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変わらない平原


「さて、早速修行を始めましょう!」


「なんか、えらく張り切ってるな」


 えいや! と両手を上げ、シュカはやる気を漲らせていた。やる気があるのは頼もしいが、ちょいとありすぎやしませんかね。起きて朝飯食べたばっかで普通そこまでの元気は出ないぞ。


 昨日能力解放を済ませた後、俺はシュカによってレジスタンスの皆に紹介された。

 絶対歓迎されないだろうと思っていたのだがそんなことは無く、大事な食料を使って温かい歓迎会を開いてくれた。かなり仲良くなれたという人こそいないものの、この場所にいていいんだという安堵感で充実した一日を過ごすことが出来た。

 そんな皆を見ることで、改めて俺は思った。戦わなくちゃな、と。この人達が俺を歓迎してくれた理由は、強さを信頼されているからだ。皆、俺に希望を託しているのだ。その希望を、裏切るようなことはできない。


「張り切るのも当然だよ! なんせ私が世界を変える片棒を担いでいるわけだからね」


「それもそうだな。さて、じゃあ俺もシュカに負けないくらい気合入れて頑張るか!」


「その意気やよし!」


 本当にシュカがいてくれて良かった。もし一人だと、誰かに触発されることはなく今ほどのやる気は出せていなかったと思う。


「なあ、きっと俺とシュカは、この世界で永遠に語り継がれることになるんだろうな」


 ふと、唐突にそんなことを思った。俺達が関わっているこの戦いは、人類史の中でもトップを争うかなり大きなものだと思う。それが歴史に名を残さないわけがない。


「確かにそうかも。でも私、別に有名になりたい願望とか無いからなぁ。それよりもね、今こうして君と戦えることでもっと嬉しいことがあるよ! それはね、自分の住かであるこの地球(ほし)を、自分の手で守れること」


「世界じゃなくて、星? 別に世界のてっぺんが誰であろうと、人が生きてる時点で地球にとってマイナスでしかないんじゃないのか?」


「そんなことないよ! 地球だって、自分の中に住んでいる私達(ともだち)が仲が良い方が嬉しいに決まってる!」


「そういうもんかね」


「そういうもんだよ!」


 そんな考え方はしたことがなかった。人は地球にとって癌でしかないと思っていたが、地球が友達とは面白いことを言ったもんだ。こんな俺のことも、地球は友達だと思ってくれていてくれるのかね。


「では、この話はこれくらいにして、修行をしよう!」


 そうだ、今は何よりも修行をすることが大切だ。他のことを考えるのは、全て終わってからでいい。

 

「でもなあ、修行っていっても何から始めたらいいか」


 俺は今までの人生で自らの修行というものをしたことがない。なので、一体何をすれば強くなれるのか全然分からない。


「そこで私の出番ってわけ! えーと、たしか爺は蝋燭に火をつけたり風車(かざぐるま)を回したりするとか言ってなかった?」


「そういえば言ってた気がする。それがまずは基礎ってことになるのかな」


「きっとそうだよ! ちょっと待ってて、蝋燭と風車持ってくる」


 蝋燭はともかく、風車なんて持ってるのか? 俺の実家にも無いってのに。


「あ、ちょっと待て。そういやどこで修行をするか決めていなかった。今いるこの場所でやるとレジスタンスの皆に迷惑をかけちゃうかもしれないだろ? となるとここは駄目だし、あの爺さんのところか?」


「何言ってんのさ。私の能力を忘れたの?」


「あ、そっか」


 瞬間移動で誰にも迷惑のかからない場所に行けばいいだけの話だった。大切な女の能力のことすら頭に無いとは、なんとも情けないな。


 シュカがどこかへと行ったのをしばらく待っていると、パンパンの風呂敷を背負って戻ってきた。


「さて、準備も出来たし飛ぶよ。修行の場へ!」


「確認なんだが、もう行く場所は決めてあるんだよな?」


「もちろん。修行をすると決まった時から決めてた場所があるんだ」


「ほぉ。そいつは楽しみだ」


 瞬間移動をするべく、シュカの腕に捕まる。

 そして目を瞑ると、もう何度も経験している感覚が訪れ、やがて足場が変わったことを感じた。


「さ、目を開けて」


 シュカの言葉に頷き、ゆっくりと目を開いた。


「――ここは!」


 忘れるはずがない。忘れるわけがない。ここは俺とシュカが出会った場所であり、そして皆と結婚した場所であり、萌衣が復活したところだ。


「あれ? 君もここを知っているの? こんな何も無い野原を」


「ああ。俺にとってはどこよりも大切な場所だ」


 ここはどんな腐った世界になろうとも、何も変わらないんだな。

 どこまでも広がる平原は、俺が知っているままの場所だ。


「そっか。私にとっても、ここは大切な場所なんだよね」


「ここで何かあったのか?」


「まだこの世界が今ほど大変では無かったころに、皆ができることを私だけ出来ないのが嫌になって、自分の村を飛び出したことがあったの。それで、しばらく私は一人で旅をしていたんだ。そんな旅の中、私はお腹が減って死にかけてたんだけど、その時に名前も知らない男の人にご飯を恵んでもらってね。もしあの時ご飯を貰えていなかったら、私は死んでた。ここは、そのご飯を恵んでもらった場所。つまり、大袈裟かもしれないけど、命を救ってもらった場所」


 なんという偶然。いや、これは必然なのか。俺がやったことと同じようなことが、この世界でも行われていたのだ。


「まあ、それだけなんだけどね。その人とはそれ以降一度も会っていないの」


 もしかしたら。もしかしたらだ。

 その男の正体は、こっちの世界の俺なんじゃないのか? 本来俺は異世界に生まれていない存在なので、平行世界であるこの世界にいる可能性は低い。だが、低いだけで可能性はある。この平行世界が、どういう意味での平行世界なのかは分からないが、もし俺が異世界転移した以降に平行した世界ならば、俺がいても不思議ではない。


「なあ、その男ってのはどんな容姿をしていたんだ?」


「容姿? えーと、その日しか会ったことないからそこまではっきりとは覚えていないけど、確か子供だった気がする」


「子供?」


「うん。子供の男の子。一緒に女の子もいた気がする。二人とも私よりずっと年下」


「そうか」


 どうやら違ったみたいだ。俺はシュカより年上だし。ま、違うなら違うでいい。


「じゃあ早速修行を始めるよ。まずはこれ! この蝋燭に火をつけてみよう!」


 蝋燭を差しだし、ワクワクと擬音が見えるくらいシュカは目を輝かせた。何がそんなに楽しいのやら。

 

 精神を集中し、蝋燭に火が付いている状態を頭に思い描く。

 やり方はこれで間違っていないはずだ。これで――


「うわっ――」


 シュカの少し前方に、突如大きな炎が燃え上がった。失敗、か。

 まあそんな簡単に成功はしないわな。

 だが、絶対にすぐに出来るようになってやる!

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