第6話 実行
第6話 実行
ユウトは-あまりの事態に、ドギマギとする-しか無かった。
ユウト「え、ええと。楽しい事とは何でしょう?」
と、やけに迫ってくる看護師・宮沢に対し、尋ねるのだった。
宮沢「それは、とっても、気持ち良い事よ」
そう言って、宮沢はベッドの上に乗ってきた。
ユウト(あ、やばい。この展開は-やばい・・・・・・。え?
貞操の危機?ナ、ナース・コールって、この人が
ナースだった・・・・・・)
すると、宮沢はユウトの左手を押さえた。
これでナース・コールを押すのはユウトには非常に難しく
なった。
ユウト「い、いや。その・・・・・・こ、心の準備が・・・・・・」
宮沢「大丈夫よ。お姉さんに任せて-おけば良いの」
そう言って、宮沢はユウトのズボンに手をかけ、脱がそうと
した。
ユウト「ちょ、ちょっ」
宮沢「ふふ・・・・・・・ん?」
すると、宮沢は何とは無しに、左を見た。
そこには、カンナの首がベッドの下から覗いていた。
宮沢「ヒッ、キャアアアアアアッッッ!」
と、叫び、宮沢は何度もコケながら、必死に部屋を抜け出していった。
それをユウトは-ぽかんとしながら見ているのだった。
しかし、段々とユウトも落ち着きを取り戻し、カンナの方を
見て、口を開いた。
ユウト「た、助かったよ、カンナ」
カンナ『チッ・・・・・・あと、ちょっと-だったのに・・・・・・』
ユウト「え?」
カンナ『ついつい、首を出しちゃったのがミスだったわね』
ユウト「・・・・・・そ、そう。ま、まぁ、いいや。結果的にカンナの-
おかげで助かったワケだし」
カンナ『くぅ、不本意にも程が-あるわ』
ユウト「あ、あのさぁ、一応、カンナは見た目は幼く見えるん
だから、あんまし-そういうのは」
カンナ『〈このゲームにおいて18歳-以上のキャラは存在しま
せん〉を地でいってるのよ』
ユウト「・・・・・・あ、そう。まぁ、何でもいいや。
そ、それにしても予想外だったよ」
カンナ『なんか、あれが暗殺者かと思うと、余程の人材不足
なんでしょうね』
ユウト「うーん、確かに。まぁ、でも、俺を殺す気は全く
無かったみたいだし、それは安心だよな」
カンナ『ユウトのハートを射殺し-に来たけどね』
ユウト「勘弁してくれよ・・・・・・」
カンナ『でも、今回の件で分かった事が-あるわ』
ユウト「え?何?」
カンナ『ユウト・・・・・・あなたは巨乳好き-ね!』
とカンナは指差しながら高らかに言った。
ユウト「・・・・・・ま、まぁ、胸が大きいのは嫌いじゃ無いけど」
カンナ『ふ。あの宮沢にも反応しないし、何より-この私に反応
しないのが-その証拠よ』
ユウト「・・・・・・何て言っていいか、分からないんだけど」
カンナ『すいませんねぇ、胸が洗濯板で』
ユウト「いや、誰も-そんな事、言って無いから」
カンナ『でも、きっと成長したら、メッチャ巨乳になると
思うんですけどねぇ・・・・・・』
ユウト「そ、そう・・・・・・」
カンナ『まぁ、冗談は-さておき、気を付けた方が良いわね』
ユウト「そ、そうだね。あんまし、こんな形で童貞を卒業
したく無いし」
カンナ『馬鹿、そうじゃ無くて、命の危険を考えなさいって
事よ』
ユウト「どういう事?」
カンナ『今回、相手が本気で殺しに来てたら、ユウト、あなたは
死んでたでしょ?もっと、気を付けないと』
ユウト「確かに・・・・・・少し、対策を練らないとな」
カンナ『そうそう。まぁ、具体的な事は自分で考えてね』
ユウト「分かったよ。ともかく、少し、眠るよ。あ、椅子を
扉の前に置いておこう。これで、誰か入ってこよう
としたら、少しの時間が稼げるしね」
カンナ『うんうん。きっと、看護師さん-は、ユウトが一人で
エロい事してたのかな、って思うでしょうね』
ユウト「・・・・・・何か悲しくなってきた。でも、命には代えられ
