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不可知犯罪捜査官 西園寺四郎  作者: 水浅葱ゆきねこ
柘榴石の涙

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21/32

■本部

本日二話連続更新です。(2/2)

「無理言わないでくださいよ、西園寺さん!」

 目の前で書類に向かっている男が、悲鳴に似た声を上げた。

「いけるやろ。軽い軽い」

「八人ですよ? しかも、四ヶ月に渡ってのことなのに、全員の死因が熱中症とか無理に決まってるじゃないですか!」

 提出書類に関して、一項目ずつ言い争っていた職員は、血管が切れそうな形相で言い募る。

 机に頬杖をついて、西園寺はそれに向き合っていた。



 西園寺四郎は、『不可知犯罪捜査官』だ。

 人の世の法律では裁くことのできない、魔術や妖術などを使った犯罪、人ならざるものによる被害などを担当する。

 基本的にその権限に制限はなく、捜査、逮捕、断罪、処刑までを、捜査官一人の意思で行うことが許されている。


 結局、あの後、実夏と常基を連れて向かったのは県警本部だ。

 二人を確保したところで、捜査零課には連絡を入れており、特殊鑑識チームが現地へ向かっている。まずは死体の残骸と、現場の確認を終わらせるまでは、二人はそこにいることになるだろう。

 その後は、本部に所属する、法と各種の術に精通した職員たちが、尋問と処罰に当たる。

 尤も、彼らが持っているのは知識のみで、西園寺のような、実際に行動できる(すべ)は身に着けていないのだが。

 今回のように、凶暴さが薄いなど、さほどの緊急性がない場合、こうして逮捕以降の判断を本部へ任せることもある。

 無論、容疑者を術師として野放しにはしていない。相手は、八人の男を、何の儀式もなく簡単に〈戻りし者(レヴァナント)〉へと変貌させたのだ。

 ただ、その、わが子へと向ける無私の愛情だけを根拠にして。

 今、実夏の両手に嵌っている手錠は、本部で開発された、一切の術を行使することを禁じるものだった。



「他の奴やったら、どないするん?」

 ふいに、西園寺が尋ねた。

 きょとんとして、担当官が見返してくる。

「いや、ほら。ワシの他にも、捜査官はおるんやろ? 研修とかでも顔を合わせへんかったし、何人(なんにん)おるんかとか、名前も(なん)も聞いたことないけど。今までの事件ではこうしたとか、前例とかはないん?」

「……じゃあ、この方向で書類は纏めておきます。データは、いつものところですね?」

「は?」

 あからさまに話を切り上げて、席を立つ相手を、ぽかんとして見上げた。

「三十分したら持ってきますから、印鑑だけ用意しておいてください。それが済んだら、帰宅して結構ですよ。お疲れ様でした」

 そう言い置くと、相手はさっさとその狭い部屋を出て行く。

「……何やねん、一体……」

 ただ戸惑って、西園寺は小さく呟いた。



柘榴石の涙:完

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