第8話 殺人狂
第8話 殺人狂
ユウトは平静を装いながら、懐中電灯を向けていた。
そこには看護師の佐良が立っていた。
佐良「あら、どうしたの、如月君?それより、なんで、
君が-ここに?ここは高坂さんの病室でしょ。
ともかく、電気を点けるわね」
そう言って、佐良はスイッチを押すも、部屋の電気は点かなかった。
ユウト「無駄ですよ。蛍光灯は全部、抜いてあります」
佐良「・・・・・・どういう事かしら。イタズラじゃすまないわよ」
ユウト「それは-こっちの台詞ですよ。何しに来たんですか?」
佐良「高坂さんの様子が気になっただけよ」
ユウト「それを誰かに言いましたか?」
佐良「いえ、私の独断よ」
ユウト「なんで、部屋に入る時、声を掛けなかったんですか?」
佐良「・・・・・・忘れてたのよ」
ユウト「いい加減、とぼけるのは-よしてくれませんか?
あなたはゼンさんを殺しに来たんでしょう?」
佐良「何を言っているの?」
ユウト「ともかく、あなたの目論見は破れましたよ。いや、
あなたとアサギさんの目論見は」
佐良「ちょっと、待って。本当に何の事なの?誰なのかしら、
そのアサギという人は」
ユウト「まぁ、しらをきるなら、それで良いですよ。ともかく、
あなたは失敗したんだ。ざまーみろ」
佐良「・・・・・・如月君。あまり、ふざけた事を言わないで。
高坂さんは何処なの?言いなさい。警察を呼ぶわよ」
ユウト「呼べば-いいんじゃないですか?でも、罪状は何ですか?
ゼンさんは、自分の意思で病院を抜け出したんです。
それで今頃、アサギさんの所へ向かってるハズですよ」
その言葉に、佐良は血相を変えた。
ユウト「どうぞ、警察を呼んで下さい。あ、携帯なら、そこに
置いてますよ。ご自由に使ってください」
佐良「・・・・・・何を言っているの?ともかく、人を呼ばないと」
ユウト「あ、俺も付いていきますよ」
佐良「・・・・・・付いて来ないで」
ユウト「嫌ですね。アサギさんに連絡されるワケには-いかない
ので。それとも、やっぱ、依頼人が死ぬのはマズイで
すか?」
佐良「・・・・・・あまり、大人を舐めない事ね」
ユウト「そう言えば、オレンジの件、もしかして、佐良さんが
考えたんですか?あれ、中にカリウムを入れてたんじゃ
ないんですか?」
佐良「なんで私が、ミカンにカリウムなんか入れなきゃいけないのよ」
ユウト「・・・・・・俺、今、オレンジって言いましたよね。
どうして、ミカンって知ってるんですか?」
佐良「・・・・・・言い間違えたのよ」
ユウト「へぇ、そうですか。まぁ、今の会話、録音してあり
ますし、警察に連絡しますね」
佐良「頭、おかしいんじゃないの?ともかく、失礼させて
もらうわ」
ユウト「いいんですか?俺、今から、佐良さんの顔をネットに
アップしますよ。人殺しって」
佐良「ほ、本気で言ってるのかしら?それ、犯罪よ」
ユウト「ええ。そうですね。でも、訴えて困るのは、お互い様
なんじゃないですか?あなたは事故や自殺に見せかけて
殺す類いの暗殺者だ。警察の恐ろしさを一番、
理解しているはず。まぁ、少なくとも、警察にマークされ
た-あなたに、今後、依頼をする奴なんて居ないでしょうね」
佐良「・・・・・・あなたは何の為に、そんな事をしているのかしら?」
ユウト「そりゃ、暗殺なんて、この世にない方が良いに決まってますし」
佐良「それだけの理由?それだけの理由で、私を止めようと
言うの?」
ユウト「駄目ですか?」
すると、佐良は突然、笑い出した。
佐良「これは・・・・・・これは・・・・・・傑作ね。何処まで、馬鹿なの
かしら。ええ、ええ、ええ。でも、分かってるの?
顔なんて整形すれば、いくらでも変えられるのよ」
ユウト「かもしれませんね」
佐良「まぁ、いいわ。高坂 ゼンの居場所を言いなさい。
そうすれば、生かしておいてあげる。録音機も
素直に渡しなさい」
そう言って、佐良はナイフを取りだした。
ユウト「それ以上、少しでも動いたら、ナース・コールを
押しますよ」
佐良「・・・・・・数秒あれば、私は君を殺し、逃げれるのよ」
ユウト「それは怖いですね。でも、この部屋、カメラが置いて
あるんです」
佐良「そんなモノ、数分も-あれば処理できるわよ」
ユウト「小型カメラですよ。ほら、そこの机の上に置いてあるのと
同じタイプの。電源に付けなくていいタイプ。
電池式の隠しカメラですよ。
この暗い中、見つけられますかね?
あ、ちゃんと暗視用ですから」
佐良「・・・・・・なる程。嘘かホントか分からないけど、少しは
考えてあるみたいね」
ユウト「まぁ、一応・・・・・・」
佐良「でも、分かってないわね。フフ、フフフ。ああ、そう
なのね。いい加減、潮時なのかも知れないわね」
ユウト「分かってくれましたか。ともかく、俺も事を荒だて
たく無いんです。ゼンさん暗殺を断念する事を約束
してください。さもないと、今の会話や動画をネット
にアップします」
佐良「フッ、アハハハハ。何を勘違いしているのかしら?
