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新たな仲間


「まさか死んでしまうとは思いませんでしたね……」


 女が死んだ後、俺は皆に先程起こった出来事を話した。皆驚きを隠せず、また、一人の命が散ったことに空気が重く佇んでいる。


「命ってのはそう簡単に捨てられるもんじゃない。それを捨てたんだ、一寸の迷いも見せずに」


 俺だって、大切な人の為なら命を落とす。この女にとって、敵の大将はそれだけ大きな存在だったんだ。


「私が攫うなんて案を思いつかなければ、彼女は死ななかったのですよね……」


 カリバは罪悪感があるようで、申し訳なさそうにそう呟いた。


「お前は悪くないよ。悪い人なんて誰もいない。だから、元気を出せ」


 そうは言っても、簡単に済ませられる問題じゃないか。カリバの表情は依然として曇っている。


「せめて安らかに眠っていただきましょう。死者を弔う場所があるので、そこで埋めましょう」


 そして俺達は、名前も知らない彼女を埋め、小さな葬式を開いた。

 死んだのは憎きトタースの大将に忠誠を誓う女。しかし、一人の女性の死であることには変わりはない。だから、葬式を開くのだと彼女は言った。

 これから先、俺達はこの世界でたくさんの人の死を見ることになるだろう。その度に葬式を開くのかとカリバ2に聞いたところ、答えはyesだった。たとえ今まで見ず知らずの人でも、命の散った瞬間、すなわち人にとって最も大きなイベントである死に関与してしまえば、それはもうその人にとって他人では無い。人生を最も変えた人物となる。ならば、何もしないなんて惨いことは出来ないのだそうだ。たとえどれだけの数の命が散ろうとも、全ての命を見捨てずに弔うのだと、カリバ2は真剣に語った。

 俺はそれを聞いて、優しい女だと思った。だがそれと同時に甘いとも思った。俺達はこれから戦争をやろうとしているのだ。それなのに、一々相手の命を気にしていては前に進めない。戦争と言うのは、たくさんの命を乗り越えて結末に辿り着くものだ。情は足をひっぱるものとしかならない。冷酷に、目の前の命を切り捨てなければならない。

 だがそんなことは思っても、口には出さなかった。優しさという大事なものを捨てさせたくない。たとえそれが甘い行為でも、止めたくなかった。いつかきっと、彼女自身でそれが甘い行為であったと気付くだろう。その時までは、俺からは何も言わない。


 三度目のトタース突入から一日が経過した。

 昨晩は皆、騒がずに静かに眠った。


「さて、どうしたものか」


 いつまでも重い空気のままでいても仕方がない。俺達は前に進まなければ。


「ただいま帰還しました。って、そこにいるのはカリバ様、じゃなくてあっちの世界のカリバ様でしたっけ? あれ? どっちがどっち」


 第二トタースの唯一の入口から一人のメイドが現れこちらに向かって来ると、カリバを見ながらうんうん唸っている。


「私はここの世界のカリバじゃありませんよ」


 あの女とは一緒にしないでほしいとでも言いたげに、カリバはすぐに勘違いを正した。


「そ、そうでしたか。すみません。えーと、カリバ様はどこへ」


 目の前のカリバが目的のカリバ、つまりカリバ2じゃないと分かるや否や、メイドはキョロキョロと周囲を見渡した。


「先日一人死者が生まれ、その方の簡素なお墓を作っています」


 この街で死んだ人は、皆同じようにカリバ2達で墓を作っているらしい。それはあのトタースの女性も例外ではなく、同じように墓を用意するのだとか。


「え!? 死者!? 誰ですか? 誰が死んだのですか?」


 死者と聞いて、メイドの目の色が変わる。彼女にとって、ここの人達はそれだけ大切な人であるということだろう。


「トタースから連れてきた女性です。自殺されました」


「トタースの……。そうですか」


 第二トタースの誰かが死んだわけではないと分かると、メイドはひとまず胸を撫で下ろした。


「それで、あなたはもう一人の私にどのような用件を?」


「あ、はい。それが、一昨日平行世界に助っ人を探しに向かったのですが、なんとすぐに力になってくださる方を見つけたのです。そして、ここに連れてきたのです」


 ここでいう平行世界とは俺達のいた方の世界のことだ。にしても、たった二日で新たな助っ人を見つけただと? あっちの世界で、そんな簡単に見つけられるようなところにいる強いヤツなんて誰かいたっけか?


「その人ってのは、一体誰だ?」


 俺が知っている人だろうか? いや、俺が知っている人でそんな強くて助けてくれる人はいない。


「もうすぐ降りてきますよ」


 どうせ連れてくるのなら一緒に下りて来いよと思ったのだが、まあいいか。階段は一本道で迷うことも無いだろうし。

 コツ、コツ。階段を降りる音が少しずつ聞こえてくる。なんというか、おとなしい足音だ。がさつな人ではないことが、足音で既に分かる。

 徐々に足音が大きくなってくる。もうここに到着するのも近い。


「あのカプチーノ様、あれは……」


「ああ」

 

 少しずつ近づいてきている人の姿が見えてきて、俺はそれが誰であるかが分かった。俺はそいつを知っている。

 新たな仲間は階段を全て降り切ると、俺の顔を見て微笑を浮かべ言った。


「ア、アノ、ヨロシクオネガイシマス」


 この、まるで日本語を覚えたばかりのような片言口調。そして、一目見ただけで忘れられないくらいの可愛らしい容姿。

 間違いない。こいつは伝説級の能力者の一人、ウトだ。

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