命よりも大事なもの
一日が経過し、俺は再びトタースへ行く。
「今度は、わたし達も行くんだよね?」
「基本的に何かをする時は全員行動って決めてるしな。もちろんだ」
前回は、ただ能力を確認するためだけに行ったからこそ俺とシュカだけだったが、今回はそうではないからな。
「じゃあ皆、行くよ!」
シュカの声と共に、俺達は三度目の平行世界のトタースへと来た。
「さて、どこにいるかなあ」
さすがに三度目なだけあって、なんとなく敵のいる場所は把握できる――って、いきなりいた!
俺達の現れたすぐ近くに、見回りの女がいた。
「どうやらカプチーノ様が二度も現れたところで警備が厚くなったようですね」
「なるほどな。こっちとしては好都合だ。皆行くぞ! 殺さない程度に倒す!」
「「「了解!」」」
皆が頷いたのを確認してから、俺も大きく頷いた。大丈夫、このメンバーなら余裕だ。
「貴様が例の人物だな! もう逃がしはせんぞ!」
俺達の姿を見るや否や、女は早速戦いを挑もうとしてきた。この人数に対して一人で立ち向かうとは、中々の根性だ。
敵が再び女だったため、念のため一応ウインクをしてみた。だがやはり、効果は無かった。
「ミステ! 敵の持っている剣を消せ!」
『把握』
俺の合図に頷き、ミステは敵の腰にぶら下がっていた剣を消した。どんな強さか分からない以上、まずは武器を無くしてしまうのが一番効率がいい。
「カリバ、反対側から回り込め! 俺はこっちから攻める!」
「分かりました!」
素早くカリバが敵の背後に回った。左右は建物に囲まれている。これで、敵にもう逃げ場は無い。
「じゃ、これで終わりっと!」
おろおろとしていた敵に近付き、首に手刀を入れた。
すると敵はすぐに意識を失い、地面に倒れた。
「はい、いっちょあがり」
あっという間に、敵を倒すことに成功した。
「シュカ、瞬間移動頼むわ」
「はいはーい!」
気絶している敵を連れて、俺達は帰ってきた。トタースの滞在時間は十分も無かったか。
「なんというか、凄いですね」
初めて俺達の戦いを見たカリバ2は、感嘆の吐息を漏らした。
「まあこれでも一応、俺達はあっちじゃ世界トップをやらせてもらってるんでね」
俺達が弱ければ、あっちの世界のトタースが国になることさえ無かっただろうしな。
「そういえばそうでしたね。これならひょっとして」
「いや、過信はよくない」
俺達が倒すのは敵の大将だ。こんな見回りをしているような女を倒したくらいで、世界を変えられると思ってはいけない。
「でもなんというか、希望が溢れてきました。ただ、一つだけ気になることがあるのですが」
「気になる事?」
「あの、シスタさんなのですけど。何もしていなかったような」
なんだそんなことか。まあ、初めて俺達の戦いを見たら気になるのも無理はないか。
「あいつはマスコットキャラだから」
「マ、マスコット?」
「ああ。あいつはあれでいいんだよ」
「そ、そうですか」
萌衣はそこにいるだけで俺に力をくれる。もし萌衣がいなければ、俺はもっと情けない男だっただろうさ。
「さて、じゃあ早速この女が起きる前に運んじゃおうぜ」
「そうですね。では、牢獄に案内いたしますので」
捕まえて早々牢獄に入れるっていうのはなんだか悪い気がするが、仕方がない。これも世界を変えるためだ。
「目が覚めたみたいだな」
女は戸惑うように辺りを見渡した後、すぐに俺達にやられたことを思い出した。
ちなみに今はここにはこの女と俺しかいない。大人数に囲まれていては、色々話しにくいだろうと思ったのだ。ま、この女が話したことは結局皆に報告するんだがな。
「な、何の真似だ!」
女は俺を睨みつけて、臨戦態勢を取った。
「いや、別に乱暴なことをする気はないからそう身構えるなって」
だが、俺の言葉を聞いても警戒を解かない。当然と言っちゃ当然か。
「まあいいや。お前には、色々と教えてもらいたい」
「私が貴様に答えることなど何もない!」
女の反抗を無視して、俺は言葉を続ける。
「あんたらの大将やあんたらの戦力、あんたらの弱点、あんたらがこれからやろうとしていること。どんなことでもいい。お前達の情報を洗いざらい教えてくれ」
そう言ってしばらく待ったが、女は何も言わない。どうやら答える気は全く無さそうだ。
「もし何も言わないなら、ここからはずっと出られないと思え」
「ふっ」
俺の脅しを聞いて、女は小さく笑った。
「何がおかしい」
「いや、甘すぎると思ってな。そんなことでは、あの方と戦っても無駄だ」
甘い、というのはおそらく俺が殺す意思を見せていないからだろう。何も言わなくても、殺しはしない。確かにそれは甘いのかもしれない。
「そのあの方ってのは、そんなに強いのか?」
「さあな」
「こんな質問すら答えてくれないってのか」
強いか強くないかくらいは別にいいじゃないか。
「もちろんだ。私はあの方に忠誠を誓っている。あの方が不利になる事を答える気などさらさら無い」
くっ、このままじゃ埒が明かないな。少しくらい痛めつけておくか?
「何をしたって無駄だぞ。私は答えない」
「痛い思いをしてもらってもいいんだぞ?」
そう言って、女の首元に刃先を寄せた。
「確か私は、何も言わなければここからずっと出してもらえないんだったよな?」
「そうだ。だから全て吐いて楽になった方が――」
「いや。だったら私は――死のう」
一瞬の出来事だった。女は躊躇なく、自分の舌を噛みちぎった。
「お、おい!」
呼びかけるも、帰ってくる言葉は無い。
「嘘……だろ?」
誰が見ても分かる。女はもう死んでいる。
情報を漏らさないために、自殺したのだ。
なぜ? なぜそこまでする? こいつにとっては、こいつの大将が不利かどうかってことが、命よりも大事だってのか?
そうなんだろうな。そうじゃなきゃ、死なんて選ばない。
手下の女にここまでさせるとは、一体敵の大将はどれだけのカリスマ性を持っているんだ。
「どうやら、相当ヤバい奴と戦わなきゃいけないみたいだな」
何も情報が掴めまま、俺は魂を失った抜け殻をただただ見つめ、溜め息を漏らした。




