最高の新戦力
「な、なんでウトがここに……?」
「ワタシモタタカウンデス、コノセカイヲスクウタメニ」
ということは、間違って連れてこられたわけではなく、ウトが新たな協力者なのか。
ウトはイーストという街にいた女の子だ。最初は訳の分からない独特の言語を話していたのだが、俺のウインクを受けてからは日本語を勉強し、片言だが恐るべきスピードで日本語を覚えた。
「カプチーノさんのことを話したら、二つ返事で協力を約束してくれたんですよ」
「あ、ああ。そうか」
まあ俺の為に日本語を話せるようになったような子だからな。俺の名前を聞いてここに来ることに違和感は無い。
「ドウセワタシ、マイニチヒマデスシ。ソレニ、カプチーノノヤクニタチタイ」
そう言って、ウトはニコっと微笑んだ。彼女の顔は嘘をついているようには見えない。本当に俺の役に立ちたくてここまで来たのだろう。
「役に立ちたいって、もう十分すぎるほど役に立ってくれてるんだけどな」
今萌衣が生きているのは、彼女の協力があったからに他ならない。俺にとって、彼女は大切な命を蘇らせてくれた命の恩人だ。
「デモ、モットヤクニタチタインデス!」
強い想いがウトから伝わってくる。だがこの想いは、俺のウインクによってつくられた偽物のものだ。そんな偽物の想いの為にここまでしようとしてくれているウトを見ていると、罪悪感に苛まれる。
「でも、確かウトって戦闘系の能力じゃないよな?」
ウトの気持ちはとても嬉しいのだが、俺の記憶が正しければウトは戦闘系じゃない。確か、畑に蒔かれた種を急成長させていたのを見た。便利な能力だが、今の俺達に役に立つかどうかと言われると……。
「心配しないで下さい。役に立つから、私はここにウトさんを連れてきたんですよ」
「いや、でもなあ」
ウトの役に立つ方法って、農作物を育てている農家の人の負担を減らす、とかか? 確かにそれなら役には立つだろうが、残念ながら今俺達が求めているものではない。
「ウトさん、あれを」
俺が納得していない様子を見ると、メイドは自慢げにウトに言った。
「ハイ、ワカリマシタ」
こくりと可愛く頷くと、ウトは背に背負っていたらしい小さな植木鉢を取り出した。
「なんだ?」
見たところは普通の植木鉢だ。特に変わった様子も無い。
「ココニ、コレヲイレマス」
小さな大量の何かをポケットから取り出すと、俺達に見えるように手のひらを広げた。あれは、何かの種だろうか。その種らしきものを、一粒だけ植木鉢の中の土に埋めた。
「ミナサン、ワタシノゼンポウカラハナレテクダサイ」
「前方?」
「ハイ。ワタシノゼンポウニイタラケガヲシマスヨ」
「えーと」
よく分からないが、とりあえず俺達はウトの言うとおりにした。
全員がウトの背後に回り、ウトの前方には誰もいなくなる。
「デハ、イキマス」
一体何が起こるのだろうか。それを見れば、ウトがここに呼ばれた原因が分かるのだろうか?
ゴクリと唾を飲み込む。なんか緊張するな。
「エイ!」
ウトが掛け声を掛けた瞬間、ブワァアアアアア! と凄いスピードで、まるで光線のように何メートルもある木がウトの視線の先に一直線に伸びた。もしあれに当たっていたら、かなりのダメージを負っていたはずだ。
「コレガ、ワタシノチカラデス」
少し得意げに、そう言って俺達を見た。
驚いた。植物を成長させる能力ってのには、こんな使い方もあるのか。
「確かにこれなら役に立つかもしれませんね」
「ああ」
この力を上手く使えば、役に立つどころか主戦力にすらなりうるかもしれない。
「デハ、リカイイタダケタヨウナノデモドシマスネ」
再び「エイ!」と掛け声を掛けると、何メートルもあった木はどんどん縮み、やがて種に戻ってしまった。
「おお。成長させるだけじゃなく、そんなことまで出来るのか」
どんどん興奮が高まる。これ、使いようによっては、マジでとんでもない能力なんじゃないのか?
「なんか、わたしの立場がどんどん弱くなっていく……」
俺達の中で唯一とんでも能力を持っていない萌衣が悲しそうに肩を落とした。
「いいんだよ。一人くらいお前みたいなのがいたって」
というか、可愛さなら最強クラスじゃないか。萌衣ほど可愛い女の子なんて、俺の嫁達以外では見たことが無い。
「そう言われても、やっぱりわたしも何か欲しいなぁ……」
悲しそうに、萌衣はそう呟いた。もしかしたら、自分は何の役にも立っていないとか思っているのかもしれない。本当は十分すぎるほど役に立っているというのに……。萌衣がいなかったら、俺は今どうなっていたか……。
「では、この後早速新しい戦力が増えたとカリバ様に相談しに行く予定なのですが、皆さんは認めてくれる気になりましたか?」
「認めるも何も、最高だよ。よく連れてきてくれた」
ウトが来てくれたことで、俺達が世界を変えることができる可能性は一気に高まっただろう。
「ジャ、ジャア! コレカラハワタシ、カプチーノノナカマナノデスネ!」
俺に認めてもらえたことが嬉しかったようで、ウトはにぱぁと太陽のような笑顔を見せた。
「ああ、そうだ。よろしくな、ウト」
ウトに負けないくらいの笑顔はさすがにできないが、それでも精いっぱいの笑顔で俺は手を差し出した。
「ハイ、ヨロシクオネガイシマス!」
危険なことに首を突っ込んでしまったのだというのに、ウトはまるで美しい絵画を見たかのように目を輝かせ、人生最大の喜びとでも言いたげに俺の手を握った。




