信じ、任せる
「お久しぶりです、カプチーノさん」
大天使様に呼ばれ、彼女は現れた。相変わらず神々しいまでに輝く翼が美しい。
「その様子だと、どうやらもう既に俺達の知ってるツヨジョみたいだな」
「はい。意識の統一は初めての経験でしたが上手くいったようです」
かつて俺が圧倒的に勝利し、そして同等の力までのし上がってきた女――ツヨジョ。彼女が味方にいるだけで、かなり心強い。
「そいつはよかった」
もし失敗されてたら俺を知らないツヨジョと共に戦わなければならなくなってたからな。
「にしてもあなた、以前出会った時とは全く雰囲気が違いますね」
「そういうお前もな」
以前とはまるで別人かと思えるくらい違う。戦わずとも分かる。明らかに前回会った時よりも強い。
「幸い力はどの世界に行っても引き継ぐようです」
「引継ぎではないですよツヨジョ。プラスです。二人のツヨジョの力が合わさったのです。まあこちらでない方の世界でのあなたが強すぎるせいでほとんど意識統一での変化を感じていないのでしょうが」
「そうだったのですか。良かったです」
変化を感じないほどあっちで強くなったのか。ほんと、敵ではなく味方で良かった。
「さて、技を習得する為に私が必要なのですよね?」
「はい。能力無効化を習得できるのはあなた達のような最強格の二人が力を合わせなければいけません。ツヨジョさん、勿論やりますよね?」
「ちょうど修行ばかりでは退屈していたところでした。強者と戦えるのなら喜んでやりましょう」
すっかり戦闘大好き人間になってしまっているツヨジョに微笑みつつ、俺は頷いた。
「サンキュー。お前が味方なら百人力だよ」
「その代わり協力が終わったら、分かっていますよね?」
「再戦だろ? むしろこっちからお願いしたいくらいだ」
ツヨジョとの約束なら喜んで受け入れる。戦ったらきっと楽しいに違いない。強くなった俺の力を見せたくて仕方がない気持ちをぐっと我慢すると、ツヨジョの目をグッと見つめ宣言した。
「勝とう、二人で」
「二人じゃないでしょ?」
俺とツヨジョの間に入って、シュカは言った。
「そうそう! わたし達も戦うよ!」
『全員気持ちは同じ』
そうか。そうだよな。
俺は一人ではない。二人でも無い。五人だ。
「あなた達の望み通り、チカさんとの勝負は全員でなければ成立しないです」
俺達の決意を見て、大天使様が切り出した。
「まず、能力無効化という技。この技を習得するのにはそこまでの時間はかからないはずです。今日一日があれば十分です」
難しくない技なのは素直に嬉しい。だが、大天使様の顔を見るに何か問題があるんだろうな。
「ただこの技、発動するのにかなりの時間がかかります。そして、時間経過後には溜めておいたりはできず勝手に発動してしまいます。更に、準備を始めたら発動まで一切移動できません」
「だから皆の力が必要ってわけか」
「そういうことです。ツヨジョとカプチーノさんが発動できるまでの間、他の皆さんには時間稼ぎをしてもらいます」
俺とツヨジョが技を発動する以上、他のメンバーがなんとかするしかない。たとえ戦闘に秀でてなくてもだ。
「分かった。任せて」
大天使様の話を聞いて、萌衣は決意に満ちた目で頷いた。
「でも大丈夫か? 相手はあのチカなんだぞ?」
俺でさえあいつを相手に時間稼ぎなんて出来る気がしない。それなのに、萌衣達に出来るのだろうか。
「大丈夫。時間稼ぎなら何度か経験はあるし」
「そうは言っても、相手は今までとは格が違うからな……」
これ以上強い相手はいないと確信出来るレベルの敵。そんな相手に戦闘向きではない三人が時間を稼ぐのはかなりのハードルの高さだ。
「あ、そうだ!」
一つ良い作戦を思いついたようで、萌衣が手を叩く。
「お兄ちゃんとツヨジョちゃんの技が発動できるまで安全なトタースではない場所にいて、発動する瞬間にチカちゃんのところへシュカちゃんの瞬間移動で行くってのはどう? これなら危険も少ないでしょ? まあわたしの役目が無くなっちゃうけど……」
