目の見えない少女
「でも、帰るのは簡単だとしてもどうやって霧砂漠を歩くの? 霧だらけでまともに進めないんじゃ」
シュカの言う通り、霧砂漠は霧だらけでまともに進めない。ミステの能力があれば霧を全て消すことなど簡単なのだが、ここにはミステはいない。
どうする? 一旦トタース第二支部に行ってミステと合流するか? いや、それはダメだ。完全に個人的な理由なのだが、これ以上あいつらの傷つく姿が見たくない。この世界の件に、これ以上あいつらを関わらせたくない。
俺がそう思っていることを知ったら皆きっと「そんなの嫌だ! 一緒に頑張りたい」的なことを言うかもしれないが、俺は一緒に頑張れない。もう失いたくない。
「歩く方法は、考えてなかった……」
「え!? それなのに行きたいって言ってたの? なんで!?」
「どうしても行かなきゃならないから。やり方とかそういうものは考えてなかった」
情けない話だが、方法に関しては全く考えていなかった。俺の頭にあったのは、カリバとまた会いたいという気持ちだけだ。
「ま、こっちはあなたの協力が必要不可欠だし、なんとかしたいけど」
分かっている。そんな簡単になんとか出来る問題じゃあないよな。
「うーん。レジスタンスには補助系の能力者がいっぱいいるし、もしかしたら可能かもしれないけど」
「能力者だって!? その能力者ってのは今会えないのか?」
「全員とは言えないけど、何人かは会えるよ。ただ、せっかくだから正式に仲間になってから紹介しようと思ってて」
「どうせ仲間になるんだ。今からでもいいだろ?」
「まあそうなんだけど、今は朝だし出かけてる人もいっぱいいるんだよね。だから、なるべく大勢揃ってから紹介した方がいいんじゃない?」
「俺は今すぐ霧砂漠に入りたいんだ。そんなの待ってる時間は無い。ちなみに、今出かけてないメンバーにはどんな能力者がいるんだ?」
その中に霧砂漠を突破するのに使えそうな能力者がいれば、他の能力者が戻ってくるのを待たずとも出発できる。
「今はほんとに全然いないよ? 能力者は能力を持たない人よりも現場に行っていることが多いし。その中でも今いる人となると、正直あまり役に立たない能力が多いかも……。冷たいものを温める能力とか、目は見えないんだけど周りが見える能力とか、太陽光を浴びれば息をしなくても生きていける能力とか、腹話術とか」
「なんか個性豊かだな。最後の人にいたっては能力者と呼べるかどうかも微妙だし……って、ん?」
今なんか、普通に頼りになりそうな人がいた気が。
「すまん。二人目もう一回行ってくれ」
「太陽光を浴びれば息をしなくても生きていける能力」
「いや最後から二つじゃなくて」
「目は見えないんだけど周りが見える能力?」
「そうそれ! その能力についてもう少し詳しく教えてくれ!」
「詳しくって言っても、えーと。その人は目が見えないんだけど、その代わり目が見えなくても普通に周りが見えるんだよね。ただ、今まで全然役に立ったこと無いよ? だってそれって目が見えれば結局済む話だし。一応能力者だけど、目が見える一般人と何も違わない」
確かに普通に考えれば役に立たない能力だろう。ただ、霧砂漠を渡る場合なら、もしかしたら・
「その、周りが見える能力ってよ。たとえば霧がかかっている場所では霧はどうなるんだ?」
「霧は分からないけれど、確かその子、前に雨が降った時に「雨の日は目が見える皆は周りが見えにくくなるかもしれないけれど、目が見えない私は雨でも関係なく周りが見れるからちょっと得した気分」って言ってたような」
「決まりだ! その人をここに呼んできてくれ!」
「分かった。あ、でもあの子は――。いや、今ならもう大丈夫かな。よし、じゃ、ここで待っててね!」
「あいよ!」
今なら大丈夫という発言が少し気になったが、まあ今はそこに触れるのはやめよう。なんとまあ運がいい。偶然にも霧砂漠を歩くのにぴったりの能力者が残っていたとは。
これでワードルへ行くことが出来るだろう。そしてカリバは生き返る。
しばらく待っていると、シュカが女の子を連れて戻ってきた。
シュカが連れてきたのは、ミステよりも更に幼い見た目をした少女だった。女の子は常に目を閉じているが、フラフラすることも無く普通にこちらに歩いて来ている。
「この子がさっき言ってた能力の子。名前はメイちゃん」
「よろしくメイちゃん。早速だが、君にお願いしたいことがある」
「おねがい? なあに?」
舌ったらずな話し方で、メイちゃんは首を傾げる。
「霧砂漠っていう凄い霧がいっぱいの砂漠があるんだ。そこを通りたいから、力を貸してほしいんだけど」
「きりさばく? それって、おそとにあるの?」
「お外って、まあそりゃそうだな」
「じゃあいや! メイ、おそときらい!」
「嫌い?」
「そう! きらい!!」
「あはは……。やっぱりメイちゃんまだ駄目だったか……」
シュカは、まるでこの答えが分かっていたかのように言った。
「何か理由があるのか?」
「実はね、メイちゃん両親を外で亡くしてるの。だから、この地下から出たくなくて……」
「なるほどな」
両親を失ったトラウマで、外を嫌いになってしまっていたのか。
「おそとにいくなら、メイきょうりょくしない!」
何を言っても気持ちを変える気が無いという強い意志をメイちゃんから感じた。
「どうしよう。これじゃあ霧砂漠に一緒に行けないよね……」
「いいや、行ける。なぜなら俺は――」
どんな女でも絶対に落とせる能力を持っているからな。
俺は、迷うことなくメイちゃんにウインクをした。
こいつはトタースの女では無い。俺の最強の能力は――通用する。たとえ目が見えなかろうと、俺が見えているのであればな。