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勝つ為の切り札

 

「さて、すぐに意識の統一をしますので」


 他の世界にいる自分と意識が統一されるってのは、一体どんな感覚なんだろう。自分でない自分と今ここにいる自分が一つになるということに、なんとなく恐怖を感じてしまうのは俺だけなのだろうか。大天使様は何も不安な表情をすることなく始めたわけだが。


「終わりました」


「随分と早いな。うーんでも、何も変わって無くないか?」


 なんていうか、する前とした後でちょっとは何か変わったりするもんなんじゃないのか? 雰囲気すらちっとも変っていないんだが。


「私の中では既に以前とは違います。今の私はあなたのことを既に知っている。それに、あなたの予言もできますよ」


「予言も?」


「はい。そもそも予言というのは、自らの世界に生まれた人間にしか使えないのです。ですからここの世界の私には今までは使えませんでした。更に言うと、一度他の世界から人が来た場合その時点でその人物に関わること全ての予言ができなくなります。あなたの場合は世界に直接干渉している為、実は世界の今後がまるごと予言できなくなっていました」


 つまり、通常は意識を統一させなければ大天使様の予言の管轄は一つの世界だけってことか。まあ普通はそれで十分だしな。


「ん?」


 さっき、自らの世界に生まれた人間にしか使えないって言ったか? だとすると、俺の予言は出来ないはずじゃないか? 何せ、俺は異世界、異なる世界の住民だ。

 でも予言は出来る。萌衣を生き返らせるための予言は確かにすることができた。一体どういうことだ?

 俺は正真正銘違う世界に生まれた。それは間違ってはいないはずだ。俺が生まれた時の動画を親に何度か見せてもらったこともある。

 俺のいた世界と転移した後の世界、その二つは別に平行世界という訳ではない。つまりここで大天使様の指している世界とは、異世界と俺のいた世界をひとまとまりにして、平行世界ごとに別の世界と呼んでいるって感じなのだろう。

 なんにせよ、俺達の側の世界の大天使様が来た以上予言は行えるという事実は変わらない。


「どうかしましたか?」


「いいや何も」


「そうですか。さて、チカさんを倒したいのですよね?」


「ああ。俺はチカを倒せるのか?」


 単刀直入に、今最も知りたいことを質問した。


「そもそも、チカさんが何者なのか、あなたは知っていますか?」


「何者なのか?」


 あれだけのチート能力。何も特別なことのない一般人と考えるのはおかしいということくらいは分かる。

 俺と同じ、異世界の人間だったりするのか? それなら色々と納得がいく。俺と同じようにトラックに貰った紙に能力を書いたのならばどんな能力を持っていてもおかしくはない。


「あなたが考えていることはなんとなく予想できますが、間違っていますよ。彼女は、地下の住民なのです」


「地下?」


「はい。地上に世界があるように、地下にもまた、別の世界があるのです」


「そもそもこっちの世界では皆地下に住んでいるじゃないか。トタース第二支部だってあるのは地下だ」


 トタースの支配から逃れる為、こっちの世界では皆穴を掘って地下に身を隠し生活している。


「ちょっと言い方が悪かったみたいですね。地下というのは、もっともっと、もっと深い所のことを指しているのです」


「もっと深い所って、具体的にはどの辺だよ。あんまり地下すぎると、マントルがあってとても人が住める世界ではないよな?」


「まあ、普通はそう習いますね。ですが、あなたはそのマントルを実際に見た事があるのですか?」


「いや、ない」


「ならば、あなたが知ったその情報、本当かどうかを絶対的に確定出来るわけでもないでしょう」


「そう、なのか?」


 俺の世界では、誰でも知っている一般常識レベルのこと。それが、違う? それは異世界だからなのか? それとも……。


「まあなんにせよ、チカさんが不思議な能力を持っているのはそういうことなのです。ちなみに、地下の住民は全員がその能力を持っていますよ。なので、地下の世界の人同士で戦えば能力が発動することはありません」


