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13/203

「そろそろ日が暮れそうですね」


「そうだな、今日のところはこれくらいにしておくか」


 古代より龍が眠りし山(アリュウス)からまだあまり離れていないが、色々あったし今日は早く休みたい。


「あそこに小さな村がありますね。今日はあそこのお世話になりましょう」


「だな」


 ☆


 

 パッと見まわしたところ、ここは竪穴式住居が五つあるだけ。


 来客を泊めるような宿屋は無さそうだし、誰かのお宅にお世話になるしかない。


 こういう村は大抵住居の主が男なので、主を落として泊まらせてもらうということはできないのだが、街と違って村の人は来客を歓迎してくれることが多い。

 人数が少ない分、人との出会いが貴重だから、来客は大切にするのだとか。


「すみませーん」


 早速、一番手前にあった住居の前でドアに声をかけた。


 外から見た感じでは、三人泊めることができるだけの大きさはある。


 しばらく待つと、初老のおじいさんが出てきた。


「旅のお方かい?」


 予想通りとはいえ、男か。


 男の家に泊まるのは本当は嫌なのだが、そう文句を言える状況でもない。


「ここに三人泊めて欲しいんだが」


「ごめんなさいね、今病気の子の看病してて、人を泊められる余裕なんてないんだ」


「そうですか」


 つまり、病気さえ治れば人を泊めてくれるってことだ。


「カリバ、いけるな?」


「はい」


「すみません、私、医者のようなものをやっていまして、よければ病気の子を見せてもらえませんか?」


「お医者さんですか! ええ、ぜひお願いします!」


 喜び具合からして、結構な難病であるようだ。


「では、お邪魔します」


 カリバを先頭に、俺達は中に入れてもらった。


 中は、床全面に藁が敷かれていて、中心には辛そうな顔をして眠っている男の子がいた。


 カリバは真っ直ぐその男の子の方へ行くと、自らの体を緑色の発光させ、その光をそのまま男の子の方に移動させた。

 カリバの魔法【全ての回復(オールリカバリ―)】だ。


 男の子の表情が、見違えるように爽やかに変わっていく。


 「もう治ったと思いますよ」


 「ほんとけ?」


 「ええ、本人に確認してみてください」


 確認するまでもなく、彼を見れば一目瞭然なのだが、カリバは一応そう伝えた。


「コトオ、もう大丈夫なのかい?」


 おじいさんが尋ねる。すると。


「うん! もう全然大丈夫! 今までのが嘘みたい!!」


 大きく両の手を挙げ、全身でコトオと呼ばれた男の子は元気をアピールした。


「良かった、良かった!」


 おじいさんは泣きながら喜んでいる。


「カリバ、よくやった」


「いえ、これくらいのこと当然です」


 カリバとしても一人の人間を救ったというのは気分が良いらしく、満足そうだ。


「じいさん、泊めてくれるか?」


「ええ! 当然です! 食事だって出します!」


 ふぅ、これでもう寝られるな。


「少しお待ちください。村のものを呼び、歓迎の祭りを行いますゆえ」


「歓迎の祭りだと?」


「ええ。私共の決まりでして、旅の方が来た時には祭りを開くのです。今回のお祭りは孫を助けてもらったのもあり、今までで一番のものにする予定です」


「そ、そうか」


 このじいさんの全身から溢れるやる気を見て、断れる人がいるだろうか。


 チッ……。本当は早く寝たいんだけどな。


「実は、ここ半年くらいはずっと孫の病気が治らずに祭りを開けていなかったのです。何せ孫は我々の長となる予定の子、病気となってはとてもじゃないですが祭りなど行っているにはいられない状態でした。ですが、旅のお方のおかげで、半年振りに開くことができるのです!」


「ふぅーん」


「あ、そうです! そこのピンクの方、良かったら孫の妃になりませんか? 今、私らの村には全然女子(おなご)がいなくてですね。ちょうど十か月ほど前に一人新たに仲間になった女がいるのですが、その女は全く男に興味が無いようで」


 ぶんぶんぶん。


 今までにないくらいミステは首を大きく横に振った。


 ミステは相当な人見知りで、俺以外とはカリバとさえ全く話さない。


 だから当然、俺以外の男と一緒になるなんて無理な話だ。


「そうですか。すみません、勝手に無理なことを頼んでしまって」


 こくり。


 どうやら許したらしい。


 この仕草、もう見慣れすぎて、今ではミステがどんな意味を持って頷いているのかが分かるようになってしまった。



 祭り、か。


 そういえばこっちの世界に来る前、元いた世界でも一度だけ行ったことがあったな。

 一人きりで。


 あっちの祭りは、それはもう糞だった。

 四方八方どこを見てもカップルだらけ。

 女に全く縁の無かった俺は、カップルがただひたすら妬ましく、興味本位で行ったことを心底後悔したものだ。

 祭りから帰ってすぐに、誰に向けてでもなく、「なんで俺には女がいないんだー!」 って叫んだのは、今でも忘れない。



 だが今は――その渇望するほどにまで欲していた女に、飽きてるんだもんな。


「あーあ」


 過去の俺に教えてやりたいよ。


 女ってのは、別にそこまでいいもんじゃねえよってな。

 男よりはマシ。そんだけだって。

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