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一瞬の消滅


 なんなんだ彼女は。

 少なくとも、俺達の世界の側の彼女は知らない。どこかにいるのかもしれないが、会ったことが無い。


 美しい。彼女の容姿を見て、俺はそう感じた。何人もの女と体を重ね、女という存在に飽きていた俺でさえそう思えるほどに、彼女は美しい。


「初めまして。ボクの名前はアイス」


 アイス、か。やはり知らない名前だ。


「先程の戦い見させてもらった。どうやら君達は、普通の能力よりもちとズルい能力を持っているようだ」


「それがどうした?」


「だから、その能力を使えないようにしないとボクが君達に挑んだところで勝ち目は無い。そうだろう?」


 彼女の言う通り、こちら側に最強の能力があるうちは勝ち目が無いと考えるのが自然だろう。


「つまり逆に考えると、その能力さえ消してしまえば、ボクが勝つというわけだ。違うかい?」


「能力を、消す?」


「そう。――こんな風にッ!」


 刹那、アイスの手から二つの氷の粒が飛んだ。それらは恐るべきスピードでミステの方へと飛んでいき――


 グチュリ。二つの目玉を同時に抉った。

 直後、普段は喋らないミステの、苦痛による悲鳴が耳に届いた。


「ミ、ミステ……!」


「その子は見たもの全てを消すことが出来るのだろう? ならば、目を潰してしまえばいい」


 冷たく、ぴしゃりと彼女は言い放った。


「カリバ!」


 大声でカリバを呼び、急いで回復を促す。


「は、はい!」


 すぐにカリバの体からはいつもの緑色の光が伝わり、ミステを回復した。

 カリバの目は瞬く間に回復し、悲痛な声は消える。


 ミステは、回復するや否やとことこと俺の元へと駆け寄ってきた。

 俺はそのミステの頭をぽんぽんと優しく撫でる。すると、はにゃぁと笑顔を取り戻した。


 その後、俺はアイスをキツく睨んだ。結果的にはミステは無事だったものの、ミステを辛い目に合わせたことを許すわけにはいかない。


「その眼、良い眼をしている。君はよほど彼女のことを大事にしているようだね」


 俺の睨みを見据えて、彼女は小さく微笑んだ。

 その余裕そうな表情、すぐにできないようにしてやる……。


「一つ、質問をしていいかな?」


「質問だと?」


「単純にあなた達に興味があるのでね。是非答えていただきたい」


「お前が俺達に興味があろうが、俺はお前のことなんて全く興味は無い。そんな一方的な質問に、答える義理なんてない」


「まあそう怒るでない。そんなに怒ると、死んでもらう時間が早まることになるが、それでもいいのかい?」


「上等だ。俺はもうあんたが殴りたくて仕方がないんだ」


 ミステが受けた苦しみを、こいつにも味わわせねばならない。


「乱暴な男だ。仕方ない。質問は全て終えてからにする」


「全て終わった頃には、あんたはもう質問できる状況では無いだろうがな――ッ!」


 俺は一気にアイスの方へと走った。途中で落ちていた剣を拾い、それを構え突撃する。


「愚かな。まあいい。すぐに現実を知ることとなる」


 アイスのすぐ近くに到達し、俺はアイスの二つの瞳を切り裂くように剣を薙いだ。が、しかし――


「動きが遅すぎる。そんな攻撃では、ボクには傷一つ付けられないよ」


 ひょい、といとも簡単に俺の剣を避け、余裕綽々でそう呟いた。


「戦いは速さが命。あらゆるものは、速さに負ける」


 アイスの右の拳に、氷が纏われた。


「ぅがッ……」


 そして、俺の腹部目掛けてパンチを放った。

 氷を纏った時点でパンチが来ることは分かっていたのに――速すぎて対応ができなかった。


「おっと。もう終わりだと思っていないかい?」


 休む暇も与えられずに、何度も何度も攻撃が炸裂する。一撃一撃が重く、食らう度に死とのすれ違いを感じる。


「カプチーノ様!!」


 連撃を受け意識の遠のいていた俺に、カリバが叫ぶ。


「カ……リバ。か、いふ……くを……」


「そうはいかないよ」


 俺に回復をかけようとしていたカリバの方へ、握りこぶしほどの大きさの氷が飛んだ。


「そこの同じ顔の二人は厄介な能力を持っているからね。先程も簡単にちびっ子の目を治していたようだし。だから――殺してあげる」


「カ……リ……バ!逃げ……ろ!」


 大声でカリバに叫ぼうとするが、思うように声が出ない。


 俺の掠れた叫びも虚しく、氷の粒はカリバの心臓を突き破った。そしてそのまま止まることなく、今度はカリバ2の方へと向かう。

 カリバ2は逃げる隙も無く、すぐにカリバと同じように心臓を貫かれた。


「さて。邪魔な二人は消えたことだし、続きを始めようか」


 嘘、だろ……?

 こんなにあっけなく、2人のカリバが死んだ……?


「カリバちゃん! カリバちゃん!!」

 

 二人の近くにいた萌衣が駆け寄り、体を揺らした。

 だが、二人とも返事は無い。


「嘘、だよね……? カリバ、ねぇ! カリバ!!」


 シュカが涙を流し悲しみの声を上げる。


「ぁぁぁぁああああ!」


 腹から無理やり出てきた俺の叫びは、2人のカリバに届くことは無かった。



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