君は死ぬのよ。今、ここで」
ユウト「なっ・・・・・・。で、でも・・・・・・」
佐良「私、スカウトが-かかってるのよ。昔の仲間から、
地下犯罪組織を作ろうって。ほら、暴力団とかと
違って、政府からの許可が無い組織、本当の闇の
組織。殺しや麻薬とか、そう言ったタブーとされた
領域を専門に扱う組織よ」
ユウト「な・・・・・・。そんなの公安が黙ってるハズが・・・・・・」
佐良「ええ。そうね。忌々(いまいま)しいけれど、日本の公安は優秀だも
のね。でもね、私達の賛同者は多いのよ。今、暴力団を
含め、犯罪組織に対する取り締まりは非常に強化されて
いっている。たとえば、お祭り、あるでしょ?それを-
扱う暴力団、つまり、テキ屋ね、それは弾圧されている
のよ。何が言いたいかっていうと、今、警察は、本来、
犯罪で無いような事まで、厳しく取り締まって来ている
のよ。暴力団を壊滅させるためにね」
ユウト「そ、それと-どう関係が・・・・・・」
佐良「分からないかしら?そうなると、わざわざ表で商売を
するのも馬鹿らしくなるのよ。ならば、いっそ、海外の
ように地下に潜る犯罪組織を作ればいい」
ユウト「そんな・・・・・・」
佐良「公安との殺し合いが、真に始まるのよ。楽しいでしょう?」
ユウト「殺し合いって・・・・・・」
佐良「まぁ、今までの日本が変だったのよ。だって、暴力団
っていう犯罪組織が、町中でどうどうと看板をかけて
存在していられるんですもの。まぁ、そういった甘さが
逆に、犯罪率を下げていたのかも知れないけどね。
まぁ、これからの時代、少しは面白くなってくるんじゃ
ないかしら?」
ユウト「狂ってる・・・・・・」
佐良「はは、狂ってる?そうね、狂ってるのかもね。でもね、
別に-世界なんて狂っているモノでしょ。なら、私が
狂っているのも普通よ、第一、日本人を殺すのに、
何のためらいが-いるの?」
ユウト「・・・・・・まさか」
佐良「ええ。そうよ。私は、日本人じゃ無いわ。だから、何?
懐かしいモノよ。戦争の時、在日-外国人だった私は招集
を受けたわ。当時、私はスパイとして、日本に潜伏して
いてね、色々と情報を奪ってやったモノよ。
ただ、そんな私が九州に向かって、本国より与えられた
命令は、従軍-慰安婦をする事だった。
笑っちゃうわよね。獣臭い軍人達の性処理を強要させら
れるの。特に、私は人気でね。もう、囲まれて犯された
モノよ。
まぁ、案外、楽しかったんだけどね」
そう言って、佐良は舌なめずりをした。
佐良「ただ、流石に、飽きてくるワケよ。毎日、毎日、やる事
ばかりだと。だから、私は銃の使い方を覚えたわ。
そっちの方が楽しそうだったから。
そしたらね、新たな命令が下ったの。
日本人の街に潜伏し、ひたすら殺せと。
それで、私は殺し続けたわ。
ナイフで銃で、縄で、鈍器で、日本人の男を、
たまに女を。あれは、最高だったわね。
日本の憲兵と追いかけっこをしたり-したなぁ。
まぁ、何人か殺してやったんだけどね」
ユウト「・・・・・・何で人殺しを楽しめるんだ。同じ人間なのに」
佐良「え?違うわよ。だって、お前達は、人間じゃ無いでしょ?
犬畜生にも劣る。私達は-そう教育されて来たのよ」
ユウト「あんたは・・・・・・可哀相だな」
佐良「何?」
ユウト「あんたは利用されてた-だけだろ?大体、その本国だって、
自分達のやっている矛盾に気づけなかったから-
滅んだんだ」
佐良「矛盾?」
ユウト「だって、そうじゃ無いか。社会主義者なんだろう?
お前達は。でも、本来、共産主義や社会主義ってのは、
その過程がどうであれ、全ての人々が平等な社会を
この世に実現したかったんじゃないのかよ?
なのに、人種差別をしたりとか、矛盾だろ?
あんたは、結局、ただの操り人形だ。そして、
これからも操り人形で居続けるんだ。
誰かに利用され続けるんだ。
何故なら、深く考えようとしないから。
考えずに、欲望のままに行動するから。
理性的に我慢する事を知らないから。
だから、思うよ。あんたは可哀相だって」
とのユウトの言葉に、佐良は顔を真っ赤にして、ワケの
分からない言葉を叫びだした。
そして、息を荒く、うつむき、ユウトを睨んだ。
佐良「殺」
その時、少し遠くから女性の悲鳴が-あがった。
それを聞き、佐良は、理性を取り戻した。
佐良「今のは・・・・・・」
すると、廊下から足音が聞こえた。
佐良「誰だ・・・・・・」
そして、そこには、ゼンが現れた。
ゼン「そこまでじゃ。大人しく、観念せい・・・・・・」
そう言って、ゼンは銃を佐良に向けるのだった。
・・・・・・・・・・