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暗い牢に差し伸ばされる手


「ここは、どこだ?」


 目が覚めると俺は知らない場所にいた。なんで俺はこんなところに……。

 僅かな光しかなく暗い中、硬い地面を見ながら俺は記憶の糸を手繰った。


 確か俺は、トタースで氷の女と戦っていた。そこで――負けた。完膚無きまでにやられた。惜しくもなんともない、完全な負け。

 

「っ…!!」


 そういえば、カリバの二人が――

 俺の力が足りなくて、大切な二人を死なせてしまった。

 

「くそッ!!」


 なんで、なんであいつらが死ななきゃならないんだよ!!

 硬い地面を、痛みに構わず全力で殴る。手の痺れは、俺の苦しみを癒してくれることは無かった。


「誰か! 誰かここから出してくれ!!」


 大声で叫ぶも、返事は無い。

 こんなところで何もせずにただ閉じこもっているわけにはいかないのに。


「はぁ……」


 今は何をしても無意味だということにしばらく叫んでからようやく気づき、俺は騒ぐのを止めて溜息をついた。


 ゆっくりと、目を瞑る。

 あの時のことを、頭の中で何度も何度も繰り返す。あの女は、一体何者だったのだろう。あそこまでの圧倒的な強さを持つ女がチカ以外にいたなんて。 

 俺は攻撃力や素早さの数値はカンストしているはずなのに、どうしてあそこまでの力の差があったのだろうか。それには何らかの理由があるはずだ。

 その理由に、心当たりが無いわけではない。一つ、思い出したことがある。大天使のいた場所で、ツヨジョと戦った時のことだ。

 あの時大天使はこんなことを言っていた。「ツヨジョは修行の果てに、攻撃力、防御力などのステータスとは無縁の力を手に入れたのです」と。

 氷の少女はツヨジョとは比べられないほどに強かったが、ツヨジョと同じようにステータスとは無縁の力とやらで戦っているのではないだろうか。それなら、俺が負けたことにも納得がいく。


「もし……」


 もし再戦できる機会を得られたとしよう。だが、数値で表せるような力しか持っていない俺に勝ち目はあるのか? ひょっとして、何をしたって無駄なんじゃないか?

 いや、そんなことはない。俺にだって勝つ方法が――


 ガチャ、ガチャ、ガチャと金属の鎧を鳴らしながら一人の女が歩いてきて、俺は一旦思考を止めた。

 やってきた女は俺のいる牢の前に立つと、淡々と告げた。


「食事だ。一つも残すなよ」


 渡されたのは、とても食事には見えないゲロみたいな飯。うげぇ、これを残すなとか無茶言うなっての……。


「それと、明日から拷問を行うので覚悟しておくように。明日からは、生きた心地がしないだろうからな」


「拷問?」


「そうだ。アイス様が貴様に聞きたいことが山ほどあるそうだが、お前は普通に質問しても答えそうにないらしいのでな。本来なら即刻死刑になるような罪を犯しているのだが、特別だ。まあ、拷問に比べれば死刑の方が良かったかもしれないがな。なんせここで行われる拷問は、地獄よりも地獄と言われているくらいだからな」


「そうっすか……」


 正直、恐怖はあまり感じなかった。どんな拷問よりも、あの氷の少女の冷たい恐怖には敵わない。

 それに、肉体的な痛みをいくら受けようと、カリバを失ったことでの胸の痛みの方が遥かに大きい。


「では、明日の朝また迎えに来る。食器は置いておけばその時に回収する」


 その言葉を最後に、女は去っていった。


「拷問、ねぇ……」


 暗い牢にぽつりと一人だけ残されているこの状況が、既に十分拷問だっての。


              ☆


 目が覚めた。

 相変わらずこの場所は暗く、外が見れないため今が何時なのかも分からない。

 皆は今頃どうしているだろうか。無事、トタース第二支部へと帰れているのだろうか。

 って、今は皆の心配をするよりも自分のことを心配するべきか。なんたって俺はこれから拷問されるんだし。


 まだ誰も来ていないところを見るに、今はまだ朝ではないのだろう。朝になったら、拷問が始まる。

 あの牢に来た女の口振りからして、相当キツイ拷問なのだろう。だが、相変わらず恐怖は無い。

 

 しばらくぼうっとしていると、遠くにぼんやりと人影が見えた。光が僅かなためはっきりとは見えないが、人影は徐々にこちらに近づいている。

 どうやら迎えが来たようだな。

 迎え、なんだろうが、どうも引っかかる。昨日の女は遠くからでも足音が聞こえ、姿ももう少しはっきり見えた。なんせ全身が金属の鎧に包まれていたからな。

 だが今近づいている人間は、足音もしないし相変わらず全然見えない。これは今日迎えに来る人が昨日と違うってことなのか?

 いや、そんなはずはない。あの女は昨日「明日の朝迎えに来る」そう言ったはずだ。なら一体――


 疑問符を浮かべている間に、気が付いたらその人影は目の前に――って!!


「シュカ!!」


 牢の前に現れたのはシュカだった。見間違うはずがない。


「え? わたしのことを知ってるの?」


「知ってるも何も!」


 知らないわけないじゃないか。


「まあ同じ"思想"を持つ者同士、知っていてもおかしくないか。一応確認なんだけど、君がトタースに突撃した人で合ってるよね?」


 何を言っているんだ? 状況が飲み込めず、声も出せずに口を動かす。


「ま、確認は必要ないか。なんせ今このトタース最深部の牢獄には、君一人しかいないんだから。じゃ、あんまりここにとどまっていると見つかっちゃうかもしれないから、飛ぶよ!」


 シュカがそう言った直後、俺とシュカは瞬間移動した。


「えーと、ここは……?」


 見たことの無い景色に、俺は戸惑う。大体、さっきからシュカの態度はなんなんだ? 


「自己紹介……は必要ないか。君は私は知っているみたいだし。じゃあ、えーと。ようこそ"レジスタンス"へ。私達は、勇気ある君を歓迎する」

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