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価値観の違い


「お久しぶりだね」


 冷たい声が、静寂な室内で響く。

 

「まさか逃げられてしまうとは思っていなかったよ。どうやら君には常に監視をつけておく必要があったようだね」


「そうだな。あそこで逃がしてしまったばかりに、お前は今日ここで負けるんだし」


「ほぅ。随分と自信がお有りなようで。てっきりボクは逃げたまま帰ってこないと思ってたんだがね」


「生憎俺は仲間が殺されてじっとしてるほど馬鹿じゃないのさ」


「そうかい。ボクには仲間をそこまで大事にする理由が理解できなくて、君が何故戻ってきたのかさっぱりだ。ま、理解する気は無いがね」


「仲間の大切さも知らないようじゃ、あんたの人生損しまくりだな」


「ふふ。随分と挑発が得意なようで」


 張り詰めた空気の中、お互いに棘のある会話を交わす。そんな中。


「アイス! わたしだよ! シュカ!!」


 俺とアイスよりもはるかに大きな声で、シュカがアイスの名前を呼んだ。


「あれ? 前回は何も声をかけてこなかったから、てっきりボクに気づいていないのだと思ってたのだけれど、ちゃんとボクのことが分かってたんだね」


「前回?」


「そ。襲撃に来た時」


 アイスに言われた言葉にシュカは困惑した。困惑するのも当然だ。なんせ前回俺とここに共に来たシュカはシュカであってシュカではなかったのだから。


「そんなこと言われても分からないよ。それよりアイス! なんであなたはそっちについちゃったの? 私達との絆を忘れちゃったの?」


「絆、ねぇ。確かにそう呼べるものがボク達の間にはあったのかもしれない。けれど、それってそれほど大切なものなのかな」


「大切だよ! 大切に決まってるじゃん!」


 アイスの言葉に全く納得できずに、シュカは反論した。

 俺もシュカと同意見だ。絆は大切に決まっている。


「そうかい。ボクはそうは思わないな。いや、無意味だと言いたいわけではないんだ。ただ、それよりも大切なものが分かっただけ。だから、ボクは君と別れた」


「なあシュカ、お前とアイスの関係って」


 なぜシュカがアイスにそこまで感情をぶつけているのかが分からず、つい尋ねてしまった。


「まだレジスタンスなんて組織が結成される前。わたしが爺に拾われた時、アイスは爺と共にいたの」


「これまた懐かしい話を。祖父は今でも元気にやっているのかい?」


「祖父だと?」


「そう。アイスと爺は、祖父と孫の関係なんだ」


「そう、だったのか」


 なら、爺はなぜ俺の力を開放してくれたのだろう。俺が強くなろうとしているのは、アイスを倒すためだと知っていたはずなのに。

 だからこそ、なのか。

 自分の孫を止めて欲しくて、俺の力を開放したのか。


 まったく、そうならそうと言ってくれたらよかったのに。

 あの爺さん、俺の前ではアイスが孫だって素振りを一切見せなかったじゃないか。


「今ボクがこうして強くいられるのは、祖父のおかげなのさ。祖父が不思議な力を持っているように、ボクの中にもまた、同じように不思議な力が眠っていてね。凄い力を持った人間の孫が、凄い力を持っている。そうおかしなことでもないだろう?」


「なるほどな」


 あの爺さんの孫となれば色々と納得がいく。能力の種類は全く違うようで、"凄い"という点で一致している。そもそも、アイスの力は爺さんの能力によって限界まで解放されたのだろう。


「私は、アイスのことをずっと尊敬してた。強くてかっこよくて、わたしの理想の女性だった。それなのに、アイスは突然私達の前から姿を消した」


「あの時はすまなかったね。いなくなる前、何か書き留めておくべきだったか」


「そんなことはどうでもいい! ただずっと、そばにいてほしかった!」


 気持ちを込めて、シュカは叫んだ。


「私と爺は、いつまでもアイスの帰りを待った。けれど、いつまでも帰ってこなかった。そしてしばらくして、この世界はおかしくなった。そのおかしくなった理由の一つに、アイスが大きく関与しているということを私達はすぐに知った。それで、私と爺はアイスを連れ戻すために、「レジスタンス」を作った」


 まさか、レジスタンスが生まれたきっかけがアイスだったとは。


「いやまったく、ここに来る前のボクの人生はとてもつまらなかった。ただ意味も無く笑い意味も無く生きていく毎日。そんな毎日は黒歴史以外の何物でも無いね」


「黒歴史!? わたし達の思い出は黒歴史なの!?」


「そうさ。今でも時々あの頃の夢を見るんだけど、そんな日は起きるととても気分が悪い」


「そんな……。アイス、嘘でもそんなこと言わないでよ……」


「嘘なんかじゃないさ。現に今もこうして君の元へ戻っていないのが証拠だろう?」


「うぅ……」


 とうとうシュカは泣き出してしまった。

 仲の良かった人の、信じたくない言葉の連続。辛いのも当然だ。むしろよくここまで泣かずに我慢したというべきだろう。


「なあアイスよ」


「なんだい?」


 シュカの涙を見ても何も感じていないアイスを睨みながら、俺は言った。


「俺はよぉ、正直シュカとお前の過去なんてどうでもいい。俺には関係のないことだしな。だがよ、今ここでシュカが泣いている、それがどういうことか分かるか?」


「はて、どういうことだい?」


「お前をぶっ飛ばす理由の一つとして、十分すぎるってことだよ!!」


 萌衣の、ミステの、シュカの、そしてカリバの想いを背負い、俺はアイスへと飛びかかった。

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