力の解放
どれくらい続いただろうか。一瞬だったような、それとも永遠だったような。長くもあり短くもある時間の中で、俺は痛みを感じ続けた。
だがそんな痛みから、今の俺は解放されていた。気が付けば、身体は前よりも自分に馴染んでいるような気さえしてくる。
「どうやら、起きたようだな」
「起きた?」
「始めてどれくらいだったかな。痛みのあまり君は気を失っていたんだよ」
「情けないな……」
あんなかっこつけておきながら気絶してしまうなんて。
「なに、情けなくなんかない。あんな痛みがあれば誰だって気絶していたさ。むしろ誇るべきだと思うがね。君の生命力は素晴らしい。今ここにこうして生きていること、それが証明だ」
「確かに、死ななかったな」
今ここに俺が生きている。死ぬか生きるかの選択で、俺は勝った。
「さて、早速試してみてはどうだ? 自分の能力がどんな風なのか知りたいだろう?」
「ああ、知りたい。と言っても、何をどうすればいいいか」
ウインクをすれば女を落とせるというのと違って、具体的に何をすれば能力が発動するのか分からない。
「君の能力は、風林火山。読んで字の如く、風と林と火と山を操ることが出来る」
つまりは、伝説級の能力者四人全員と同じ能力が使えるようになったというわけだ。
「頭の中で、強く念じなさい。さすれば、それは起こる」
「強く、念じる」
俺は頭の中で、あの赤ん坊が起こした強力な風を思い浮かべた。そして――
突風が吹き荒れた。
「うわっ」
上手くコントロール出来ずに、強力な風がそこかしこで発生してしまう。今いるこの場が人の多い所だったならば、間違いなく大惨事だ。
「ほっほっほ」
そんな風の中心にいる俺を見て、爺さんはただただ微笑んでいた。
「なっ、なにがあったの!?」
あまりの強風に、この場から離れていたシュカが風に逆らうように一生懸命歩いてきた。
だが、いかんせん風が強すぎて、ある一定の位置からは全く進めていない。その場に留まるのでやっとだ。
「ど、どうすりゃいいんだ?」
自分で起こした風でありながら、止め方がちっとも分からない。
「頭の中で、強く念じる」
あたふたしている俺に、動じずにその場でじっとしていた爺が言った。
念じる、念じる……。
先程風を起こした時と同じように、頭の中でひたすら風を止める姿を想像する。だが――
「止まらない!」
風を起こした時のように上手くいかない。
「心に余裕が無いのであろう? もっと落ち着き、もっと集中するのだ」
「集中、集中」
落ち着いて、風が止まる状態をイメージする。だが、中々思うようにはいかない。
何度も何度もイメージを頭の中に作る。
そして、昇っていた太陽が沈み始めた頃、ようやく吹き荒れる風は消えていき、やがて跡形もなく消えた。
「どうやら能力解放は上手くいったようではないか。でも、まだまだ使いこなせていないようだがな」
「ああ、まだ扱い方がちっとも分からん」
強力な力を持っているのは分かった。だが、今のままでは実戦向きではない。これではアイスに勝つなんてのは夢のまた夢だ。
「今の君がやったの!? 凄い、凄いよ!!」
風が止んだ途端、シュカがこちら側に飛び込んできた。
「おっと」
それを、なんとなく条件反射で避けてしまった。
「な!? ……まあいいけど」
少しだけいじけたように見えたが、きっと気のせいだろう。
「ほっほっほ。シュカがそうやって仲良くしているのを見るのも久しいのう。ひょっとして、惚れたか?」
「変なこと言わないで! それより、もうこれで誰にだって勝てるよね?」
「いや、まだ無理であろう。慣れない力は変に使ってもかえって弱点となるだけだ。しっかりと修行を積まないとな」
爺の言う通りだ。今のままではただ弱点が増えただけ。
「修行? でも、レジスタンスに彼と同等の力を持っている人なんていないんだしどうするのさ」
「なーに、修行と言っても戦闘だけではあるまい。彼に一番必要なのは、コントロールをきちんとできるようにすることであろう? ならば、例えば蝋燭に火をつけたり、風車を回したり」
「そんなことでいいの?」
「うむ。だが彼にとって、それが"そんなこと"で済むことかどうかは分からんがな」
爺の言葉に、シュカは疑問符を浮かべた。だが俺は、爺の言いたいことがすぐに分かった。
もし今の俺が蝋燭の先に火をつけようとすれば、先端だけでなく蝋燭を丸ごと燃やしてしまうようなことが起きるだろう。いやそれどころか、蝋燭には火を付けずに違うものを燃やしてしまうかもしれない。
それだけ、まだ俺にはこの力を上手く扱えていない。たった一回風を起こしただけでも、痛いほどそれがよく分かった。
「しばらくは修行に励むことにするよ。ありがとな、爺さん」
「なーに。お主が強くなることは、結果としてこの世界を救うことにもなる。わしにとっても良いことしかない」
「そう言ってもらえると助かる」
「ねえねえ爺!」
「どうしたシュカ」
「修行って、一人じゃ大変だよね?」
「一人だろうと二人だろうと、修行は大変に決まっているだろう?」
「そうじゃなくて!」
「ほっほっほ。分かっておる。なあお前さん、もしよければシュカと共に修行してみてはどうかな? 一人よりは二人の方がモチベーションも違うだろう?」
「二人か、確かに一人でやるよりはずっといいかもしれないな。じゃあ、頼むわシュカ」
「うん!」
にっこり笑顔でシュカは頷いた。
過去に俺がシュカの修行を手伝ったように、今度はシュカが俺の修行を手伝ってくれる。これは運命なのかね。
「さて、もうこんな時間だし、家に帰ってご飯を食べようよ! 今日は前より美味しいって言って見せるからね!」
そう言って、シュカは小走りで来た道を戻って行った。
そして、カプチーノが見えなくなったところでシュカは呟く。
「もし私が、彼と……」
そこで、シュカは言葉を止めた。
それから何も言わず、ただ全力で走る。家に向かって真っすぐに。
そして背後を振り返り、カプチーノがいないことを確認すると、頬を二度叩き大声で叫んだ。
「何考えてるんだ私は! 彼にはカリバさんっていう大事な人がいるんだから、私はただ見守るだけにしないと!」




