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偽りの能力


「あれ? あいつはいないんだ?」


 トタースの城に辿り着いた瞬間、チカちゃんはそこにいた。


「あいつって、お兄ちゃんのこと? チカちゃんなんて、お兄ちゃんがいなくても倒せるんだけど?」


 少しでも怯んだら駄目だ。たとえ怖くても、強気にいかないと。


「ふーん、口が達者。あんた、まだ幼いっしょ? 幼いからまだ分からないのかな。絶対に勝てない相手ってもんを」


「むっかー! 幼くないし!」


「幼いでしょ。あんた含めて、他の二人も」


「ぐぬぬぬぬぬ」


 確かにチカちゃんよりは年下かもしれないけど、それでも幼くなんてないのに……。


「私まで幼い扱いとは、ちょっと認められないね」


 チカちゃんの言ったことに納得できなかったシュカちゃんが不機嫌そうに口を尖らせた。


「アンタは相変わらず腕がついたままなんだね。ほんと、どうなってるんだか」


 相変わらずシュカちゃんのことをこっちのもう一人のシュカちゃんと勘違いしているままなんだ。ウトちゃんは別人だって気づいてたのに。って――


「ねえ。ウトちゃんは?」


 ウトちゃんが敗北したということは大天使様から聞いた。けれど、それが本当かどうかはチカちゃん本人に聞くまでわたしは信じない。


「あいつ? あいつなら死なない程度に四肢切断、的な?」


「!?」


 ウトちゃんが負けるはずがない。だってウトちゃんは、あんなに頑張ってたのに。


「今頃監獄でだるまになってるんじゃない?」


「このっ……!」


『シスタ 落ち着いて』


「ご、ごめん!」


 危うく手を出しそうになったところで、ミステちゃんが止めてくれた。もし手を出していたら全てが終わっていたところだった。

 落ち着いて、相手の挑発には乗らないようにしなきゃ。


 お兄ちゃんとツヨジョちゃんの待機する場所は、この城から少しだけ離れたお家。そこにチカちゃんを誘導するのがわたし達のやるべきことだ。

 お兄ちゃん達の技は、30分ちょうどでお兄ちゃん達から一直線に発射される。ここに来るまでに10分ほど経過しているので、また戻るのに10分かかる。それでも一応10分ほどの余裕はあるものの、なるべく早く近くまでは行っておきたい。ならば、今するべき行動は一つ。ここで立ち止まらずに、チカちゃんをお兄ちゃんの近くまでさっさと誘導すること。


「あんたの相手をするのは私達三人。だけど、私達はそこまで強くない。だから少しハンデが欲しいんだけど、いい?」


 早速シュカちゃんがしかけた。


「ハンデ? そんなもんを良いよって言うとでも思ってるの? これは遊びじゃないんだよ。全員倒して終わり。それだけ」


 チカちゃんがハンデを受けることでのメリットが何も無い以上、やっぱりそう簡単に受けてくれたりはしないか。


「ハンデって言っても、そんな大したものじゃないの。場所をここから移したい。それだけ」


「場所を移す? あ、分かったかも。アンタ達は囮で、私がこの城から離れた間にあの男を潜入させるってわけね。それくらい、どんな馬鹿でも読めちゃうけど」


 最悪だ。本当の目的こそバレてはいないものの、チカちゃんがここから離れない方向に考えてしまった。これではお兄ちゃんのところまで連れて行けない。

 なんとかしないと……。でも、どうやって? 

 少し考えると、すぐに一つだけ策を思いついた。でも、上手くいくかな? いや、悩んでいる暇なんて無い。さっさと行動に移さないと!


「お兄ちゃんは、もう……」


 暗い顔で、私は語りだした。


「お兄ちゃんはあなたの攻撃で致命傷を負っていたの。だから……」


 遠くを見上げ、涙を零す。昔からお母さんにものをねだる時に使っていた嘘泣きがここで役に立つとは。


「何? まさか死んだの?」


 お、どうやら上手く騙せてるみたい。


「そう……だよ。だからわたし達は、あなたの敵討ちに来た。つまり、お兄ちゃんはいない!」


 決まった。これで、チカちゃんは……!


「いや、そんなの信じないっしょ普通。はぁ……。もう面倒だから、さっさとぶっ飛ばしちゃお」


 馬鹿を見るような目でわたしを見て、チカちゃんは溜め息をついた。


「そんな……」


 上手くいかなかった。このままでは本当に倒されてしまう。


『急がないとまずい』


 わたしとシュカちゃんにしか見えない文字で、ミステちゃんは告げた。

 まずいって言ったって、どうしたら。


「ねえチカ、あんたって地下の人だよね」


 先程の失敗で落ち込まずに、シュカちゃんが次の一手に出た。


「ど、どこでそれを……!」


 まさか知られているとは思っていなかったのか、チカちゃんが今まで見た事無い焦りを見せた。


「どこでも何も。ただの能力」


 シュカちゃんもチカちゃんが焦っていることに気づき、有効策だと信じて続ける。


「アンタの能力はただの移動でしょ? そんでそこの無口の子はアイスから聞いたけど今は使えない何でも消せちゃう能力。あっ……!」


「やっと気づいたみたいね。わたし達は全員特別な能力を持っている。そしてこの中に一人だけ、あなたはまだどんな能力か知らない相手がいる」


 流石シュカちゃん! これなら誰もが信じるはず。普通は大した能力も無いような人間が紛れているとは思えないもんね。


「そこのちびっ子にそんな力があろうとはね……」


 チカちゃんがわたしを見てそう呟いた。よし、わたしもこの嘘に便乗しないと。


「そう。だから地下の人間ってこと以外にも、たくさんの秘密が知れちゃうよ?」


 もちろんそんなことは無いのだが、さも本当のことを言っているかのような笑みを見せた。


「となると、殺しが嫌いなアタシでも、こればっかりはしょうがないよね」


 かかった。

 シュカちゃんの助力もあって、チカちゃんはわたしを襲うことに決めたようだ。

 わたしを一度睨むと、シュカちゃんは地を蹴って向かってきた。


「くっ……。いつもより足が遅いな。これだから弱い子との戦いは嫌いなんだよ」


「ひぐッ……!」

 

 近づいてくるチカちゃんを見て、私は思わず泣いてしまいそうになった。

 この人は、本気でわたしを殺そうとしている。正直怖い。

 何度も戦ってきた皆と違ってわたしは痛いことには慣れていないし、痛いのは嫌だ。

 それに、あの殺された時の記憶が――

 死は決して良い気分ではない。そんな死に、私はもう戻りたくない。


「うぉぉぉおおお!!」


 恐怖を吹き飛ばすため、わたしは叫んだ。そして、お兄ちゃんのいる場所へと走り出した。

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