ないし。まぁ、朝、上手く早起き出来たら、戻しとこう」
そう言って、ユウトは椅子を動かすのだった。
・・・・・・・・・・
翌朝、ユウトはガバッと目を覚ました。
ユウト「・・・・・・悪夢を見た気がする」
すると、カンナが現れた。
カンナ『どんな夢かしら?』
ユウト「あ、おはよう、カンナ。どんな夢かって言われても、
良く覚えて無いんだけど、何か看護師達に追いかけ
られる夢でさ・・・・・・。そしたら、カンナが出てきて、
何とか逃げ切るんだけど、何か、カンナが成長しだ
してさ」
カンナ『メッチャ、美人になったでしょ?』
ユウト「いや、まぁ、よく覚えて無いんだけど、胸が
スイカみたいに-でかくなってて・・・・・・。
いや、スイカは言い過ぎか」
カンナ『爆乳って奴ね。フッ』
ユウト「・・・・・・でも、気付いたら、それはカンナじゃ無かった
んだよ」
カンナ『なんか馬鹿に-されてる気がするわね』
ユウト「そんな事、言われても・・・・・・。なんか女子高生みたいな
感じだったなぁ」
カンナ『それって、次の救う対象じゃない?』
ユウト「あ、そうなの・・・・・・」
カンナ『何で-そんな嬉しそうな顔してんのよ・・・・・・』
ユウト「え?い、いや。してないからね。いや、ほんとだから」
カンナ『・・・・・・もう、何でも-いいわよ。ともかく、ここ数日が
正念場よ。敵も動き出すでしょう。特に、もしアサギ
が黒幕だとしたらね』
ユウト「確かに・・・・・・。となると、今日か、明日か・・・・・・」
カンナ『今日は無いでしょうね。相手も入念に計画をしてる
でしょうから。もし、アサギが計画を早めるにせよ、
次の日に殺す、とはならないと思うわ。やはり、
数日は様子を見ると思うわ。とはいえ、保障は
出来ないけど』
ユウト「ともかく、朝食をとったらゼンさんに会いに行こう」
カンナ『そうね。それが良いわ』
・・・・・・・・・・
ユウトはゼンの病室を訪れていた。
ゼン「よう来たの」
ユウト「ゼンさん。お話が-あります・・・・・・」
と、ユウトはゼンの目を見据え、言うのだった。
それから、ユウトは事情と計画をゼンに包み隠さず話した。
それをゼンは、多少、怪訝な顔をしながらも聞いていた。
ゼン「・・・・・・話は分かった。じゃが・・・・・・正直、ユウトよ。
何と言って良いか。確かに、ワシの命を狙うモノは
おるじゃろうが・・・・・・看護師に偽装してまでするか。
ともかく、少し、考えさせて-くれ。すまんの」
ユウト「はい・・・・・・。その・・・・・・変な事、言って、すいま
せんでした」
ゼン「いや、気にせんでええ。ともかく、また、来てくれや」
ユウト「はい」
そして、ユウトは病室を後にした。
・・・・・・・・・・
廊下のソファーでユウトは座っていた。
ユウト『駄目だったかなぁ・・・・・・』
カンナ『微妙なラインね。でも、多少、心は動いている感じ
だったわよ』
ユウト『そっか・・・・・・。はぁ・・・・・・そりゃ、簡単に信じて
もらえるワケ無いよな。こんな-とっぴょうしも
無い話』
カンナ『ともかく今は待ちましょう』
ユウト『そうだね』
そう言ってユウトは窓から青空を見つめるのだった。
・・・・・・・・・・
ゼンは一人、悩んでいた。
ゼン(・・・・・・正直、常識的に考えれば、ユウトの話は妄想と
しか言いようが無い。無視するのが一番じゃろう。
そもそも、話に根拠が無さ過ぎる。
信じろ、という方が難しいじゃろうのう。
じゃが、ワシの勘が告げておる。
これは真実じゃと。
これは運命の転換点じゃと。
しかし・・・・・・)
そう思い、ゼンは-ため息を吐いた。
ゼン(思えば、苦労ばかりの人生じゃったな。
地上げで大もうけ-した後も、ワシだけは、
上手く手に入れた不動産や地元企業の株を換金して、
東京に戻った。
じゃが、新参の事件屋が歓迎されるハズも無く、
