10年の差
「ま、わざわざ説明するのも面倒だし、信じてくれないなら信じてくれなくて構わん。まあ最も、そっちのミステと名乗ってる萌衣に聞けば簡単に分かることだろうが」
「俺とお前は、確かに世界を落とし手に入れているという部分では同じだ。だが、その中身は全く違う。俺はお前みたいに、自分に従っていない人全員を不幸にするつもりはない。こんなにも生き辛い世の中なんて望んでいない。俺は悪人だが、お前ほどじゃない。だから、何を言われようと俺はお前じゃない」
それが俺の答えだ。
こいつは俺じゃない。その理由は容姿では無く、行動で決めた。
「話はもう終わりだ。俺はお前の作ったこの醜い世界で、大切な女を失った」
カリバのことを思い出し、胸が苦しくなる。彼女を失ったことでの傷は未だ治まらない。きっと、永遠に治まることは無い。
「別に俺が殺したわけじゃないだろ? それで俺に怒るってのは違くないか?」
「違くない。俺はお前を許さない。何を言われようと、ここでお前を殺す!」
そう言って、俺は少年を睨み手に炎を纏った。
「はぁ……。仕方ない。俺はお前とは戦いたくなかったんだけどな。自分と戦うってのは、どうも気分が乗らない」
「何度言えば分かる! 俺はお前じゃない!」
俺は足元に風を起こし、浮いている椅子のすぐ前へと移動した。
「言っとくが、俺はアンタみたいなチビッ子と違って強い。その口、一瞬で黙らせてやる」
言うや否や、俺は腕に炎を纏ったまま飛び込んだ。そしてそのまま頬めがけて拳を放つ。
少年は避けられなかったのか、直撃をした。
「やったか!?」
案外たいしたことなかった――
「その程度か」
「――!?」
「あーあ。俺だからもっと強いかと思ったけど、なんだ。まあ、そんなもんだわな」
無傷……だと?
どういうことだ。俺は強くなった。きっと、俺を倒せる人間はもう存在しない。
「本物のパンチってのを見せてやるよ。お前と同じ、炎を纏ってな!」
「うっ……ぐっ!」
俺の頬に、強烈な拳が炸裂した。風で浮いていた身体は地面へと突き落とされた。
「なん……で、こんなに力の差が……」
おかしい。俺は強くなったはずだ。誰にも負けないくらい。
「なんでだって? そんなのは簡単だ。お前と俺、生きてる年数が全然違うからな」
「生きてる年数が違う?」
「そ。その容姿を見るにお前、普通の世界からこっちに来てそこまで時間が経ってないだろ? 一、二年ってところか?」
「何が言いたい」
「俺はこっちに来てから十年は経過しているんだよ。つまり、こっちの俺はそっちの俺よりも長く生きているってわけだ」
「十年だと!?」
「そうだ。だからお前よりも強い。簡単な話だ」
あの小さな子供が、俺より長く生きているだと? そんな話信じられない。それに、もし本当だとしてもだからって俺が負けるはずがない。
「そっちの天使と一緒にまとめて相手してやるよ。あ、でもせっかく面白い相手に会えたんだしここで殺すのはもったいないな……。そうだ、いいことを考えた。今日はもう逃げるなら逃げてもいい。そんで強くなってまた来い。俺はお前と同一人物だからな、俺もお前と同じで戦闘が好きなんだよ。だから、強くなったお前と戦いたい」
「調子に乗りやがって! やるぞツヨジョ!」
「もちろんです! こんな相手に負けるわけにはいきません!」
勢いよく飛びかかったが、俺とツヨジョはまったく相手にならなかった。俺もツヨジョも、何もダメージを与えることが出来ずに一方的に攻撃を食らってしまった。
「くそっ……。どうすれば!」
「傷が痛いならさっきの泉に入ってこいよ。全回復できるぞ?」
上から見下ろしながら余裕そうに少年はそう言った。
悔しいが、全回復したところでもう勝てないことくらい分かっている。
あの泉に入るのは、何か勝てる方法が分かってからで――いや、待てよ。
あの泉は、確かあらゆるものを回復するんだよな? なんせ、ミステの記憶まで回復させたんだ。ということは、ミステの目も回復しているんじゃないか?
いや、だがミステは先程意識が消えていたはずだ。ならミステの能力はもう使えないのか? 違う。再びあの泉で意識を取り戻せば、能力は使えるはずだ!
「シュカ! ミステをあの池に!」
「え? うん。分かった!」
俺の言葉に頷き、シュカは消えた。そしてしばらくして、意識の戻ったミステを連れてきた。
「いいかミステ。あの男を消せ」
簡単な話だ。倒せないなら消せばいい。それができる存在がここにいる。
これで俺の勝ちだ。この世界は変わる!
しかし――そう上手くはいかなかった。
ミステがいつまで経っても少年を消そうとしないのだ。
「おいミステ!」
何度も呼びかけるがミステは動かない。
「くそっ。何やってんだミステ!!」
これで全てが終わるんだぞ! これで長かった戦いも――
「出来ないよ!」
「!?」
初めて、ミステのこんな声を聞いた。こいつ、こんな声出せたのか。
「出来るわけないよ! だって――」
「だってあれは、わたしのお兄ちゃんだもん!!」




