第4話 殺意
第4話 殺意
カンナ『・・・・・・それで、手がかりって?』
と、死神の少女は尋ねた。
ユウト「ああ。もし、潜入したのが看護師だとしたら、
病院での業務には慣れてないハズだろ?」
カンナ『でしょうね・・・・・・』
ユウト「カンナ、覚えている?前、カンナの事を見て、驚いた
看護婦の事」
カンナ『ええ・・・・・・。なる程ね』
ユウト「そう。霊感体質の看護師なんて-やっぱり変なんだよ」
カンナ『しかも、看護師は普通、あんなに取り乱したりは-
しないわ。もっと、肝が据わっている、
というか』
ユウト「そうなんだよ」
カンナ『でも、変ね・・・・・・』
ユウト「何が?」
カンナ『暗殺者が幽霊を見たくらいで怖がるかしら?
人殺しが』
ユウト「うーん。逆に人殺しだからこそ、幽霊が怖いんじゃ
ないのかな?」
カンナ『・・・・・・少し、違和感は残るわね。でも、何か手がかり
が見つかるかも知れない。ともかく、その看護師を
中心に捜査を行いましょう』
ユウト「で、でもさ、捜査って-どうすれば・・・・・・?」
カンナ『私に考えが-あるわ』
ユウト「なんか、嫌な予感がする・・・・・・」
カンナ『名付けて、ラブラブ大作戦よ』
と、カンナは宣言するのだった。
・・・・・・・・・・
翌日、ユウトは-ため息を吐いていた。
そして、昨日、カンナに言われた事を思いだしていた。
カンナ『いい、ユウト。今の時代、個人情報を聞くのは非常に
難しいわ。怪しまれてしまう。でも、自然な方法で、
個人情報を聞く手段がある。
それは・・・・・・その人の事を好きって、フリをすれば
いいのよ』
ユウト(はぁ・・・・・・何で好きでも無い人を好きってフリを
しなきゃいけないんだろう・・・・・・)
すると、一人の看護師が朝食を持って来た。
ユウト「あの・・・・・・一昨日、僕の面倒を看てくれていた
看護婦さんって、居ないんですか?」
看護師「あら、誰の事かしら?」
ユウト「ええと。自然な茶髪で、少し巻き毛っぽい感じの」
看護師「ああ。宮沢さん-ね」
ユウト「あ、はい。そうです」
看護師「なぁに?宮沢さん-が、どうしたの?」
ユウト「あ、いえ・・・・・・その何でも無いです」
とのユウトの思わせぶりな態度に、看護師は食いついてきた。
看護師「なに、なに。ちょっと、ちょっと。もしかして、
もしかするの?」
ユウト「い、いえ。そういうのじゃ無いです。ただ、優しく
してもらったんで、少し、気になって」
とのユウトの言葉に、看護師は何度も頷いた。
それから、その看護師は聞いても居ないのに、宮沢という
看護師の事を、色々と話すのだった。
廊下をユウトは歩いていた。
ユウト(結局、宮沢さん-は。一ヶ月前に-この病院に配属された
新任の看護婦で、とはいえ、他の病院に勤めていたか
ら、キャリアは長くて。それで、資格としては、
准看護師で、他の医師や看護師が居ないと、
基本、注射とかもしちゃいけなくって。
つまり、正看護師よりも、資格を簡単に取れる
って事で・・・・・・・。
さらに、あんまし同僚との付き合いも良くない
みたいで。
これは、かなり怪しいなぁ・・・・・・)
と、ユウトは歩きながら思った。
そして、ユウトは最後に看護師から言われた事を思いだした。
看護師「ただ、患者さん-と、そういう事は駄目だから、告白
するなら、退院してからよ!」
と、ウインクしながら言うのだった。
ユウト「勘弁してくれ・・・・・・」
と、ユウトは呟くのだった。
すると、背後にカンナが現れた。
カンナ『でも、宮沢という看護婦、顔は可愛い感じ-じゃない?』
ユウト『流石に、人殺し相手は無理だよ・・・・・・』
カンナ『そう』
ユウト『それより、宮沢さん-と会って悪意を感じる事は出来る?』
