分かった、すぐ向かおう。シュカ、いけるか?」
「大天使様のいるところに直接行くってのはあそこでは能力が使えないから無理だけど、ラソまでなら」
「十分だ。萌衣、ミステ、行くぞ」
萌衣はミステと男の会話を忘れるように強く頭を振ってから、とてとてとシュカの体に捕まる。
「カプチーノ、ちょっと待って。わたしはまだお兄ちゃんに確かめたいことが」
これ以上何かおかしな会話を二人でしてほしくはない。だから俺はミステを掴んで無理矢理シュカと共に瞬間移動した。
そして、すぐに大天使様のところへ向かった。
「で、俺達が勝てる方法を教えてくれるんだっけか?」
そんなものがあるならさっさと教えて欲しい。もうこれ以上躓きたくない。
「私がですか? そんなこと言いましたっけ」
何を言っているのやらと大天使様は首を捻った。
「いや、言っては無いけど、そうなんだろ?」
それ以外に戦闘中だった俺をここに呼ぶ理由は無いはずだ。
「いいえ、違います。というか――あの人を倒せる方法はありません」
「は?」
ただでさえ今日は困惑しっぱなしだってのに、また俺は困惑した。今、大天使様はなんて言った?
「だから、あの人は倒せないのですよ。あなた達では」