 なんとなく大天使の言いたいことが分かって来たぞ。


「つまりチカを倒すには、地下の世界の住民を連れてくればいいってことだな!」


 それで、俺は勝てる。


「いいえ。残念ながら、地上の人間が地下に行くことはできません。そしてそれと同様に、本来は地下の人は地上に行くことはできません。なので、そんなことはできません」


「じゃあ」


 じゃあやはり勝てないじゃないか。


「不可能、と思いましたか? ですが安心してください。一つだけ、あるのですよ」


「本当か!」


「ええ」


 微笑みながら、大天使様は頷いた。


「それは一体どんな方法なんだ?」


 俺の質問に、大天使様はゆっくりと答えた。


「古来より天使の間で伝わる技"能力無効化(ボイド)"」


能力無効化(ボイド)……」


 名前だけでは、それがどれほど凄い技なのかは分からない。


「はい。この場で、能力が使えないことは既にご存知ですよね?」


「ああ」


 もし使えていたのなら、とっくに大天使様にウインクをしていたところだ。こんな便利な相手、落とさない理由は無いからな。


「何故だか、分かりますか?」


「まさか、その能力無効化(ボイド)って技がかかっているからなのか?」


「はい。この場には、遠い遠い昔に英雄二人が能力無効化(ボイド)をかけました。なので、能力が使えません」


 そういうことだったのか。

 疑う必要も無い。今ここで能力が使えないのが事実である以上、その技は本物だ。


「じゃあ、その技の使い方を教えてくれ!」


 早くそれを覚えて、チカをぶん殴りたい。正々堂々の能力無しでの勝負だったら、俺は絶対にチカに負けない。


「もちろんそのつもりですが、あなた一人では無理ですよ」


「無理?」


「はい、能力無効化(ボイド)の使用条件は、限界を超えた二人の戦士が必要です」


 限界を超えた二人の戦士……一人は俺で確定として、もう一人は――


「ウトと一緒に使えば!」


「残念ながらウトさんは敗れました。今頃彼女は監獄にいますよ。殺されるのも時間の問題でしょう」


「そんな……」


 なら早く助けに行かないと! 今ならまだ生きている! 早く!


「落ち着いてカプチーノ!」


 慌てていた俺に、シュカが叫んだ。


「ウトがそう簡単に殺されると思う?」


「そうだよ! ウトちゃんを信じようよ!」


 そうだ。ウトを信じないでどうする。あいつは俺の知っている時よりも更に強くなった。殺されるはずがない。


「ゴメン皆。もう大丈夫だ」


 萌衣とシュカの言葉で、俺は落ち着きを取り戻した。


「ウトは大丈夫。だから、今は彼女のことを信じてカプチーノのできることを考えよう」


「そうだな」


 シュカの言葉に頷き、俺は考えた。俺以外の戦士は誰がいるか。

 ウトが駄目となると……。

 俺は一緒に来てくれた三人の嫁の顔を見た。

 駄目だ。この三人は戦闘は出来ない。そうなると別の人間が必要だが、この世界の強い奴らは全員敵なはずだ。


「誰か忘れていませんか?」


「え?」


 考え込んでいた俺に、大天使様が言った。


「かつてあなたと互角の勝負をした人物、そして、今すぐここに来ることのできる人物」


「互角……。あ!」


 そうか! あいつはまだ敵の仲間になっていなかったのか!


「さて、早速呼びましょうか。もう一人の最強の人物、我らが天使最強の戦士、ツヨジョを」


 ツヨジョが味方になってくれることが、俺はたまらなく嬉しかった。あいつは強い。あいつとなら、絶対にこの世界を変えられる。


「もちろんツヨジョも天使なので意識を統一できます。きっとあなたとツヨジョでならできますよ――どんな能力でも無効にする技、能力無効化(ボイド)を」


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