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最強対最強


 先に動いた俺に、アイスはしっかりと対応してきた。

 やはり先程の四天王のように上手くはいかないか。


 俺の右手の打撃を左手の甲で受け、アイスが不敵に笑う。

 その笑みに答えるように俺もニヤリと笑った。そして、アイスの足元から火を起こした。

 

 すぐにアイスの顔から笑みが消えた。俺の攻撃は見事に刺さり、アイスの足に火が灯る。


「先程の戦闘でも驚いたのだけれど、一体君はこの数日で何をしてきたんだい? 僕の予想が正しければ、君は今四天王四人全員の能力を持っているみたいなんだけど」


「さて、何をしてきたと思う?」


「おそらくはコピー系の能力者か何かかな。だとするとボクの能力も使える可能性があるわけで、それは少々厄介だね」


 なるほど、そう考えたか。

 まあ普通は平行世界で得た力だなんて答えには辿りつかないわな。

 だがこれは好機だ。勝手にコピー系だと勘違いして貰えていれば、俺に技を全て見せるのに躊躇するはずだ。


 一旦距離をとり、次に何が来るかを窺う。

 相手も慎重になっており、すぐに次の攻撃が飛んでくるようなことは無かった。


「お前の能力は氷だったな。なら、火が使える俺とは相性が悪いんじゃないのか?」


「火が氷より弱いと、誰が決めたんだい?」


 そう言って、あの日カリバの目を潰した氷の粒を俺めがけて放った。


 あの時は速すぎて見えなかった氷の粒は、今の俺には目で捉えることが出来た。

 おそらく爺さんによって行われた力の解放は、ただ能力を増やしただけではなく、根本的に俺の身体能力を底上げしていたのだ。


「今、火の方が強いって証明してやるよ!」


 アイスと同じように、俺も粒を放った。氷では無く炎の粒を。しかも、アイスの二倍の数で。氷と炎がぶつかれば、氷が解けるのは必然。全ての氷を解かし、残った炎がそのままアイスめがけて炸裂するはず――なに!?


 アイスの氷は、俺の炎の粒を受けながらも全く解けることなく、まるでミサイルのような勢いのまま、こちらに進行してきた。


「くっ……」


 こうなるとは思っていなかったので、何かを能力で新たにすることも出来ず、両腕をクロスさせその氷の粒を防ぐ。


「ボクの氷はただの氷じゃないのさ。ボクの氷は、絶対に溶けない」


「溶けないだと?」


「そう。たとえマントルだろうとも太陽だろうとも、ボクの氷は溶かすことができないんだ」


「そんな氷が」


「そんな氷があってたまるかって? だが事実、ここにそれはある。それがなによりの証拠であり現実だよ」


 確かにアイスの言うとおりだ。ここにある以上、それは否定しようがない。


「くそっ、狂ってやがるな、アンタの能力は」


「そうかもしれないね。だけど、狂ってるのは君も同じじゃないかな。なんなら、ボクには君の方がよほど狂って見えるけどね」


 そう言って、アイスは先程とは比較できないほどの数の氷の粒を俺の方へと飛ばしてきた。


 だが、そんな攻撃は俺には通用しない。

 地面から、もりもりと土が湧き上がった。それは俺の周りを包み込み、あっという間に360度囲んだドーム型の壁となった。


 土に氷がぶち当たる音を聞きながら、次にするべきことを考える。

 あいつの氷の能力は恐ろしいが、当たらなければどうというこいともない。ならば――


 土を崩し、俺はアイスの方へと直進した。


「まさかいきなり突っ込んでくるとは。いくら良いものを持っていようとも、使い手が悪いと宝の持ち腐れだね」


 そう言って、先程よりも大きな氷の粒を俺に放った。今度は、土を穿つ気か。だが――


「なに!?」


 自分の放った氷の軌道に、アイスは驚いた。

 驚くのも無理は無い。アイスの放った氷の粒は、俺に当たらずに少し前で軌道を変え、俺の真横を通って行ったからだ。


「簡単なことだ。俺の前方に風を吹かせればいい。だがおそらくいくら風を吹かせようとお前の氷をそのまま正反対に飛ばすことはできないだろう。ならば、微妙に俺から外れるように、お前側から僅かな軌道を描く風を送ればいい。俺の使う風は俺を中心に発生しているわけではなく、どこから吹かすかも自由でね。だからまあ、こういう芸当も出来るってわけだ」


「なるほど、考えたね」


「まあな」


 風を起こしつつ、俺は一気にアイスへと近付き左頬に右拳で打撃を与えた。

 アイスはそれに怯まずに、俺の頬に同じように拳を飛ばす。


 最強の能力者と最強の能力者の、能力を一切使わないただの殴り合いが、そこにはあった。

 お互いまるで無能力者のように、殴り殴られる。まるでヤンキー映画のワンシーンだ。


「ふっ」


 気が付けば、俺は笑っていた。


「君はどうやら、面白い人間のようだね」


 そう言いながら、アイスも笑っていた。


 こうやって、本気で誰かとただ殴り合うことは俺にとって初めての経験だった。

 きっとアイスもそうだったのだろう。アイスは多分、最強が故に誰かにこうして攻撃されることは無かったはずだ。


「こんな感情は初めてだよ。ずっとこうしてやりあっていたいくらいだ。どうやらボクはMであり、Sだったらしい」


「気持ちは分かるが生憎俺はいつまでもこんなことしているわけにはいかねえ。だから」


 ボッと俺の右腕に火が点く。


「終わらせてやる」


 ぐるぐると、俺の左腕に風が纏わる。そして――風を纏った拳と炎を纏った拳で、俺はアイスの身体中を殴りまくった。


「うっ……。なるほどそう来るか。なら――」


 アイスの両腕が、硬い氷に包まれた。チッ、やっぱりそっちもそう来るか。


 無能力での殴り合いから、能力者同士の殴り合いに変わっていく。


 お互いいつ死ぬか分からない、全てをかけた殴り合い。

 身体中に痛みがあり、今にも倒れたくなる。だが、俺は倒れなかった。二人のカリバの為にも、俺は倒れるわけにはいかないからだ。


「醜いね」


「誰だ!?」


 アイスとお互い声すら出さずに殴り合っていた中、頭上から少女の声が聞こえた。

 

「ねえアイス、アンタ何楽しくやっちゃってんの? これは仕事だよ、楽しむもんじゃない」


 アイスに対して、上から目線での言葉。おそらくこいつは、アイスより上の存在。

 というか、この声に俺は聞き覚えがあった。忘れるはずもない、この声の主は、俺を敗北させたもうひとりの人間。


 よくよく考えれば、こいつがここにいることだって予想できたはずだ。

 なんせ、ここは平行世界。俺のいた世界で最強だったこいつが、この世界にいても何もおかしくない。むしろ、ここにいない方がおかしいくらいだ。


「どうやら、アイスよりもずっと厄介な相手を敵にしなきゃなんないらしいな」


 俺の視線の先にいるやる気の無さそうな目をしたチカを見て、俺は一つ溜息を零した。


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