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彼の行かねばならぬ場所

 

 今の一言ではっきりしたことがある。このシュカは俺の知っているシュカではない。おそらく、こっちの世界のシュカだ。

 まさか、あんなに頑張って習得した瞬間移動をこっちのシュカも使えるなんてな。きっとこっちのシュカにも一緒に修行をしてくれた仲間みたいなもんがいるのだろう。レジスタンスとかいう組織の中に。


「レジスタンス、か」


 名前から察するに、おそらくはトタースに反抗している勢力といったところか。まあ、独裁をやっているトタースに対してこういう組織が存在していてもなんらおかしくはない。そもそもトタース第二支部だって似たようなもんだし。


「で、なんで俺がここに連れてこられたんだ?」


 牢から助けてもらったことには素直に感謝はするが、こっちに来ることの方が実は地獄だったとかは御免だ。


「なんでって、あなたも私達と同じで今の現状を変えたいと思っているからだよ。そうじゃなきゃ、わざわざトタースに突入したりしないでしょ?」


「なるほどな」


 ようは同じ目的同士で仲間意識があるってことか。


「君は、もう一度トタースに突撃するつもりはある?」


 もう一度、か。正直、今のままトタースに行ったところで同じ結果になるのは目に見えている。だが、それでも――


「もちろんだ。このまま尻尾巻いて逃げるなんてことは絶対にない」


 迷いを全く持たずに俺は答えた。戦わないなんて選択肢は存在しない。


「それを聞いて安心したよ。実はこのレジスタンスには、もう強い力を持った戦士はいないんだよね。皆、トタースにやられてしまったの。残っているのは、私みたいな補助技をメインにしている人だけ。だから、もうどうすることもできていなかったんだ。けれど君がいれば、また私達はトタースと戦える!」


 希望を込めた目で、シュカは俺を見た。

 俺に期待してくれる気持ちは素直に嬉しい。だがそんなに期待されても、今のままでは期待を裏切ってしまう可能性が高い。だから、ハードルを上げられる前に今のうちにそういうことはちゃんと伝えておかないとな。


「俺が牢に捕まっていたってことは、どういうことか分かるよな?」


「え?」


「負けたってことだ。アイスとかいう女にな」


 負けたからこそ、あの牢にぶち込まれた。勝てる人間だったら、あんなところにはいない。

 唯一の希望が弱いということを知って、シュカはがっかりしてしまっただろうか。だが、負けたのは事実だ。情けないことだろうと、それを隠しておくわけにはいかない。


「――あのアイスが戦ったの!?」


 シュカは、俺が予想していたのとは全く違う反応で驚いた。


「アイスを知っているのか?」


「知っているも何も、彼女はこの世界で最も強い女の人だよ。知らない人なんていない」


 あいつ、世界で一番強かったのか。ま、そりゃそうだよな。あんな強い奴がそう何人もいてたまるか。


「知らない人なんていないほど、世界で最も強い女か」


 つまりはあいつさえ倒せればそれ以上強い相手はいないということになる。まあ、あいつを倒すことはどんなことよりも難しいだろうが。


「そうだよ。アイスは誰よりも強くて、そして優しいんだよ」


「強いはともかく、俺には優しいとは思えなかったがな」


「それは!」


 俺の発言を否定するように、シュカは語気を荒立てた。シュカの反応を見るに、もしかしたらシュカはアイスと昔何かあったのかもしれない。少なくとも、赤の他人ということはなさそうだ。


「とにかく、俺はそいつに負けたんだ。だから俺が仲間になったところで、勝てる見込みは」


「あるよ! アイスと戦ったってことは、多分四天王全員を倒したってことだよね?」


「まあ、俺一人の力ではないけど、そうだな」


 だがいくら四天王を倒したからといって、アイスの力はレベルが違うと思うんだが。


「なら大丈夫。それだけのポテンシャルを持っているあなたなら、爺に会えばきっとあなたはこの世界を救う!」


「爺? よく分からんが、なんでその爺とやらに会うだけで俺が世界を救えるんだ?」


 世界を変えるのは、多分そんな簡単な事じゃない。


「すぐに分かるよ。とにかく! 私達はあなたと同じで今の世界に納得がいっていないの。だからさ、共に戦おう、世界と」


 そう言って、シュカは俺に手を差し伸べた。


「お前たちの俺への望みは分かった。確かに目的は一致しているし、協力しない手は無いだろうな。だがな、俺には今すぐにでも行きたい、いや、行かねばならないところが一つだけある。まあ正確にはもう一つあるんだが、そっちは信じているから今すぐでなくてもいい」


 一刻も早く、俺はあの場所に向かいたい。


「その行かなくちゃいけない場所ってどこ?」


「ワードルという、この世界の中心にある場所だ」


 ワードル――死んだ人を生き返らせる力を得ることが出来る場所。

 人の蘇生は本来百年に一度しか使用できないが、俺はあっちの世界で使っただけなのでおそらくこっちの世界には関係ない。

 だから、カリバの名を叫べば生き返らせることができると思い昨日寝る前に試してみたのだが、なぜだか効果は無かった。伝説級の四人の信頼は元の世界で既に得ているので、既に生き返らせる力を持っているはずなのにだ。おそらく、何かが欠けている。その何かを確かめるために、俺はワードルに行かねばならない。


「ワードル? うーん、聞いたこと無いけど」


 まあ知らないだろうな。あっちのシュカも大天使に聞くまでは知らなかったし。


「じゃあ、ノーワという街は知っているか?」


「昔は世界二大都市と言われたほどの大きな街だよね。それはもちろん知っているけど、あの街はもう――」


 無くなっているのか。ひょっとするとノーワだけではなく、この世界にはもうトタース以外に街と呼べる場所なんて無いのかもしれない。もしあったとしても、地上には奴隷としての人しか住んでいないはずなので、街というよりは大きな牢獄だ。


「いや、知っているならいいんだ。じゃあ、その近くの、霧砂漠は知っているか?」


「あまり詳しくは知らないけど、まあ一応は知ってるよ」


「ワードルは、その霧砂漠の中にある」


「霧砂漠の中!? あそこって確か、一度入ったら絶対に帰ることができないんじゃなかったっけ!?」


「いや、俺はあそこに行ったことあるし今ここにいる。お前の能力さえあれば帰ってくるのは簡単だ。だから、ワードルに共に行きたい」


「でも」


「もしお前がワードルに一緒に行ってくれるなら、俺はお前らに全面的に協力する」


 俺の言葉を聞いて、シュカは頷いた。

 こうして俺は、レジスタンスと協力してトタースと戦うことに決まった。

 萌衣達と会える日が先に延びてしまうことになるが、あいつらならきっと大丈夫だ。俺はそう信じている。

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