第7話 対峙
第7話 対峙
夜の病室にて、ユウトが物思いに-ふけっていると、ノックが
された。
ユウト「はい・・・・・・」
シュウ「すまん、俺だ。俺」
との声が扉の向こうからした。
ユウト「ああ。いいから、入ってくれ。一応、面会の時間外だから、
ばれるとマズイ」
シュウ「ああ」
そして、シュウは部屋に入ってきた。
シュウ「すまん、すまん。実は例の店で売ってなくてさ。
それで、店主から、同系列の店を紹介してもらって、
それで、時間かかっちまった」
ユウト「そ、それはゴメン・・・・・・」
シュウ「いいって。それより、買って来たぜ。ほら」
と言って、シュウは黒い袋を差し出した。
その中身をユウトは確認し、頷いた。
ユウト「ありがとう、シュウ。ほんと、ありがとう」
シュウ「いいって。それより、金が数万、余ったから。
これ、レシート」
そう言って、シュウは金とレシートをユウトに差し出した。
ユウト「あ、いや。それは取っておいてくれ。もう、必要ない
から」
シュウ「え?でもよ・・・・・・」
ユウト「野球道具でも買ってよ。もしくは、バッティング・
センターに行くとかさ。お礼と思って、受け取って
くれよ」
シュウ「・・・・・・分かった。預かっとく。ただ、今は金、足りてる
からさ、しばらく-とっとくよ。もし、ユウトが金に
困ったら言ってくれ。そしたら、この金を返すから」
ユウト「多分、平気だけど・・・・・・うん、ありがとう。そうして
おいてくれると、確かに安心かも」
シュウ「ああ。じゃあ、俺は帰るわ。明日っから学校に部活で
忙しくなるから、来れなくなるけど、まぁ、必ず、
また来るからさ」
ユウト「うん。ただ、俺も近いうちに退院できると思う」
シュウ「そうか。まぁ、次に会うのが、病院にせよ学校にせよ、
よろしくな」
ユウト「ああ」
シュウ「さってと・・・・・・もう、遅いし、帰るわ。じゃあな」
ユウト「うん。じゃあ」
そして、シュウはドアに手をかけ、しかし、振り返った。
シュウ「ユウト・・・・・・何をする気か知らないが、気を付けろよ。
絶対・・・・・・その・・・・・・死ぬなよ」
ユウト「大丈夫、ありがとう、シュウ」
シュウ「いや・・・・・・。悪い。死ぬなんて縁起の悪い事、
言っちまって」
ユウト「気にして無いから」
シュウ「そうか・・・・・・じゃあな」
ユウト「うん」
そして、今度こそ、シュウは部屋を去って行くのだった。
・・・・・・・・・・
翌日、ユウトは病室で考え込んでいた。
ユウト(下準備は整った。問題は、ゼンさん暗殺の日程が-いつか、
だ。それが分からないと、どうしようも無い)
すると、カンナが現れた。
カンナ『困っているみたいね』
ユウト「まぁね・・・・・・。やっぱり、暗殺の決行日が分から
ないとね・・・・・・」
カンナ『そうね。でも、逆に考えて見たら-どうかしら?』
ユウト「というと?」
カンナ『暗殺日を予測できなかったら、こっちで決めちゃえば
いいんじゃない?』
ユウト「・・・・・・なる程・・・・・・。ゼンさん-の所に行ってくる」
カンナ『ええ』
そして、ユウトとカンナはゼンの病室へと向かうのだった。
・・・・・・・・・・
ユウト「そう言うワケで、やはり、黒幕はアサギさん-だと
思うんです」
とのユウトの言葉に、ゼンは頷いていた。
ゼン「まぁ・・・・・・十分に-あり得る話じゃのう。事件屋とは
身内であっても、食い合う職種じゃからな。いつ、
裏切られようと不思議では無い。
特に、アサギは暴力団との提携を主張しておって、
ワシは-それに反対していた。そこら辺も関わって
