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もう一度

「カプチーノ! 一旦引くよ!」


 茫然としている俺の手をシュカが掴んだ。見れば、もう既に俺以外の全員はシュカの身体に触れている。


「じゃあ、行くよ!」


 シュカのその一声とともに、俺達は第二トタースへと帰還した。


「危なかったぁ」


 着くや否や、皆が胸を撫で下ろした。


「あの女、どうして俺のウインクを……」


 何故だ。理由が分からない。あの女は、能力が効かない特別な人間だったりするのか? それとも、あの大天使がいた場所のように、こっちのトタースでは能力そのものが使えないのか? 

 後者の可能性は低いはずだ。いくらトタースに凄い技術力を持っている人間がいたところで、あの巨大な街全体を能力無効な場所にするなんて出来るわけがない。だからといって、俺がさっきいたところだけたまたま能力が使えないようにしてあるということも無いだろう。広い街の中で、そんな偶然があり得るものか。それに、もしトタースで能力を使えないようにしているというのなら、それはつまり、敵サイドだって能力を使えないということになる。まさか敵の中に能力者が一人もいないなんてことは無いだろうし、それならば能力を使えなくするのはおかしい。


「もう一度あそこに行く必要があるな」


 あの女だけが特別だったのか、そうではないのか。トタースにいる他の女で試しておかなければならない。

 もしもあの女だけが特別なのではないとしたら……。いや、悪い可能性を考えるのはやめよう。そんなことをしたって意味が無い。


「そりゃあ世界を変えるためにはいつかはまた行かないとだよね。あそこにはこの世界の征服者がいるんだし」


「いつかじゃない。今すぐに行く。俺の能力が使えるのかどうか、こればっかりはさっさと確かめなければならないんだ。使えるかどうかで何もかもが変わる。それを知れなければ作戦を立てることすらできない」


「なるほど。確かにカプチーノの能力は大事だね。じゃあ行こっか。皆、私に掴まって」


 シュカが再び皆を連れて瞬間移動しようとした。だがそれを、俺は慌てて止めた。


「今回は皆じゃない。シュカと二人でパッと行ってパッと帰ってくる」


「え? 私とカプチーノだけで行くの?」


 俺の発言が予想外だったようで、シュカは目をパチクリさせた。


「まあただ能力を確認しに行くだけだしな。いくらいつも皆と一緒に行動と言っても、この件に関しては俺個人の問題だし、俺個人の問題で皆を巻き込むつもりはない」


 それに、俺が能力を使えない情けない姿なんて、あまり皆に見られたくないしな。


「カプチーノ個人の問題だとしても、皆喜んでついてきてくれると思うんだけどなあ。でも、カプチーノが二人で行くって言うのなら、それに従うよ。ただ言っとくけど、危ないと思ったらすぐに戻るからね! 念のため、いつでも戻れるように手は私から絶対に離さないこと! おっけー?」


「おーけー。そういうわけだから皆、ちょっと行ってくるわ」


「分かりました。カプチーノ様、どうかお気をつけて」


 カリバに「おう!」と返事をしてから、シュカを見て頷いた。それを合図と判断し、シュカは瞬間移動した。



 再びここに来た。今いるのはトタースの街の中だ。

 シュカと共に、注意深く辺りを見渡す。今のところ周りに人影は無い。


「そう何度も来たい所じゃないね。ずっと心が落ち着かない」


「だな。だが俺達は、世界を変えるためにいずれまたここに来なければならない。さっきお前が自分で言ってただろ?」


「そうだけどさ。やっぱり怖いよ」


 シュカの気持ちはよく分かる。この街には、人を恐怖させる力がある。


「あ、いた」


 小声でシュカが言った。シュカの目線の先に、確かに一人いる。俺がさっき落とした女とは違う女だ。運が良い。

 

「じゃあ、行くぞ」


 俺達二人は、見回りをしているらしいトタースへの女へと近づいた。


「お、お前は先程通達があったやつだな!」


 俺達が見つかったことは、既にトタースに知れ渡っているようだ。だがそれに関しては心配いらない。どうせトタースから瞬間移動で出れば俺達のいる場所など分かるわけがないのだから。


「不思議な技を使って消えたと聞いていたが、また現れるとは。今度こそ逃がしはせんぞ!」


 だったら俺は、今度こそウインクを成功させる!!

 もう人生何度目になるか分からないウインクを、俺は女の目をしてした。――どうだ?


「何の真似だ?」


 効いていない――

 全く落ちていない。一応何度もウインクを試みたが、やはり無駄だった。

 ということは、平行世界のトタースでは能力が使えないのか?

 いや、違う。よくよく考えてみれば、シュカの瞬間移動だって立派な能力。それを、シュカは使用できている。つまり――能力が使えないわけではない。

 だったらなぜ。なぜ俺の能力が通じない。


 女は剣を頭上に掲げ、俺に斬りかかろうとした。心が動揺していたため、俺はとっさに反応することが出来なかった。そしてそのまま、反応の遅れた俺に刃が振り下ろされる瞬間――


 俺は第二トタースに戻ってきてた。


「危なかったね」


 どうやらシュカがすぐに瞬間移動をしてくれたようだ。


「あ、ああ」


 危機は回避した。だが――


「俺のウインクは、トタースにいる女には効かない――」


 受け入れがたい事実を、しかし俺は、受け入れるしかなかった。

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