救いへの打開策
「チカ、お前なんでここに!」
本来いるはずのない存在を前に、俺はただたじろいだ。
「あー、うん。アンタさ、アイスに最後に攻撃受けたの覚えてる?」
「あの弱っちかた攻撃か、それがどうした」
チカから逃げる直前、数発だけ小さな氷の粒を受けた。だが威力はほぼゼロで、あの攻撃でアイスも限界であることが分かった。
「あれで、あんたを追跡するなんかを付けてたっぽいよ。背中をよく調べて見ればなんかちっちゃいのがついてるんじゃないの?」
「なんだと? 萌衣、ちょっと見てくれるか?」
隣にいた萌衣にお願いする。本当は自分で確認したいが、鏡などは無いため頼むしかない。
「うん」
萌衣が俺の背中をくまなく見ていく。
「うーん、あっ!」
しばらくして、テントウムシくらいの大きさの小型の機械が俺の背中から見つかった。
「それそれ。それを付けとくと、いる場所が分かるんだよねー」
まさかアイスがそこまで考えていたとは。完全に油断していた自分がただただ情けない。
「待てよ。ということはお前が俺を本気で追いかけてこなかったのって」
「そ。アンタのアジトを探すため、一旦わざと逃がしたの。だってせっかくの機会なのに、アジトに着くまでに捕まえちゃったら勿体ないもんね」
「完全にしてやられたってわけか……」
あの時何故追いつかれなかったのかをもっとよく考えていればこんなことにはならなかったのに……。
俺のせいで、安全なところにいたはずの萌衣達を危険な状況に立たせてしまった。
いや、今は後悔している場合ではない。ここからどうすればいいかを考えなければ。
今のままもう一度戦ったとしても、間違いなく勝つことはできない。
だが、シュカの瞬間移動は使えない。こっちのシュカまで傷ついたら俺の精神は間違いなくもたない。
「うーんどうしよっかなぁ。アイスには、いらないものは全部潰して幹部っぽいのと君を連れてくればおーけーって言われたけど、アタシ一人で来たからそう何人も連れては行けないんだよねぇ」
「潰す!?」
「そ。また襲ってきたら面倒だからね。でもアタシ殺しは嫌いだから、精々四肢切断くらいかなぁ」
四肢切断なんてされたら、二度と自由には生きられない。ある意味それは、死よりも恐ろしいものだ。
それなのに、そんなことに躊躇いが無いなんて、やっぱりこいつは狂っている。
「って、あれ? なんで君、手がついてるの?さっき切ったよね?」
シュカの腕を見て不思議そうにチカは聞いた。
そうか。チカは今この世界にシュカが二人いることは知らないのか。
まあ、知らなかったからどうしたって話だが。このまま何もせずにいれば、こちらのシュカも同じように腕を失う。
「瞬間移動したら、私の手、切られちゃうんだよね……」
「そうなるな。だからって、俺達が手ではないところを握って瞬間移動をすればいいのかと言われるとそうじゃない。掴んでるところがたとえどこであろうとも、殺さない程度に何かしてくるはずだ。だから、どこを掴んでも同じで、シュカは傷つく」
瞬間移動をするという選択肢をとる場合、シュカが傷つき他の皆は逃げられないという結末は避けられない。
「私は、皆の為なら命だって投げ出す覚悟だよ? でも、失敗するのが分かっててやるほど私はバカじゃない」
「大丈夫。シュカを傷つけずに助け出す方法を俺が考える」
こんな時、カリバがいてくれたら……。
いやいや駄目だ。今は自分の力で、皆を救うんだ!
と言ってもな。一体何をすれば――
「ナ、ナニゴトデスカ!?」
破壊された天井から、ウトが降りてきた。
「あれ? ウトじゃん。なんでこっちにウトまで来てるの?」
おそらく平行世界側のウトと勘違いして、チカは話しかけた。
「エート、アナタハ?」
一方こちらのウトはチカのことなど見た事が無いため、困惑してチカを見る。
「え? アタシのこと忘れちゃったわけ? まだ入ったばかりとはいえアンタよりも上司なんだよアタシ」
「ジョウシ? エート」
これはひょっとして――
一つ打開策が見つかったかもしれない。
いやでも、その方法は――いいのか? 今俺が思い付いた作戦は、ウトが危険な目に合う。
どうすればいい。ウトは俺の嫁ではないが、立派な仲間だ。
「アノ、カプチーノ」
いつの間にか、ウトは一旦チカから目を離して俺のすぐ隣に来ていた。俺にしか聞こえないくらいの小さな声で、戸惑いを見せている。
「あいつのことを聞きたいんだろ? あいつは敵だ。今のところ、俺では勝てないくらい強い」
「ナルホド。デハ、ワタシガタタカイマス」
「いや待て。ウトが強いのは十二分に承知しているが、いくらウトが強くてもあいつには勝てない。だから、戦わないでくれ」
戦おうとするウトを、慌てて止めた。無駄な犠牲は出したくない。
「カプチーノガソウイウナラタタカイマセン。ダケド、タタカワナイナラドウスレバ」
「あいつは今、敵の方にいたウトとお前を勘違いしている。それを利用したい。が、これは強制じゃないしやってくれなくてもいい。なんせ、間違いなく危険だからな」
たとえ今その方法しか突破策が思い付かなくても、ウトの意志を尊重する。当然の行為だ。
「ドンナニキケンデモカマイマセン。ワタシニヤラセテクダサイ」
ウトの決意に満ちた目を見て、俺は頷く。
「まあ、お前ならそう言うだろうな。よし、じゃあ頑張ってもらいたい。俺達がどうなるかは、全てウトにかかっていると言ってもいい。さて、俺が考えた作戦は簡単だ。お前があっちのウトの振りをして、ここの襲撃は駄目と上の人から言われたみたいなことを言って、チカをトタースに帰してほしい。だが、かなり危険だ。なんせ、嘘がバレたらまず間違いなく恐ろしい目に合う」
「ナルホド、オソロシイメニ……」
「そうだ。危険なことだし、今からでもやることを拒否してくれて全然構わない」
「イエ、ヤリマス。ヤラセテクダサイ!」
俺が何と言おうと、シュカは自分の言葉を変える気はないようだった。
「分かった。じゃあこれ以上は俺はもう止めない。約束してくれ。絶対に無茶をしないこと。それと、バレそうになったらいつでも戻ること」
「ハイ」
やる気たっぷりな返事をすると、ウトはチカの方へと歩き出した。




