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信じているからこその選択


「チカ、チョットイイデスカ?」


 皆の想いを背負ってウトは話しかけた。彼女の行動が成功するかどうかで全てが決める。責任重大な仕事に、心臓はバクバクと鳴っている。


「何? というかさ、なんでアンタ敵さんと仲良くしてたわけ?」


「ナ、ナカヨクナンテシテナイデスヨ」


 早速の身バレしかけてしまいそうな質問に、ウトは動揺してしまった。


「どう見たってしてたじゃん。っていうかアンタ、色々いつもとおかしくない?」


「オ、オカシイ? ナニガデス?」


 もうバレてしまっているんじゃないか。そんな不安がウトの体を震わせ、どうしても違和感を生んでしまう。


「なんていうか、ウトはもっと弱そうな子だったはずなんだけど、アンタはちっとも弱そうに思えない」


「ソ、ソンナコトナイデスヨ。ワタシハイツモドオリ」


 なんという理由だろうか。きっと、数々の強者を倒してきたからチカだからこそそこに気づけたのだろう。


「ま、なんでもいいや。で、用って何?」


 幸いにも、まだ完全にバレたわけではないらしい。そりゃそうだ。そんな簡単にバレるはずがない。何せ容姿は全く同じなのだから。


「アノ、シュウゲキハチュウシダッテ」


 小さいながらも、きちんと要件を伝えることは出来た。後は、チカが信じるかどうか。


「中止ぃ? なんでさ」


 どうやらチカはすんなり信じたりはしないようだ。何か明確な理由を求めている。


「エート……」


 とっさに聞かれた質問の答えを、すぐに用意することが出来なかった。そのわずかな時間の隙を、おかしいと思ったチカは追及する。


「ねえ、やっぱりアンタおかしいよね?」


「ソンナコト……」


「さっきも言ったけどさぁ、アタシこれでも一応アンタの上司なわけ。アンタより後に入ったアタシが突然上司とか言われても納得できないだろうけどさぁ。だからって隠しごととかしてるなら――潰すよ?」


 全くやる気のなさそうな言葉の最後に、一瞬だけ鋭い棘があった。その棘は、強者であるウトの足ですら怯ませる。

 だが、ウトは何があっても諦める気は無かった。大好きなカプチーノの為にも、失敗するわけにはいかない。


「カクシゴトナンテシテイマセン」


 堂々とした態度で、ウトはそう答える。


「へぇ~」


 全く納得していない表情で、チカは見るからに面倒そうに言った。


「ねえウト、アンタのその中止になったって情報は、どこから入ってきたの?」


「モチロン、イチバンウエノヒトカラ」


「一番上の人って、具体的に誰よ」


「エート……」


 ウトは当然、トタースの一番上の人が誰なのかなんて知らない。だから、答えることはできなかった。


「おっけ、もういいや。なんとなく分かっちゃったかも。アンタ、ウトじゃないでしょ」


「っ……!?」


「顔も話し方はそっくりだけどさ。それだけしか同じじゃない。他は全然違う。それにさっきの回答。あの人の名前すらすぐに言えないでアタシを騙そうだなんて、随分とアタシも甘く見られたもんだね」


「ダ、ダマシテナンカ……ウッ!?」


 突然、チカの拳がウトの腹部に叩き込まれた。強烈な一撃で、チカは軽く眩暈を起こす。


「まあもし、仮にあんたが本物だったとしてもさ。ぶっちゃけアタシがアンタに何かしたところで、何も起きないんだよね。アンタは事故死したってことにすればいいだけの話だからさ。そういうわけなんで、悪いけどもう何を言われようとアタシはここを襲撃する。襲撃が中止って命令が本物だった場合、その命令の伝達は失敗したってことで。さて、早速壊していくけど、アンタ止める? 止めるなら、敵とみなすけど」


「ソンナ!?」


 ウトの抵抗は、何の意味も生み出すことができなかった。もう今から何を言おうと無駄だろう。チカはもう、ウトをウトとして見ていない。

 