「良い案だとは思うが、それは無理だろうな」
「え? なんで?」
理由の分からない萌衣に、俺は分かりやすく説明した。
「簡単なことだ。シュカはトタースの一部にしか行った事が無い。そして、行ったところ以外には瞬間移動ができない。そして、シュカが必ず行ったことのある場所にいてくれるという証拠は無い」
「あ、そっか……」
時間が経ったら勝手に発動してしまうというのが厄介だ。もしそうでないのなら、シュカがチカを探しておいて場所が分かったら俺とツヨジョがそこに瞬間移動ってのもありだったんだけどな。勝手に発動だとそんなに上手くはいかない。なぜなら、技の発動時間ちょうどでシュカがチカを見つけられるなんてことはまずないからだ。チカが見つかる前に技が発動してしまい準備しなおすことになるか、あるいは発動前に見つけて技の準備が終わらない間に別の場所にチカに移動されてしまうかのどちらかだ。チカを見つけてから準備を始め、シュカがずっと尾行し発動時間ちょうどに瞬間移動して俺達を連れてくるという手もあるにはあるが、相手はあのチカだ。尾行はすぐにバレるだろう。
「その能力無効化って技の技範囲は?」
「急ごしらえで覚えるものだと、幅10メートル高さ2メートル長さ50メートルといったところですかね。この部屋にかかっているほどの大掛かりなものは残念ですができません」
「そうなると、難しいな……」
トタース全体に届くほど大きな技ならばチカがどこにいても関係なかったんだけどな。
『作戦 決まった』
突如現れたミステの文字に、皆の注目が集まる。そういえばミステの文字は能力ではなく魔法だからという理由でここでも使えるんだっけかと思い出しつつミステに訊ねる。
「どんな作戦か教えてくれるか?」
俺の問いに、ミステはこくりと頷いて文字を出した。
『まず トタースのどこかでカプチーノとツヨジョは技の発動までの準備をする』
『そして 技が発動する前にその場所にチカを連れてくる』
分かりやすい作戦だが、色々と疑問が残る。
「連れてくるってのはどうやって?」
多分そこが一番難しくて厄介な部分だ。
『私とシスタとシュカの三人 頑張る』
ミステの答えはすぐに出てきた。だがそれだと、一番最初の問題である三人が時間稼ぎできるのかどうかということが解決されていない。時間稼ぎの部分が連れてくるに変わっただけだ。結局のところ、ほとんど振り出しに戻っている。
「出来るのか?」
何故ミステがこの作戦を提案したのかを考えつつ、俺は質問した。おそらく、わざわざこの作戦を提案したのには意味がある。
『出来るかできないかではない やる』
その答えを聞いて、ミステの真意を完全に理解し俺は頷いた。
「よし分かった。それで行こう」
「いいの? お兄ちゃんのことだから、危ないから駄目とかいうかもと思ったけど」
先程時間稼ぎを任せてと言った後に俺があまり良い反応をしなかったからだろう、萌衣は俺に質問した。
「一緒に戦うって言ってくれたからな。だったら、俺はお前らと戦うよ」
ミステがこの作戦を提案したのは、一緒に戦うと決めたからこそだ。それなのに、俺はその言葉を聞いたすぐ後の萌衣の任せてって言葉に勝手に不安がって……。ほんと大馬鹿野郎だよ俺は。萌衣を信じて、任せての言葉にすぐ頷いていればよかったんだ。
「お兄ちゃん!」
一緒に戦えると分かって、萌衣が笑う。
「決まりだね。じゃあ私とミステとシスタで、カプチーノ達が技を習得している間にどうやってチカを連れてくるかを考えよう。ちなみにその技の発動時間ってのはどれくらいかかるの?」
「30分くらいですね」
「30分!?」
かかるとは言っていたが、まさかそこまでとは。
「30分、分かった。私やるよ! 任せてね、カプチーノ」
自信に満ちたシュカの表情を見て、俺の不安はもう全て消し飛んだ。大丈夫、彼女達なら絶対にやれる。




