踊り子
「準備ができました」
外に出ていた爺さんが入口から顔を出し、俺達にそう告げた。
祭りの準備とやらの間に少しは眠れたとはいえ、まだ寝たりない。
が、行かないわけにもいかない。
外に出ると、日は完全に落ちており、火の灯りのみが辺りを照らしていた。
ほぅ。
急ごしらえにしては、装飾が色々な所に施され、この村に来たばかりの時と比べて雰囲気が大分変わっており、誰が見ても何かがこれから行われることが分かるようになっていた。
「では、改めまして、旅のお方の歓迎祭の、始まりでございます!!!」
現在のこの集落の長らしい爺さんの息子の男が、高らかに叫ぶ。
この男は、先程俺達のところに訪ねてきて、地面に頭を擦りつけてお礼をしてきた。相当な息子大好きっ子らしい。
男の宣言を合図に、四方八方からドコドコドコドコと、太鼓が連続で叩かれる。
「さてまずは、ここに住むようになって十ヶ月、美貌の少女シスタの踊りでございます!」
ん? シスタ?
なんだかどこかで聞いたことのあるような名前のような。
「どうもどうも!」
紹介されて、いかにも踊り子といった感じの服装の、少し露出度高めの女性が現れた。
顔は布で隠れており、果たしてどれほどの美貌なのかは分からないが、スタイルを見ただけでも相当レベルの高い女であることが分かる。
なんでこの子はここに住むようになったんだろう。
十ヶ月前に一体何が。
「えーでは、躍らせていただきます!」
キャピキャピとした声を上げ、そう宣言すると、シスタは踊りだした。
「ほぉ」
素人目でも分かるほどの完成度の高さに、思わず唸る。
いきなり「どうもどうも!」と言って登場した女とはとても思えない、上品な舞い。
これなら何時間だって見てられそうだと思えるくらい美しい。
一瞬だったのか、或いは長かったのか、気が付いたら踊りは終わっていた。
「ありがとうございましたー!」
相変わらずのキャピキャピ声でシスタは退場した。
ふむ。踊りというのも良いものだな。
その後も俺達は色々な催し物を見た。
口から火を吐くのを見たりちょっとしたマジックを見たり。
それらが終わると、今回の祭りのメインであるらしい超豪勢な食事が用意され、俺達はそれを食べた。
正直かなり旨かった。夢中で食べ、あっという間に完食してしまった。
「どうですかな、祭りの方は」
祭りが一段落つき、爺さんが俺達の様子を窺いに来た。
ふんふん!
ミステは食事に凄く満足したらしく、目を輝かせながら頷いている。
「いやぁ、想像以上に楽しめてるよ。ここに来て良かった」
嘘偽らざる正直な感想だ。本当に想像以上。
「ありがとうございます。そう言って頂けると私達も嬉しいです」
「特にあの踊りは良かった」
トタースにはあそこまで踊れる女はいない。だからこそ、あの踊りには感動した。
「それは良かったです。シスタはまだ新人なんですが、呑み込みが早くて。あっ、良かったらシスタをここに呼んできましょうか。直接凄いと言って貰ったら、シスタもきっと喜びます」
「いや、別にそこまでは!」
「おーい、シスター!」
俺の言葉を聞かずに、爺さんはシスタを呼んでしまった。
正直一々お礼とか面倒くさいんだが。
爺さんの呼びかけに「はーい!」と答えて、トテトテとシスタと呼ばれた女は来た。
「なんですかぁ?」
「この旅のお方が、シスタの踊りを褒めて下さってな」
「ほんとですかぁ! ありがとうございます!」
「ああ、本当に良い踊りだった。って、ん!?」
先程まで布に隠されていた顔。
その顔が、今は全く隠されずに見えているのだが、それを見て、俺はかなり驚いた。
ひょっとしたらこんなに驚いたのは人生で一番かもしれない。
「お、おま、おま、おまえ!」
「え? 私がどうかしましたか? って、あー!!!」
シスタと呼ばれていた少女の方も、ようやくとんでもない事実に気付いたらしい。
「お兄ちゃん! お兄ちゃんだよね!」
「お前は、萌衣だよな?」
なんということだ。
俺の前にいるのは、本来この世界で出会うことなどありえない――実の妹だったのだ。




