sister - si + my + y = mystery
「なあ萌衣、なんで答えない?」
またミステを、少年は萌衣と呼んだ。ミステはそれに対して何も答えない。萌衣と呼ばれて、彼女は何を思っているのだろう。
その後も、少年はミステを萌衣と呼び続ける。理由は分からないが間違えて呼んでいる風にも見えない。名前の呼び方はさておき、過去にミステと何かしらの関係があった可能性は高い。だが――
「なあチビッ子。ミステは記憶を失っているんだよ。だから仮にお前とミステの間で過去に何かあったのだとしても、ミステは覚えていないだろうよ」
ミステは、俺と初めて出会った時にそれ以前の記憶は全て失っていた。覚えていたのは「ずっと一緒」という謎の約束だけ。
「記憶喪失ぅ? そんなわけないだろ。いや、第一記憶喪失だったとしてもさっき"神秘の泉"を通ったばかりじゃないか」
「神秘の泉? なんだそれ」
「ここに来る前に入っただろ? あれはただのワープ装置なだけでなく、あそこに入るとあらゆる状態から回復できるんだよ。たとえ記憶喪失であろうともね」
「そんなはず」
「そんなはずはないと思う? だったら試してみると良い。チカにやられて手が千切れた子が君達の仲間にいるだろう? あの子をあそこに通してあげな。そこの瞬間移動できる子がいればすぐに連れてくることができるだろ?」
何か企んで嘘をついているかもしれないが、俺達があそこを通ったと時には特に被害を受けたりはしなかった。万が一でも、腕が治るのなら敵の言葉だろうと乗らない手は無い。
「シュカ、頼む」
「任せて」
俺の言葉に頷き、シュカは瞬間移動した。
そしてすぐに、シュカは戻ってきた。傷一つ無い萌衣を連れて。
「あれ? さっきまでは腕が無かったのに」
自分の手を萌衣は不思議そうに動かした。
「ね? 俺の言った通りだろ。だから、萌衣の記憶が戻ったのも本当さ」
「え? 記憶? 私の? どゆこと?」
あとから来た萌衣は状況がちっとも理解できておらず、なんのこっちゃと首を捻る。
「なんか、あの子供がミステのことを萌衣って呼んでるんだよ」
「ど、どゆこと?」
俺の説明を聞いて、ますます萌衣は首を捻った。その気持ちは俺にもよく分かる。
とにかく、今はミステの記憶だ。思えばこの平行世界に来たきっかけも、ミステの記憶を取り戻すためだった。その後いろいろあって目的はすっかり変わってしまっていたが、もし本当にミステの記憶が戻っているとしたらそれはかなり重大な事だ。
「なあミステ、本当に記憶が戻っているのか?」
信じられないが、萌衣の腕を見た後では可能性は十分にあり得る。ミステの返事をしばらく待っていると――
こくり、とミステは頷いた。
「だから言ったろ? 記憶は戻っている」
記憶が戻るのは嬉しいことだ。だって、それはミステが望んだことだから。だが、妙な恐怖が俺の心の中にあった。
「なあミステ、記憶が戻っているなら教えてくれ。あの男はお前とどんな関係なんだ?」
ミステは何も答えなかった。というより、俺の声が耳に届いていないのか?
先程までは気づいていなかったが、よく見るとミステの目の焦点が消えていた。もしかしたら、さっきの頷きが最後の力を振り絞っての行動だったのかもしれない。
「おい、ミステ?」
少年だけでなく、俺の言葉にも返事が無い。
「あまりにも衝撃的なことを思い出して理解が追いつかず意識がすっ飛んじゃったって感じかな? まあ無理も無いか。あれだけのことを全部一気に思い出したんだし」
一体ミステの過去に何があったんだ。
「おいミステ、しっかりしろ!」
頼むから声よ届いてくれ。
「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ。そのミステってのは何? もしかして名前変えたのか? いや、変えるならもっと大胆に変えろよ。シスタからミステって、全然変わってないじゃないか。そうは思わないか、俺」
俺を見て、少年は確かに「俺」と言った。
「まさか、俺まで反応無しか? 困るんだが」
「俺は、お前じゃない」
俺はこんな幼くないし、幼い時もこんな容姿では無かった。
「あー、まあ分からないのも無理ないか。俺の方はこんな容姿してるからな。でも残念、お前は俺だよ。だってその顔、俺が"こっちに来る前"に何度も鏡の前で見た顔だもん。いやー、最初に見た時はびっくりしたね。あっちでの容姿のままの俺がこっちにいるんだもん。なんでいるのかは、正直分かんないけど」