おるのかものぅ」
そこまで言って、ゼンは-ため息を吐いた。
ゼン「しかし、ミカンの件は確かに、一理あるやも知れん
のぅ。持ち帰ったのも不自然じゃし、言われて見れば、
味も-おかしかった。やれやれ、道理で手足の痺れが
回復せんワケじゃ・・・・・・。
しかし、これから-どうしたモンかのぅ。
暗殺を黙って待つのもシャクじゃしのう」
ユウト「実は考えが-あるんだ」
そして、ユウトはゼンに計画を話した。
ゼン「なる程・・・・・・面白そうな事を考えるのう」
と、ゼンは凶悪な笑みを浮かべて言った。
ユウト「ただ、ゼンさん。安全を考えるなら、今すぐ、病院を
出て、何処かへ隠れた方が-いいんじゃ」
ゼン「どうかの・・・・・・。もし、ユウトの言うとおり、アサギが
黒幕なら、ただ逃げるだけじゃあ-弱い。ワシらの世界は
のう、舐められたら-お終いなんじゃよ。
もし、情けなく逃げてしもうたら、恐らく、ワシは一生、
アサギに対し、怯えながら過ごす事となるじゃろう。
それは事件屋としての意地が許せん」
ユウト「そっか・・・・・・。じゃあ、計画どおり・・・・・・」
ゼン「おう・・・・・・。ロビーで待っててくれや。一騒動、
起こしちゃるわい」
と言って、ゼンはクックと笑うのだった。
ユウト「その前に、支度をすませないと」
ゼン「おっと、そうじゃったのぅ」
そして、ユウトはパッパと用意を始めるのだった。
・・・・・・・・・・
それから、支度を終えたユウトは病院のロビーで本を読む-
ふりをして待っていた。
すると、一人の看護師が声をかけてきた。
看護師「何をしてるのかしら?」
ユウト「ええと、本を読んでいて。母さんが来ないかなって」
看護師「そう。ずいぶん、お母さんの事が好きなのね」
ユウト「まぁ、病室に居るのが飽きたってのも-あるんですけどね」
看護師「そう・・・・・・。ねぇ、ユウト君。あなた、宮沢のどんな
所が気に入ってるのかな?」
ユウト「え・・・・・・えぇと・・・・・・。あれ、看護師さんって、
あ、そうだ。告白は退院の後って言ってた・・・・・・。
そう、佐良さん」
看護師「そうよ。忘れてたの?でも、変ね。名前は覚えてるのに、
顔は忘れちゃうなんて」
ユウト「は、はは・・・・・・そ、そうですね・・・・・・」
と、ユウトは顔をそらして返事をした。
ユウト(言えない・・・・・・。宮沢さんに襲われかけた時に、
佐良さんの名前が出てきたから、覚えてたなんて)
と、ユウトは内心、思うのだった。
佐良「それで、宮沢の事、どこまで本気なの?」
ユウト「え?いやぁ・・・・・・どうでしょう・・・・・・。お、俺、
まだ、高校生ですし・・・・・・」
佐良「ふーん。ずいぶんとウブなのね」
その時、カンナが現れていた。
ユウト(カンナ・・・・・・?)
すると、エレベーターの方から声がした。
医師「やめて下さい、高坂さんッ!医者として、まだ、あなた
を退院させるワケには-いきません」
そこには点滴をつけるゼンと医師と看護師が居た。
ゼン「うるさいッ!ワシは退院するんじゃ!こんな-しけた所に
いられるかッ!第一、何じゃ、こんなモノッ!」
と叫び、ゼンは震える手で点滴を抜き、放り捨てた。
看護師「こ、高坂さん、どうか安静に。どうか・・・・・・」
ゼン「うるさいのぅ・・・・・・何の権限が-あって、ワシを止めよう
と-するんじゃ?ワシは子供か?子供なら親の許諾が-
あれば、子供の意思に関係無く、治療は出来る。
精神障害などを負って、後見人が居る場合も、同様じゃ。
じゃが、ワシは-どう見ても、違うじゃろう?
