強者の自信
あるものには風が吹き、あるものは成長し、あるものには火が点き、あるものには土が溜まった。
「ふぅ……」
いつもの修行を終え、俺は一息ついた。
「ついに、終わったんだね」
そんな俺の背中を見て、一人の少女は笑う。
「みたいだな。だから、次の修行に入ろう」
一つ終わったからといって全ての修行が終わったわけではない。一刻も早く強くなるため、すぐに次の修行に移らないと。
「次は、無いよ」
「え?」
予想外のシュカの言葉に、俺は驚く。
「修行はこれで終わり。君はもう、アイスを、王を倒せるほどに強くなったはず」
「そんなはずないだろ?だって俺はまだ、この能力を手に入れてから一度も戦闘をしていないんだぞ?」
「私はこの数日、修行を見守りながらも爺に色々聞きに行ってた。そして爺は言ってた。するべきことは、コントロールを上げることだけだって」
「コントロールだけ?」
「そう。だって、君の中にある能力はこれ以上強くなることも弱くなることも無いもの。既に全てが爺の手によって解放されたんだから」
「そう言われてもな」
コントロールが上手く出来るようになったからって、今のままではとてもアイスに勝てるとは思えない。これから修行を重ねることで、もっと強くなる必要があるはずだ。
「今の君は、四種類の能力を超火力で使うことも容易くできる、みたい。私もまだ半信半疑なんだけどね。まあとりあえず、試しにやってみるべきだね!」
今までの修行では、火を起こすにしてもほんの僅かしか出していなかった。それなのに、超火力を扱うのが容易いとか言われてもな。
「じゃあ危ないからわたしは一旦どっか行ってるね」
そう言って、シュカは瞬間移動でどこかへ行ってしまった。
俺、まだやると返事してないんだけども。
だが、やらないわけにもいかない。
俺はいつものように火力を抑えるのではなく、全力を出すことに決めた。
「ぉぉおおおおおお!」
目を閉じ気合を入れ、前方に両手を突き出す。
そして、今までで一番気持ちを込めて炎を飛ばした。
「うおっ!」
まず、とんでもない熱さが俺を襲った。だがその熱さは不思議と心地よく、恐れずに身を委ねることができた。
身体から熱さが消えた後、ゆっくりと目を開いた。
すると――遠くに見えていた山が炎で燃えていた。
「あんな遠くの山が、一瞬で」
さっきまで何も無かったし、あれを俺がやったのは間違いないだろう。
「マジ、かよ」
とても信じられない。だが、これは現実だ。俺の炎は、一瞬で山全体を炎で包むことが出来るのだ。
他の能力も試してみたくなり、今度は陸地を全力で生み出そうと気合を込めた。結果――山が一つ増えた。
信じられず、呆然と自分の両手を見つめた。本当に、本当に俺は既にアイスを倒せるほど強くなっているのかもしれない。
実感が徐々に湧いてきて、自信が生まれた。まさか、これほどの力を秘めていたとは。
しばらくすると、シュカが戻ってきた。
「山が燃えてる! 山が燃えてる!」
燃えた山を指差しながら、シュカはぴょんぴょんと跳ねる。
「って、あんなところに知らない山が! あんな山、今まで無かったよね!?」
今度は新しい山を指して大きな動作で可愛く驚く。そんなシュカを見ていると、俺は更に自信が溢れてきた。
「すごい! すごいよ! 今の君は、間違いなく世界一だよ!」
まるで自分のことのように、シュカは目をキラキラと輝かせて喜んだ。
「だといいけどな。いくら強くなったところで、まだアイスの力を知らない以上世界一なんて断言はできない」
「自信、無いの?」
俺の言葉を聞いて、不安そうにシュカは聞いた。
そんなシュカを見て、俺は二カっと笑いながら言葉を紡いだ。
「いや、自信はある。むしろ、自信しかない」
自信があり過ぎて怖くなってきたくらいだ。今までの人生で、最も自信に満ち溢れている。
「そっかぁ、良かった」
くしゃりとシュカが笑う。
「そういうわけだから、早速トタース行ってみっか」
「うん! ……って、今から!?」
「なんだ、駄目なのか?」
「いや、駄目とかじゃないけど……」
「今の俺はな、戦いたくてウズウズしてるんだ。復讐心だってもちろんあるが、アイスという強者と戦いたいって気持ちが心の底から溢れてくる」
無限に湧き上がる、戦闘への興奮。どうやら俺は、修行ばかりの生活をしていたせいで戦闘に飢えていたらしい。
「でも、準備とかいらないの? それに、他の人も連れて行った方が」
「コンディションなら今が最強だ。きっと、これ以上よくなることはない。そして、トタースに行くのは俺とお前だけでいい」
この数日間、こんなどこの誰だか分からない俺を、レジスタンスの皆は住ませてくれた。直接的にはあまり関わることはなかったが、それでもあそこにいる人達には恩がある。それに何より、全員がシュカの家族だ。シュカにとって大切な人は、俺にとっても大切な人だ。
そんな人達を、いつ命が消えてもおかしくない場所に連れていくわけにはいかない。
本当は、シュカだって連れて行きたくない。危険な場所に好きな女を連れていくなんて、馬鹿野郎がすることだ。
だが、俺はシュカの能力が無いとトタースに行けない。それに、見守ってくれる人がいなければきっと戦えない。
「なあ。こんな馬鹿野郎な俺と、世界を一緒に変えに行ってくれるか?」
答えは聞かなくても分かっていた。だが、答えを聞きたかった。シュカの口から、直接聞かなければ意味が無かった。
「当たり前でしょ、そんなの」
予想通りの返事が、俺の心を満たした。そしてそれから、シュカは何も言わずに俺の手を握り、トタースへと飛んだ。
――始まる。世界を変える戦いが。