「くっ……」


 これで、俺達の成す術は無くなった。

 あんなにやる気の無さそうな目をしているのに、何でこういう時に限ってこんなに鋭いんだ。どうやら俺達は、チカを甘く見すぎていたらしい。


 もうここで、全て終わりなのか……。

 昨日の今日で俺が勝てるわけは無い。挑めばやられ、挑まなくてもやられる。この世界は、変わることなく今の状態が続く。


「イッテ……!」


 諦め気分だった俺達の耳に、ウトの声が聞こえた。ウトは俺達が気づいたことを確かめると、腹の底から叫んだ。


「イッテクダサイ!!」


 作戦を失敗しても、俺と違ってウトの目の炎は消えてはいなかった。ウトはまだ、諦めていない。


「行ってくださいって。瞬間移動するにもあいつは瞬息で手を」


「ワタシガ、ナントカシマス。ダカラ」


 ウトは自分の失敗を自分の手で取り戻そうと、必死に訴えた。まだ諦めたくないと、まだ自分には出来ることがあると、そんな気持ちが伝わってくる。


「そんなこと言ったって!」


 そんなことさせたら、ウトが傷ついてしまう。ウトは大事な仲間だ。傷つけたくない。


「お兄ちゃん!」


 躊躇う俺に、萌衣が叫んだ。


「まさか、ウトを置いて逃げるとかいうんじゃ」


「言うよ」


 真剣な目で、萌衣はそう答えた。


「おまえ!」


 萌衣にとって、ウトは大事ではないというのか? 俺がいない間の一週間で、ウトとの仲は無くなってしまったのか?


「わたしは、ウトちゃんを信じてるから。だから、置いていく」


「え?」


「ここ数日、今日だって、ウトちゃんはずっと強くなるために頑張ってた。ウトちゃんは、こんなところで負けるほど弱くない」


「だからって、萌衣もチカの能力を知ってるだろ? あいつは」


「わたしは、ウトちゃんを信じてる」


「萌衣……」


 萌衣は本当に、ウトが負けるなんて全く思っていないらしい。たとえチカの能力を知っていようとも、その意志が揺らぐことはない。


「シスタの言うとおりだよ。ウトは強い。ま、つい最近戻ってきた誰かさんはまだ知らないと思うけどね」


 萌衣の意見に、シュカも同調した。


「シュカちゃん、行こう」


 萌衣は、シュカの手を握った。もうすぐにでも瞬間移動する気のようだ。


「分かってる。カプチーノも、早く私の手を握って」


 シュカが、俺に手を差し出す。


「でも!」


「ここで行かないのは、逆にウトを信じていないことになるよ。ウトを信じているならここでどうすればいいか、分かるよね?」


 シュカの言葉を聞いて、ウトが頷く。行ってくださいいう想いが、熱いほど伝わってくる。


 どうやら行くしかないみたいだな。

 きっとウトは、チカには勝てないだろう。いくら強くなろうとも、その結果は変わらない。萌衣のように、勝利を信じることは出来ない。

 だが、ここで行かなきゃ世界は変わらないし、ウトを裏切ることになる。ウトを信じるならば、選ぶ選択肢は一つしか無い。


 俺は、ずっと差し出されていたシュカの手を握った。シュカは二カッと笑うと、俺の手を強く握り返した。


「なーにアンタ達考えているわけ? 言っとくけど、行かせる気は――ッ!?」


 ウトの姿が、一瞬にして変わった。四天王と戦った時に見た、木を纏った姿だ。


「私は大丈夫。すぐに皆の元へと向かう。だから――」


 だから、私を置いて行ってくれ。

 ウトはそう、かっこいい後姿を見せて言った。


「シュカ、飛んでくれ」


 チカの能力を知っていても、俺は行く。前に進む。


「行かせるわけないって――離せ!」


 俺達を止めに来ようとしたチカの身体を、ウトはぐっと力を込めて掴んだ。


「離さない! 皆が行くまでは!!」


「くっ……この!」


 いくらチカが動こうとしても、ウトは必死で止め続ける。

 そして、なんとかチカがウトを振りほどいた瞬間――俺達はもう、チカの前にはいなかった。

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