圧倒的な力
闇。どこまでも広がる闇。そんな闇の中にそびえる長い城。
その城は、前回見た時より小さく見えた。それはきっと、自分自身の心が、力があの時よりも大きくなったからだ。
この城のてっぺんに、世界を変えてしまった人がいる。だがその人物に鉄槌を下すためには、アイスという強敵を倒さねばならない。
俺は強くなった。だが、果たしてアイスよりも強くなっているのだろうか。自信はある。しかし、確証は無い。
「さあ、行こうか」
俺の手を掴んだシュカと共に、再びこの地で歩を進めた。
大切な仲間を失い、完敗したこの地で、俺は戦う。
今回は、前回とは違い始まりから城の前にいた。
つまり、すぐに大きな戦闘が始まる。
やる気に満ちたまま、城の中へと入った。
中は、ある程度は片付いているとはいえほとんどあの戦闘の時のまま。あの戦いが、記憶から呼び起こされる。
すぐにサイレンが鳴り響いた。前回と同じサイレン音が、部屋全体に響き渡る。
サイレンの鳴る前から何人か既に人はいたが、俺の強さを知っているからか襲いかかってくるのは誰一人いなかった。
しばらくして、カタン、カタンと階段を降りる音が聞こえてきた。
この足音からして、おそらく降りてきたのは一人じゃない。てっきりすぐにアイスが来ると思っていたのだが、そうでないのか? ……まさかアイス以外にも強い奴がいるのか? いや、そんなわけはない。いたとしてもこの世界の王くらいだろう。そんな何人も強い人間がいてたまるか。
「やっと来たね!」
この声は……!
「アイファ!」
伝説級の能力者で炎の使い手であるアイファ。それ以外にも、四天王全員が階段から降りてきた。
「お前ら、なんでここに」
俺達がこの四人を倒した時、こいつらは奴隷にされるとか自分で言っていたはずだ。
「アタシ達、もう一度だけチャンスを貰ったの!」
マヤは自信満々にそう言った。
なるほど、どうやら謝罪が上手くいったらしい。
「ま、何度チャンスを貰ったところでお前達の結果は決まってるんだけどな」
その結果ってのは、当然良いものじゃない。
「な、何それ!! っていうかアンタ、他の人はどうしちゃったわけ? まさか、失望されて捨てられちゃったの?」
「んなわけあるか。俺とあいつらの繋がりは、そう簡単に切れるもんじゃないんだよ。単に、俺とシュカの二人で十分だっただけさ」
「くー、一々ムカつく野郎ねアンタ。けど、あのなんでも消しちゃう子とウトのそっくりさんとチート回復女がいなきゃ、アンタはまず間違いなくアタシらに勝てないんじゃない? アタシらがチョー余裕で勝っちゃうと思うんですケド」
「さて、それはどうかな」
今の俺はあの時の俺ではない。あの時の俺なら間違いなくカリバ達がいなければ死んでいたが、今の俺は違う。
「なんで俺がここを脱出してからすぐに再戦に来なかったか、分かるか?」
「そんなの決まってるじゃない。怖かったからでしょ?」
「確かに、恐怖心が無かったわけじゃないさ。ただ、そんなのは理由の1%にも満たない」
「じゃあ、なんだってのよ」
「すぐに分かるさ」
言った瞬間、俺は動いた。
まずはまだ一言も話していなかったウトに瞬時に近付き、炎の弾を飛ばした。
植物使いには、火が弱点だろうと思ったからだ。ゲームでもそれがセオリーだし。
全員の驚く顔が見えたのを確認しつつ、再び火を放った。二発の火をいきなり飛ばされたウトは、避ける間もなく直撃しばたりと倒れた。
まずは一人。
次いで、最も驚いていたマヤの足元に突風を起こした。
いくら陸地を作ろうとも、突然の風には逆らうことは出来ていなかった。より一層驚いたマヤは、赤ん坊に負けないほどの風により天井に勢いよく頭をぶつけ、落ちてきた時には気絶をしていた。
どうやら普段自分を陸地で守っているだけあってマヤそのものの防御力はたいしたことがなかったようだ。
そんな俺を見て、焦ったアイファは俺に火炎放射を放ってきた。
だが、俺は自分の前面に陸地を作りその火を完全に防御した。
アイファはしばらく炎を出し続けていたが、やがて限界が来たのか炎は消えた。
その瞬間に素早くアイファに近付き、強烈なジャブを放った。アイファは避けずにそれを受け、そのまま倒れた。
残った赤ちゃんの元に、その後すぐに迫った。幸いにも赤ちゃんは何もしてこず、ポケットから出した花の種を赤ちゃんの下に巻き、すぐに成長させ小さな花のベッドを作った。
そして、昔お袋が歌っていた子守唄を歌いつつ、赤ちゃんをそこに寝かせた。赤ちゃんはしばらくは起きていたものの、すぐに夢の中へといざなわれた。
俺が使った花は、睡眠を促す効果のある花だ。大人にはほとんど効かないものの、赤ん坊には効果覿面であったらしい。
気が付けば、立っているのは俺とシュカだけであった。最初にいた兵士たちも皆俺の戦闘を見て逃げ出している。
「すごい! あの四人をあっという間に倒すなんて!」
先程の戦闘を見ていたシュカは、尊敬の眼差しで俺を見た。
「自分でも、正直驚いた。ここまで強くなっていたとはな」
実戦をすることで、改めて俺は前より格段に強くなったのだと思い知らされた。
「この調子なら、楽勝で行けちゃうかもね?」
「どうだかな。おーいアイス! どこかで見てんだろ? さっさとかかってこいよ!!」
俺はあんたと戦うために能力を扱えるようになったんだ。
ここにいてくれなきゃ、修行をした意味が無くなる。
「どうやら、随分とお強くなったみたいだね」
相変わらずの冷たい声。やっぱりさっきの戦闘を見ていやがったか。
「さて、リベンジマッチと行こうじゃないか」
ニヤリと笑い、階段から降りてくるアイスの元へと俺は走り出した。




