平行世界の大天使様
また、ここへと来た。
ここが、正真正銘最後の希望となる。ここが駄目なら、俺はこの世界を変えられないと思ってもいいだろう。
俺達が来た場所は、ラソという空に浮上する街だ。俺達のいた世界ではこの街へ行くには案内人がいたのだが、この世界ではそんな人はおらず空へと行く円盤は無造作に解放されており、簡単に行けるようになっていた。
これは、幸と見るか不幸と見るか。それは、ラソへと着いてすぐに分かった。
「まさか、この街でさえこんなことになっているとはな」
空の街であるラソは、地上にある数多の街と同じようにボロボロになっていた。俺達の世界では天使がたくさん飛んでいたが、この世界では全くそれらしき人は見当たらない。あるのは瓦礫の山だけ。
「これじゃあひょっとして大天使様も……」
萌衣の言うとおり、大天使様がいない可能性も非常に高いと思う。
『信じるしかない』
「だな」
悪い方で考えるよりも、良い方を信じた方がいい。
しばらく歩いてみたが、ラソへと来た円盤と同じような、俺達のいた世界で見た大天使様の場所へと行く円盤を見つけることは出来なかった。このままでは、大天使様に会うことができない。
「で、円盤が無いならどうやっていく? 分かってるとは思うけど、私は一度行った場所にしか瞬間移動できなくて、こっちの世界ではここに来るのは初めて。だから大天使様のところへ瞬間移動なんて出来ない」
「んなことは分かってる。第一、大天使様がいるところには行った事があったとしても多分瞬間移動なんて出来ないんじゃないか? あそこ確か能力使えないだろ」
「あー、そういえばそうだったね」
大天使様のいる場所は、俺のウインクはもちろんのことあらゆる能力が使えない。
もしかしたら、そのおかげで襲われずに無事だったりもするかもしれない。
「うーん」
俺と萌衣とミステとシュカの四人では、ここから先どうするかをすぐに思いつくことが出来ない。こんな時にカリバがいてくれれば……。いや、違う。カリバがいなくても俺達は出来るってとこ、見せてやらないとな。今もきっと見守ってくれているはずのカリバに怒られちまう。
《あなた達は、一体……何者ですか?》
しばらく皆してどうすればいいかを考えていると、突如頭の中に直接声が聞こえた。俺以外のメンバーも慌てている所を見るに、どうやら声が聞こえたのは俺だけではないらしい。
「お前は、大天使様か?」
声を聞いてすぐにそれは分かった。大天使様の声は、普通の人の声とは違い、文字通り天使の声だ。こんな声、一度でも聞いたことがあれば忘れるはずがない。
《私を知っているのですね。私はあなたのことを知りませんが》
「おかしいな。大天使様ってのは未来を知っているんじゃないのか? だったら俺のことも、俺が何をしようとしているのかも分かるはずじゃないのか?」
大天使様は予言が出来る。だからこそ萌衣は生き返った。俺がここにこうして来ることも、予言をすれば知れたはずだ。
《そのはず、なんですけどね。何故でしょう》
「何故でしょうって、まだ予言をしていないとかじゃないのか? ちょっと今すぐ予言とやらをやってみてくれよ」
もし仮にこっちの世界の大天使様が予言ができない程度の存在なのならば、役に立たない可能性が高い。頼むからできてくれ。
《人の予言ならともかく、自分の未来のことは大天使ともなれば感覚で分かるものです。一々何かをせずとも》
「だったらなんで俺のことを知らないんだ」
《さあ。それが分かれば苦労しませんよ。そもそもあなたの存在、いや、あなた方全員の存在は私の知る過去未来共にありません。失礼ですが、お名前は》
「カプチーノだ。他のメンバーは―」
《カプチーノ……! なるほど、そういうことでしたか。他のメンバーの紹介は結構ですのでそこで待っていてください。すぐにあれを用意します》
どうやら何か思い当たる節があったらしい。ほとんど待たずに、俺達のいる場所に見覚えのある円盤が現れた。これは、大天使様のいる場所へと行ける円盤だ。
《それに乗ってください》
言われるがままに、全員その円盤へと乗った。しばらくすると、懐かしい場所へと着く。
「相変わらずでけえなおい」
とても大きな大天使様の姿には、相も変わらず驚かされる。
「その口振り、私を知るだけでなく会ったことがあるようですね。ですが、私には記憶にありません。最初はどういうことなのかと戸惑いましたが名前を聞いてすぐに一つの答えに辿り着きました。間違いありません。あなたは平行世界の住人ですね」
「当たりだ。そう、俺は平行世界の人間だよ」
まあ正確には、平行世界に異世界転移してきた人間だがな。
「そうでしょうね。では、あなたのいた平行世界の世界座標などは分かりますか」
「せ、せかいざひょう?」
初めて聞く言葉だ。世界そのものに座標なんてあったのか?
「その様子だとどうやら知らないようですね。では、その世界の特徴を教えていただけますか?」
「特徴といってもな……」
何を言えばいいのかが分からない。
「何でもいいですよ。あ、でしたら、そちらの世界の私と話したことを教えていただけますか?」
「大天使様と、その世界で話したことを言えばいいのか?」
「はい。それである程度は世界を特定できると思います」
「それなら伝えられるが、俺の世界を特定してどうするんだ?」
世界がどこだか分かったところで、この世界には関係ないように思えてならない。
「天使は、他の平行世界の自分自身と、意識の統一をすることが出来ます」
「えーと、それはつまりどういうことだ?」
「あなたのいた世界を知ることで、私はこの世界の大天使であると同時に、あなたの世界の大天使にもなるということです。もしもあなたの世界の大天使と私が合わされば、きっとあなたがここを訪れた目的も果たされることでしょう」
「ホントか!?」
「はい。あなたの目的くらいなら、予言を使わずにももう分かっていますよ。今このタイミングでここに来たということは、あなたの望みはこの世界の改変、でしょう? 任せてください。私はこの世界がどのような世界であろうと構いませんが、わざわざ平行世界から来たあなたの求める世界というものに興味があります。ですので、全力でサポートを致しましょう」




