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興奮

『ドラゴン倒す 駄目だった?』


 落胆している俺の様子を見て、ミステは聞いた。


「倒すのは良いんだ。だが、消すのはな……」


「ごめんなさい」


 ぺこり。


 ミステは、本当に申し訳なさそうに謝った。


「いや、お前は悪くない。悪いのはドラゴンを倒す理由を説明しなかった俺だよ」


 ミステはきっと、俺のためだと思ってやったのだ。

 

 そんなミステを責めることなんてできない。


『理由?』


「俺達はドラゴンを倒したことを世界中にアピールしようとしたんだ。だから、ドラゴンを倒した証拠が何も残らずに消しちゃったら意味が無い」


『アピール? どうして?』


「世界征服の第一歩ってところかな」


「せ、世界征服!?」


「ああ」


 そういえばミステにはまだ世界征服をすることすら話してなかったんだったか。


 世界征服を俺達が企んでいると知って、ミステは幻滅しただろうか。


 俺と一緒にいるのが唯一覚えている約束らしいが、もう一緒にいるのは嫌になってしまうかもしれないな。


「今まで言わなくて、ごめんな」


 もしかしたら、怒って俺達のことを無にする可能性もある。


 俺はミステの反応を、恐怖して待った。


 ミステに嫌われるのは構わない。だが、あの無になる能力を使われるのは絶対に嫌だ。


 だが、そんな俺の気持ちは杞憂に終わった。


「かっこいい!」


「え?」


「世界征服! かっこいい!!」


 ミステは息をはあはあと荒げ、興奮している。


「かっこいいのか?」


「うん! かっこいい!」


「そ、そうか」


 ミステの感性にびっくりだが、とりあえず安心だ。

 無にされることはなさそうで、そっと胸を撫で下ろす。


「じゃあ じゃあ! ドラゴン倒しちゃったから、ミステが代わりに世界征服の方法考える!!」


「えーと、ありがと」


 さっきからまったく魔法文字で話さずに声で話しているミステに違和感を感じまくりつつ、礼を言う。


 にしてもこいつ、こんなキャラだったのか。


「あ! カプチーノ以外の人間を全て消すってどう? ミステ、できるよ」


「い、良いんじゃないかな……」


 もちろん良いわけない。

 可愛い顔してなんて恐ろしいことを言うんだ。


 だが、ミステの発言をボコボコに批判することなんてできない。

 だって、もしミステの機嫌を損ねたら消されてしまうかもしれないし……。



「あ、あの! カプチーノ様、一つ提案があるのですが!」


 俺以上にミステの能力に驚いていたカリバが、これ以上ミステが何か恐ろしいことを言う前にと、慌てて口を開いた。


「なんだ?」


「ここから少ししたところに大きな街『イオキィ』があります。そこの街の一番偉い人間になるというのはどうでしょう」


「ふむ、なるほどな」


 とっさに出した提案にも関わらず、悪くない。

 街をどんどん自分のものにしていくというのは、正攻法な世界征服である気がする。


 それに、自分の街がトタースだけというのも寂しいと前々から思っていた。


「大きな街とは言ったが、どれだけ大きいんだ?」


「詳しくは知らないのですが、少なくともトタースの十倍はあるかと」


「十倍だと!?」


 トターズは決して小さな街では無い。

 それの十倍ということは、相当な量であるということだ。


「決まりだ。その街を俺のものにする」


「はっ!」


「世界征服♪ 世界征服♪」


 世界征服をすると分かって以来すっかり陽気なミステと共に、俺達は目的の街へと向かった。


 どうかミステが俺達に力を使うなんてことがありませんように。

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