もうけた金も-泡のように消えていった。
それでも、ギリギリの所で、再び国-主導のプロジェクトに
一枚-噛む事が出来て、こうして、成り上がる事が出来て・・・・・・。
じゃが、結局は-このザマか・・・・・・)
ゼンは自身の震える手を見つめた。
ゼン(ワシが東京に戻る時、多くの同業者が反対した。土地は
持っとけば値上がる事が予想されたし、地元企業も繁栄
する事が約束されていた・・・・・・少なくとも、当時は-そう
誰もが思っていた。
じゃが、現実は違った。
五陵財閥の受注工事に手抜きが見つかり、そして、
太陽光-発電所が次々と故障し出し、結局、産業と
してモノにならんかった。
土地は暴落し、企業も多くが潰れた。
一種のバブル崩壊が起きた・・・・・・)
ゼン(さらに、戦争で壊滅状態にあった地元ヤクザの力も
徐々に戻り、事件屋は次々と、取り込まれるか、
殺されていった。
もし、ワシが残っていたら、これ程の成功は収められ
なかったじゃろう。
しかし、当然、あの時、ワシは-そこまで予見できて
居なかった。
あったのは、予感だけじゃった。
ここじゃ無い。ここでは、ワシはビッグになれんとの
予感じゃった。
そう・・・・・・あの時、ワシは・・・・・・)
すると、ゼンは笑い出した。
ゼン「ハッハッハ。そうじゃった。そうじゃったのぅ。
結局、最後に頼れるのは自分の勘なんじゃ。
自分を信じられなくて、何が事件屋じゃ。
ちゃんちゃら-おかしいわ」
そして、ゼンは再び、笑い出した。
ゼン「最初っから答えは決まっておろう・・・・・・。
ワシはユウトを信じると決めておる。
ユウトを信じるワシの勘を信じるんじゃ。
そこに理屈は要らん。
最後の最後に理屈は要らんのじゃ」
そして、ゼンは深々と-ため息を吐いた。
ゼン「腹は決まった-かのう・・・・・・」
そう言って、ゼンは-ゆっくりと立ち上がるのだった。
・・・・・・・・・・
その頃、ユウトは自動-販売機でオレンジ・ジュースを数本、
買っていた。
カンナ『あまり、砂糖やブドウ糖の入った飲み物をとると、
糖尿になるわよ』
ユウト『あ、いや。少し、気になる事が-あって』
そして、ユウトは違うブランドの-オレンジ・ジュースを
次々と飲み比べていった。
カンナ『もしかして・・・・・・オレンジ-ジュース・マニア?』
ユウト『ち、違うって。でも。やっぱりだ』
カンナ『何が?』
ユウト『いや、アサギさん-が持って来たミカン、あっただろ?』
カンナ『ええ、あったわね』
ユウト『やけに甘いと思ったんだよ。それこそ、
オレンジ・ジュース並に』
カンナ『ふーん。それで?』
ユウト『思ったんだけど、もしかしたら、あのミカン、細工が
されてたのかも-しれない』
カンナ『細工?毒が入ってたとか?』
ユウト『まぁ、人によってはね』
カンナ『どういう事?』
ユウト『つまり、カリウムが入ってたかも知れないって事』
カンナ『カリウム?あのミカンに』
ユウト『そう。でも、カリウムには味が-あるからね。
塩化カリウムは塩味に近い風味らしいから、
それをごまかすために、砂糖やブドウ糖で
味付け-したのかも』
カンナ『・・・・・・なる程ね。それで、オレンジ・ジュースを』
ユウト『そう。で、飲んでみたら、これに似てたかな』
そう言って、ユウトは果汁20%のオレンジ・ジュースを
見せた。
カンナ『おいしそうね』
ユウト『おいしいよ。甘ったるくてね』
カンナ『しかし、だからこそ、アサギは見舞いのミカンを
持って帰ったのかもね』
ユウト『多分ね。見舞い品を持ち帰るなんて、相当に
おかしな話だし』
カンナ『ともかく、これで黒幕がアサギってのは確定
したかもね。カリウムでは無いにせよ、やはり、
見舞いを持ち帰るのは-おかしいわ』
ユウト『だね。ただ・・・・・・ゼンさんに何て説明したものか』