もう一度、言うぞッ!
ワシは退院するッ!退院するぞッ!」
と、よろけながらも叫んだ。
すると、看護師の佐良がゼンに駆け寄った。
佐良「高坂さん。考え直してください。私達に不手際が-
ございましたら謝罪いたしますので」
ゼン「うるさいッ!・・・・・・うぅ・・・・・・」
すると、ゼンは胸を押さえて-かがみこんだ。
佐良「高坂さんッ!」
ゼン「・・・・・・チッ・・・・・・仕方無いのぅ。今日は勘弁しちゃる。
じゃが、絶対に明日、退院するからのぅ。それと、
無闇に心配そうにワシの病室に近づくな。ええの?」
佐良「わ、分かりましたから。ともかく、病室に、戻りましょうね」
そして、ゼンは佐良-達に連れられ、エレベーターに乗ってい
った。
それをユウトは一部始終、見つめていた。
ユウト『よし・・・・・・これで、良い』
カンナ『これで、暗殺者は相当に焦るハズよ。退院されたら、
殺すチャンスが無くなってしまう。つまり・・・・・・』
ユウト『決行は今夜・・・・・・』
そして、ユウトも自身の病室へと戻るのだった。
・・・・・・・・・・
ユウトは母の前で昼食をとっていた。
ユウト「・・・・・・義母さん。ごめん。ちょっと、今日だけは
一人で居たいんだ」
母「あ・・・・・・そうなの。ごめんね。毎日、押しかけたら、
迷惑よねぇ」
ユウト「ううん。そんな事ないよ。毎日、来てくれて、
ありがとう。すごく嬉しいよ」
母「ユウト・・・・・・」
ユウト「ごめん、義母さん。今日だけ-だから」
母「分かったわ。じゃあ、今日は帰るわね。
明日は-どうしようかしら?」
ユウト「午後にでも来てくれると嬉しいな」
母「ええ。じゃあ、そうするわね」
そう微笑みながら言って、母は立ち上がった。
ユウト「義母さん・・・・・・義父さんにも-よろしくって
伝えておいてよ」
母「ええ。分かったわ。でも、どうしたの、急に?」
ユウト「ううん、何でも無い。大好きだよ、義母さんも、
義父さんも」
母「・・・・・・ええ、母さんも、もちろん、お父さんもよ」
そして、母は-しばらく意味深にユウトを見つめた。
母「・・・・・・じゃあ、帰るわね。ユウト・・・・・・体に気を付ける
のよ」
ユウト「うん。ありがとう、義母さん」
母「じゃあ。帰るわね、ユウト」
ユウト「うん」
そして、母は病室を去って行った。
ユウト「よし・・・・・・これで後は待つだけだ・・・・・・」
すると、携帯が鳴った。
ユウト「はい・・・・・・」
ゼン『おう、ユウトか。こっちはバッチシじゃ』
とのゼンの声が携帯から聞こえた。
ユウト「良かった。じゃあ、夜まで大人しくしてて。
夜になったら、こっそり-そっちに行くから」
ゼン『おう。しかし、思ったより、目立ってしまったが、
大丈夫かのう?』
ユウト「うーん、分からないけど、相手は逆にチャンスと
思う可能性は-あるよ。だって、今なら、ゼンさんが
ポックリいっても、そんなに不自然じゃないと
思うもん。医者の言う事を聞かずに、暴れて、
死んじゃうってのは」
ゼン『フム・・・・・・なら、あえて、夕飯は食わんでおこう
かのう。ユウトの差し入れの菓子でも食べとくわ』
ユウト「ま、まぁ・・・・・・あんまし、健康には良くないとは
思うけど」
ゼン『ともかく、さっきから、何度も外に出ては、近くに
看護師や医師が居ないか見て、居たら追い返し取る
からの。しばらくは寄って来ないじゃろう』
ユウト「うん。上手く、相手が引っかかってくれると、
いいけど」
ゼン『客観的に見れば、五分五分じゃな。とはいえ、ワシの勘では、
