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ありきたりな言葉


 ウトが完璧に長齢樹を扱えるようになるまで、俺達はひたすら特訓した。

 彼女の戦力がこれから先の戦いを左右することは想像に難くない。だから、徹底的に鍛え上げた。

 使えば使うほど、長齢樹というのは恐ろしい木だと分かる。絶対に折れないのはもちろんのこと、その鋭さもまた、超一級だったりする。正直、今の俺ではもうウトには敵わないかもしれない。

 

「あの、カプチーノ様」


「なんだ?」


 ウトの特訓が終わったところに、カリバが話しかけてきた。


「今後、どうするつもりなんです?」


「どうするって?」


「いつまでもここで攻撃せずに停滞していてはしょうがないでしょう。今こうしている間にも、生き残った人々が駆逐され続け、奴隷の人達は満足な生活も出来ないまま生き続けています」


 確かに今この瞬間も、トタースのトップの人間による自己中心的な独裁は続いている。だが。


「ウトの特訓は決して停滞なんかじゃない。というか、まさかこれからトタースに攻めようとか言うんじゃないだろうな? 今俺達が何かしに行ったところで、何も解決なんて出来ないだろ?」


 まだ俺達は敵について知らなさすぎるし、もう少し情報を集めてから戦う方がいいはずだ。


「いえ」


 カリバは俺の言葉に頷くかと思っていたのだが、予想外の返事をした。


「カプチーノ様。私達は今まで、色々な困難を乗り越えてきました」


「そうだな」


 世界を征服したり、萌衣を蘇らせたり。簡単にはいかないことを、俺達は乗り越えてきた。


「その色々な困難を乗り越えるうえで、じっくり準備していたことがありましたか?」


「!!」


「いつも、行き当たりばったりだったじゃないですか」


 そうだ。俺達は確かに、今まで準備なんてしてこなかった。伝説級の能力者を探しに行った時も、どんな能力なのかを何も調べずに街を回っていた。


「もし失敗したら、その時に作戦を改めて練ればいいんです。私達はまだ、失敗すらしていない。なら――」


「失敗してでもいいから、挑戦しようってか」


 カリバの言う通りかもしれない。たとえ失敗するとしても、そもそも二人のカリバさえいれば死ぬことは絶対に無い。それに、攻めに行くことこそが一番手っ取り早く敵を知る方法でもある。


「そういうわけですから、明日トタースに行きましょう。そして、明日中にあの大きな城の一番上まで行きましょう」


「あ、明日? いくらなんでも早すぎるんじゃ」


 カリバの気持ちはよく分かったが、明日は急すぎる。


「いいえ、早くなんてありません。明日やろうが明後日やろうが、結果は同じです」


「そう、だな」


 確かに、ろくに準備する気が無いなら一日二日でどうこうなることでもないかもしれない。


 となると、明日からはもう戦闘尽くしか。


「よし分かった。じゃあ今日は早く寝て、明日、世界を救おう」



   

    ☆




「皆、よく聞いてくれ!」


 カリバ、カリバ2、ウト、萌衣、ミステ、シュカ。全員を見回してから、俺は叫んだ。


「この世界を、俺達は変える!」


 利用できない人は殺され、利用できる人はとことん奴隷として働かされる、醜い世界。俺達の世界とは全く違うこの世界を、俺達は変える。


「そのために、俺達は今日、トタースへと向かう」


 カリバ以外にはまだ今日向かうことを誰にも話していなかった為、俺が伝えた瞬間、ざわめきが起こった。


「なあ皆、ここにいる皆は強い」


 死にさえしなければ絶対に回復させる能力、絶対に折れない鋭利な木を操る能力、どんなとことにでも行ったことがあれば瞬時に行くことが出来る能力、どんなものでも無にしてしまう能力。どの能力も、間違いなく凄い。これだけの能力を持った人がここに集まっているのは、奇跡だ。


「だが、敵はもっと強い可能性がある」


 たった半年で、世界を破壊してしまうほどの敵。そんな敵の強さが、一体どれほどのものなのかは分からない。だが間違いなく分かることは、楽な相手じゃないってことだ。


「だがだが、その敵よりも、俺達はもっともっと強い可能性がある」


 どういうこと? と皆が首を傾げる。俺は皆の疑問に答えるべく、言葉を続ける。


「いいか? 俺とお前達は、一緒にいる」


 そう、俺達は全員、一緒にいるのだ。


「ここにいる皆は確かに強いが、一人の強さというものにはどうしても限界ってもんがある。だがな、ここにいる全員が力を合わせれば、俺達は誰にも予想できないほどに強くなる。限界は無い」


 よく聞く話だ。一人で駄目なら二人で。二人で駄目なら三人で。

 ここには、俺を含めて七人もの仲間がいる。その七人が力を合わせれば、不可能なことなんてない。俺には、ここにいる七人が負ける未来は見えない。


「だからさ、きっと大丈夫だ。俺を、いや、皆を信じてくれ」


 俺達なら、世界だろうが宇宙だろうが変えられるはずだ。


「お兄ちゃん」


 言いたいことを全て言い終えた俺に、萌衣が話しかけた。


「なんだ?」


「なんか、ありきたりな話だね」


「ぐっ……」


 それを言ってしまうのか萌衣よ。今いい流れだったじゃん。流れを壊すようなこと言わないでよ。

 確かにこんなのは、俺が言う前からどこかで聞いたことがあるような内容だっただろうけれど。


「でもさ。ありきたりな話ってことは、皆が言うことだってことは。それだけ信用できる話ってことだよね!」


「萌衣!」


 やっぱりお前は最高の妹だよ! 

 その通りだ。ありきたりな言葉には、ありきたりになるだけの理由がある。むしろ、ありきたりであるからこそその言葉には説得力が生まれる。


「さて、じゃあ皆、行くぞ!!」


 ――始まる。俺達の、世界を変える戦いが。

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