カンナ『そうね。身内が犯人だとは思いたくないでしょうし』
ユウト『後で機会があれば、話してみるけど・・・・・・』
すると、廊下のはしから丁度、ゼンが歩いて来た。
カンナ『噂をすれば、とやらね』
ユウト『ああ』
そして、ユウトはゼンの方に歩いて行った。
ユウト「ゼンさん?」
ゼン「おう、ユウト。これを・・・・・・」
そう言って、ゼンはユウトに封筒を渡した。
ユウト「これって・・・・・・?って、お、お金?」
そこには数十万の金が入っていた。
ゼン「おう。何をするにせよ、金は要るじゃろう」
ユウト「ゼンさん・・・・・・。で、でも・・・・・・」
ゼン「何も言うな、ユウト。ワシは-お前を信じる事にした。
その金は-お前にやる。余っても返さんでええ」
ユウト「ゼンさん・・・・・・」
ゼン「その代わり、後は頼んだで」
ユウト「はい」
ゼン「少し、疲れたわ。部屋で休ませてもらうわ。
じゃあの」
そう言って、ゼンは背を向け、軽く手をあげるのだった。
それに対し、ユウトは深々と頭を下げるのだった。
・・・・・・・・・・
病室でユウトはノート・パソコンで検索をしていた。
その様子を、カンナは嬉しそうに、それでいて、
邪魔にならないように、そっと見守って居た。
すると、ノックがされた。
ユウト「はい」
シュウ「ユウト?入っていいか?」
ユウト「ああ。シュウか。うん、どうぞ、どうぞ」
そして、ユウトの同級生のシュウが病室に入ってきた。
シュウ「よ。元気か?」
ユウト「ああ。それより、シュウ。頼みが-あるんだ」
そして、ユウトはシュウに頼みを話した。
シュウ「なる程・・・・・・。しかし、売ってるかなぁ?」
ユウト「うん。ここの店で売ってるハズなんだ」
そう言ってユウトは、ノート・パソコンの画面を見せた。
シュウ「ふーん・・・・・・。って、秋葉原か・・・・・・。
ちょっと遠いなぁ・・・・・・」
ユウト「うん・・・・・・頼めないかな?」
シュウ「いや・・・・・・うーん。それより、何に使うんだ?
まぁ、お前だから変な事には使わないと思うけど」
ユウト「ごめん・・・・・・ちょっと、言えないんだ」
シュウ「そうか・・・・・・」
そう言って、シュウは-しばらく黙りこんだ。
それをユウトは不安げに見つめた。
しかし、シュウはユウトの方を見て、ニコリと笑った。
シュウ「いいぜ。何も聞かない。買って来てやるよ」
ユウト「ほ、ほんとに?」
シュウ「おいおい。流石に、そんな嘘は吐かないって」
ユウト「ありがとう、シュウ。ほんと、ありがとう」
シュウ「なんだよ、大げさな奴だな」
ユウト「いや、だって、お前、野球が忙しいのに」
シュウ「まぁ、だから、今日、行ってくるわ。
あ、でも代わりに、今度、飯でも-奢ってくれよ?」
と言って、シュウは笑みを見せるのだった。
・・・・・・・・・・
その夜、両親が帰った後、ユウトはベッドに転がっていた。
ユウト「・・・・・・」
カンナ『何を考えて居るの?』
ユウト「いや、俺って幸せだなぁって思ってさ」
カンナ『どうして?』
ユウト「いや、さ・・・・・・。みんな-が俺を信じてくれる。
それが嬉しいんだ」
カンナ『そうね・・・・・・でも、ユウト、それは・・・・・・。
いえ、何でも無いわ』
ユウト「ん?何だよ、気になるなぁ」
カンナ『何でも無いと言ってるでしょ。ともかく、寝なさい』
ユウト「分かったよ。じゃあ、お休み、カンナ」
カンナ『ええ。お休み、ユウト・・・・・・』
そして、カンナは-フッと消えていった、
病院の屋上にカンナは移動していた。
そして、カンナは月夜を見上げていた。
カンナ『ねぇ、ユウト。それは-あなただから、なのよ。
あなた-だから、皆は信じるの。
それは決して、私には真似の出来ない事。
私の選択は間違っていなかった・・・・・・』
と、瞳を閉じ、満月の下、呟くのだった。
・・・・・・・・・・