まず、間違い無く、アサギはGOサインを出すで』
ユウト「どうして?」
ゼン『あいつは、計画を練る方じゃが、いざ最後には焦って
時期を誤って実行する事が多いんじゃ。分かりやすく
言えば、こらえしょうが無いんじゃ。
それに、アサギは今回の事件を近くで見聞き-しとらん。
そうなると、注目を集めている、と暗殺者から聞いても、
ピンとは来んじゃろう。
まぁ、それにのう。今日、奴がチキって、襲って来ん
かったら、その時は本当に退院してやれば、ええ。
そうすれば、こちらの面子が立つからのぅ』
と言って、ゼンは笑うのだった。
ユウト「はは。じゃあ、そろそろ切るよ。一応、病院の中は
携帯での通話は禁止されてるから」
ゼン『おう、じゃあ、夜にの』
ユウト「了解」
そして、ユウトは携帯を切った。
ユウト「さて・・・・・・いよいよ-だ」
と、呟くのだった。
・・・・・・・・・・
その頃、病院を出たユウトの母は急ぎ、携帯を夫にかけていた。
父『どうした?まさか、ユウトに何か-あったのか?』
との声が、携帯から聞こえてきた。
母「い、いいえ。そうじゃないのだけど・・・・・・。
その・・・・・・変なの・・・・・・」
父『変って?どうしたんだ?』
母「それが・・・・・・何とも言えないんだけど、いつもと様子が
違う感じで・・・・・・。怖いの。ユウトが何処か遠くへ行って
しまう気がして」
父『待ってくれ・・・・・・・。つまり、ユウトの体調は悪化して
ないんだな?』
母「ええ。体は元気そうだったわ。本当に、あんな事が嘘だった
みたいに」
父『フム・・・・・・。となると、言動が変だったのか?』
母「変・・・・・・というか、まるで-お別れみたいな・・・・・・。いえ、
違うわ。そう、戦争に向かう兵士のような・・・・・・」
父『・・・・・・恐らく、何か隠しているんだろうな』
母「私も-そう思うわ。やっぱり、引き返して、ちゃんと聞いて
おくわ」
父『いや・・・・・・その必要は無いだろう。ユウトも-もう大人だ。
信じてやろう。な』
母「でも・・・・・・」
父『大丈夫。ユウトなら平気だ。ユウトなら何が-あろうと。
今回だって、ちゃんと私達の所へ戻って来てくれた』
母「ええ。そうね。そうよね。じゃあ、私は家に帰るわね。
ユウトは今日は一人にして欲しいって言ってたし」
父『ああ。なら、私も今日は、家に直行するよ。じゃあ、
切るよ。仕事中だしね』
母「ええ」
そして、携帯は切れた。
母「ユウト・・・・・・気を付けるのよ・・・・・・」
と、母は病院を振り返りながら、呟くのだった。
・・・・・・・・・・
ユウトは病室で黙っていた。
カンナ『ユウト・・・・・・話が-あるわ』
ユウト「うん。大体、分かるよ、何が言いたいか」
カンナ『そう・・・・・・』
ユウト「今回、シュウに用意してもらって、思ったよ。
やっぱり、何事も一人では限界が-あるってさ」
カンナ『そうね、その通りよ』
ユウト「それで、俺、思うんだけどさ・・・・・・」
そして、ユウトは推理をカンナに説明し出すのだった。
・・・・・・・・・・
病院に夜が訪れた。
廊下には人気が無く、ただ、その者の足音のみが響いていた。
そして、その者は無言で、その病室の扉を開いた。
次の瞬間、暗い病室からライトが照らされた。
見れば、そこには一人の少年が懐中電灯を向けていた。
ユウト「・・・・・・そこまでです、観念してください」
と、ユウトは犯人に告げるのだった。
それに対し、犯人はニヤリと笑みを浮かべるのだった。
・・・・・・・・・・