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走り続けた先に


「右腕を失った彼女は、またここに来るかなぁ。きっと痛くて、もう動けないんじゃない?」


 いや、間違いなくシュカは再びここに来る。たとえいくら傷を増やそうとも、絶対に。


 だが、そんなのは俺は望んじゃいない。これ以上彼女を傷つけるわけにはいかない。


「じゃ、彼女が来なければ君は瞬間移動できないし、もう大人しくアタシ達に従うしかないよね?」


 無論、従うつもりは無い。

 もうすぐ、シュカは戻ってくるだろう。自分の危険を顧みずに、俺を助けるために。

 そしてまた、別のところに傷を負う。その繰り返し。チカは人を殺すのは好きではないと言っていたが、生かしておいてと言われているのは俺のみ。もしかしたら、シュカが殺されてしまう可能性もあるかもしれない。


 ならば、俺はどうするべきか。


「なんだかこれ以上はボクはここにいても面白い気分にはなれそうにない。先に帰らせてもらうよ」


 そう言って、アイスはこの場から立ち去ろうとした。


「あ、でもせっかくだから、あと一撃だけ攻撃しておこうかな。今の彼じゃ、どうせ避けることもできないだろうしね」


 そう言うと、アイスは俺の方に何発か氷の粒を飛ばしてきた。


「くっ……」


 アイスの言うとおり、今の俺は体力的にも精神的にもとても能力を使って防げるような状況じゃない。

 能力ってのは無意識でも精神を集中させて使うものだ。そんなもん、今の俺には出来ない。


 何もできずに、俺はアイスの氷の粒を食らった。だが――


 ちっとも痛くなかった。


 倒れたまま背中に数発当たったのだが、ちっとも痛みを感じない。とうとう俺の感覚神経が馬鹿になったんじゃないだろうなと思っていると。


「どうやらボクの体力の方もさしずめ限界らしい。全力を出しても傷一つつけることはできないようだ。そういうわけだから、すぐに湯にでも浸かってくるよ」


 今度こそ、アイスはどこかへと行ってしまった。まあ、俺とあれだけ激しく殴り合ったんだもんな。体力が無くなってても仕方がない。仮に今俺が火の玉を飛ばしたとしても先程の氷と同じ威力程度しか出せないだろう。


「なんだったんだろアイス。まあいいや、じゃ、軽く気絶してもらうから」


 やばい。このままでは、本当に気絶させられてしまう。

 前回は牢に入った時にシュカが助けてくれたから出ることが出来た。だが流石に敵さんも同じミスはしないだろう。次捕まれば、後が無い。


 それに、もし捕まったらもっとシュカに負担をかけてしまう。たとえ助けられないと分かっていても、シュカは命すら犠牲にして助けに来るだろう。


 ならば、俺がやるべきことは一つ。逃げるしかない。


 この場にいれば、すぐにシュカが来る。その時俺がいると、なんとしてでもレジスタンスの皆のところに連れて帰ろうとするだろう。

 だがもし、シュカがここに戻った時には既に俺が逃げたと知れば。俺を探そうとはするだろうがすぐに無茶をしようとは思わないはずだ。


 俺は、持てる力の全てを振り絞り立ち上がった。

 俺がチカに食らった攻撃はほんのわずか。まだ動ける。まだ歩ける。


「もう、大人しくしててってば」


 面倒そうに俺を見ているチカを尻目に、俺は走り出した。


「ちょっ!」


 逃げる俺を、チカは慌てて追いかけた。

 速度を落とさず俺は逃げ続ける。


「面倒だなぁ。って、ん?」


 俺を追いかけようとしたチカの方に、一人の若い女性兵士が近づいた。女性兵士は何やらチカの耳元で囁くと、チカはダルそうにへいへいと頷いた。


 それに構わず俺は走り続けた。

 何があったかは知らんが、今の俺には関係ない。


 ただひたすらに、足を動かす。城を抜け、トタースを抜け。

 広いトタースは、出口がとても遠く感じだ。それでも俺は足を止めずに走り続けた。


 一つ、不思議なことがあった。チカの能力は、俺の記憶がおかしくないならどんな勝負にでも絶対に勝つはずだ。ならば、俺とのかけっこ勝負に勝つのも容易なはず。だが、チカは俺に追いつくことは無かった。一応追いかけては来ているみたいだが、チカの足がこんなに遅いはずがない。間違いなく本気で走っていない。一体何が。

 だが、どんな思惑があるにすれ、今の俺には好都合としか思えなかった。

 追いつかないならただ逃げるだけだ。

 

 どれくらい走っただろう。気づけば俺は、莫大な広さのトタースを抜け、広い草原を走っていた。

 風は幸いにも追い風で、俺の足の速さは変わらず進み続けている。


「はぁ……。はぁ……」


 行く当ても決めずにただ走り続けていた俺は、偶然にも見覚えのある荒れた街に着いていた。

 追手はもう随分前から見えない。


 ここは、俺が初めてこっちの世界に来た時に着いた街だよな、多分。

 幸いにも、少々面倒なもののこの街の地下に行く方法はなんとなく覚えている。

 ならば――そこに行くしかない。

 いや、そこに行きたい。


 俺にとって最も大切な人達が、そこにいる。本当はこれ以上彼女達を巻き込みたくはなかったが、そこでなら、俺はまだ希望を見つけることが出来るかもしれない。

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