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最弱VS最強


 チカちゃんの足は、お兄ちゃんよりもずっと遅かった。

 それは今のチカちゃんの力が、わたしとシュカちゃんとミステちゃんを元に成り立っているからだ。いくらわたし達を遥かに超えた力を持ったとしても、お兄ちゃんには決して届かない。


「シスタ!」


 わたしの肩にチカちゃんが今にも触れそうになったところで、左手で手を繋いでいたシュカちゃんがほんの少しだけ先に瞬間移動した。

 さっきからずっとこれの繰り返しだ。

 チカちゃんがわたしを追いかけ、追いつきそうになったところで皆一緒に瞬間移動。幸いにもチカちゃんは飛び道具や遠距離技は無いようで、この方法で大分逃げることが出来た。


 もうすぐお兄ちゃんのいる場所だ。

 ここまでは割と順調に来た。だが、逆にここまで順調だとここから先上手くいかないのではないかという不安も襲う。


「アンタ達、マジでウザすぎ」


 何度も何度も攻撃を避けられたチカちゃんは、誰が見ても不機嫌なのが分かる。うぅ、怖い。

 

 いっぱい走って、お兄ちゃんのいる場所が見えてきた。

 技の発射まで、あと少し時間がある。


「さて、こっからだよね……」


 お兄ちゃんの技の放つ直線上に、なんとかチカちゃんと共に居つづけなければならない。

 ただし、ここからはシュカちゃんとミステちゃんの力は借りられない。

 なぜなら、ミステちゃんとシュカちゃんがこれから行う技を食らってしまうと、二人も無能力になってしまうからだ。それは絶対に駄目。シュカちゃんもミステちゃんも、凄い能力を持っている。そんな能力を失わせるわけにはいかない。


「シスタ……」


 不安そうな目で、シュカちゃんがわたしを見る。それに、私は笑顔で頷いた。大丈夫、わたしだって頑張れるってこと、見せてあげるんだから。

 

 ここだ。

 お兄ちゃん達は建物の中にいるので実際にその姿を確認することは出来ないが、ここからちょうど一直線上にある建物で間違いないと思う。


 指定の位置についたことで、シュカちゃんとミステちゃんはわたしから距離をとった。幸いにも、チカちゃんはわたしをいの一番に殺そうとしているので、その二人の方へ行くことは無かった。


「あれ? アンタ二人と別れていいの? 死んじゃうけど」


「し、死なないもん!」


 震える足を叩き、わたしは言った。

 残り時間はそこまで多くは無い。少しだけ耐えさえすれば、きっとチカちゃんを倒せる。


「ふーん。まあいいや。じゃ、せっかく一体一にさせてくれるなら、少しだけ楽しんじゃおっかな」


「た、楽しむって?」


「そう簡単には殺さないってこと。アンタは私を囮にしてその間に男をあの人に近付かせようとしてるみたいだけど、近づいたところで多分平気だしね。あの人なら」


 あの人というのは、この世界のトップの人だろう。本当はチカちゃんが思っているようにお兄ちゃんをその人のところに行かせるわけではないのだが、それにしたってこの自信はなんなのだろう。その人はお兄ちゃんより強かったりするのだろうか。いや、まさかね?


 なんにせよ、これはチャンスだ。わたしを殺さないでくれるのなら、それに越したことはない。


「じゃあまず、最初の一発」


「うっ……!」

 

 腹に強烈な一撃が入った。

 初めての痛みに、涙が出ないほど苦しい。わたしはお兄ちゃん達と違って痛みに慣れていない。だから、たった一撃でもとても辛い。そして更に、痛いことがあるとどうしてもフラッシュバックしてしまう。あの殺された日のことが。


「アンタ、痛みがめっちゃ辛いみたいだね。ドンマイ」


 私を殴ったことで少しイラつきが収まって来たのか、さっきよりも楽しそうにチカちゃんは言った。

 もし今の一撃で赤ちゃん産めない身体になってたらどうするつもりなのさ!


「でも……頑張る」


 お腹を押さえて、わたしは立ち上がった。


「ふーん、立てるんだ。根性あるじゃん。じゃあ、これはどう?」


「うぁッ……」


 脇腹に向けて、回し蹴りが炸裂した。新たな痛みに耐えきれず、思わず吐いてしまう。吐いたまま、身体が痛すぎて起き上がれない。


「汚いなぁ。それじゃ近づけないじゃん」


「うへへ。汚くて結構」


 どんなことになろうとも、諦める気なんてない。今ここで私が上手くやるかどうかで、全てが決まるんだから。


「シスタ……!」


 今にも止めようと、シュカちゃんが足を前に出そうとした。見れば、ミステちゃんも泣き出しそうな目で動き出そうとしている。


「へい……き」


 擦れた声でシュカちゃんに言う。これはわたしの勝負なんだ。他の人の手出しはいらない。


「うっ……!」


 倒れたまま、チカちゃんの足を掴んだ。少しでも抵抗してやる!


「あーもう、邪魔ッ!」


 そう言ってチカちゃんの手が、私の右腕を千切った。


「う、ぁああああああああああ!」


 痛い痛い痛い。燃えるように痛い。こんな痛いの耐えられない。


 諦めないと強がっていた私でも、流石に諦めたくなった。その時――


 後方から、真っ白な光が真っ直ぐに伸びてきた。

 そして、私とチカちゃんは、その光を浴びた。

 

「な、なにこれ」


 チカちゃんは、突然の光に戸惑っている、だけど私には分かる。これは、お兄ちゃんとツヨジョちゃんの光だ。

 光は暖かくて、気持ちよくて、わたしはゆっくりと目を瞑った。

 

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