カンナ『前も言ったけど微妙ね。天性のブリッ子とかだと、
直接の悪意を読み取るのは難しいわ。ただ、隠しきれず、
徐々に漏れ出る悪意なら感じれるわ。
つまり、前も言ったけど、悪意が病院のどこかから
発生しているのは分かるって事』
ユウト『うーん。となると、困ったなぁ。というか、あんまし、
直接、会いたくないんだよなぁ・・・・・・』
カンナ『どうして?』
ユウト『なんか、恥ずかしくない?』
とのユウトに対し、カンナは-ハリセン(扇子)を取り出し、
振り下ろした。
しかし、ユウトの頭を霊体のハリセンは透けていった。
ユウト『あのさぁ、それ・・・・・・何の意味が?』
カンナ『突っ込みよ』
と、カンナは誇らしげに答えるのだった。
ユウト『そ、そう・・・・・・。ともかく、ゼンさん-の病室に行こう』
そして、ユウトはゼンの部屋へと向かうのだった。
ユウト「失礼します」
と言って、ユウトが扉を開くと先客が居た。
それはゼンと同じ雰囲気をまとった男で、明らかにカタギの
人間では無かった。
ゼン「おう。ユウトか。よう来たな」
ユウト「ゼンさん、ど、どうも」
と、ユウトは頭を下げた。
男「兄貴、こちらは?」
ゼン「おう。こいつは如月 ユウトって言う奴じゃ。若いが、
中々に、見所が-あるというか。骨が-あるというかのう」
男「ほう・・・・・・」
と、男は鋭く-ユウトを見据えた。
ユウト「あ、あの、俺、邪魔みたいですし、帰ります・・・・・・」
と、ユウトは男の眼光に圧倒され、退出しようとした。
すると、それをカンナが阻んだ。
カンナ『待ちなさい。この男、悪意を感じたわ』
ユウト『あ、悪意?』
ユウトは振り返って、男の顔を見た。
ゼン「まぁまぁ、ユウト。邪魔なワケなかろう。のう、アサギ、
お前も問題ないじゃろ?」
とのゼンの言葉に、アサギと呼ばれた男は頷いた。
アサギ「それは、もう。兄貴の-お知り合いなのでしたら」
ゼン「そういうワケじゃ。ユウト、座ってきや」
と言って、ゼンは笑うのだった。
それから、ユウトはアサギの隣で、緊張しながら会話をしていた。
しかし、アサギからユウトに直接、話が来る事は無く、
ユウトは気まずさを感じていた。
ユウト(か、帰りたい・・・・・・)
カンナ『我慢よ、ユウト』
ユウト『・・・・・・というか、このアサギさんて、ゼンさんの
頼れる部下って話だけど、本当に、ゼンさんに
対して悪意を?』
カンナ『どうかしら?対象は分からないけど、少なくとも
強烈な悪意を持っているわね』
ユウト『え?ゼンさんに向けられてるんじゃないの?』
カンナ『そんな事、一言も-言ってないでしょ』
ユウト『なんか、振り出しに戻された気分だよ・・・・・・』
カンナ『人生なんて-そんなモノよ』
ユウト『まぁ、でも、面倒だから、アサギさん-がゼンさん
に悪意を持ってると仮定しておこう』
カンナ『そうね。あらゆる可能性を考えすぎて、何も考えが
進まないのは愚かな事だものね』
ユウト『じゃあ、アサギさん-が、ゼンさんを殺したいとして、
やっぱり、権力争い的なモノかなぁ?』
カンナ『恐らくは-そうでしょうね。しかし、皮肉なモノね。
真の敵は同業者どころか、腹心の部下だったなんて。
恐らく、ゼンの持つシノギを全部、奪っていこうと
いう魂胆なんでしょうね』
ユウト『ひどい話だ。だとして、どうして今、ゼンさんを
殺そうと思ってるんだろうね?』
カンナ『どういう事?』
ユウト『だって、どうせ殺すなら、病院じゃなくて、たとえば、
山奥で二人で居る時とかに、やるんじゃ無いかな?』
カンナ『・・・・・・それも-そうね。いや、でも、それは駄目なのよ』
ユウト『どうして?』
カンナ『ゼンの探偵-事務所には、きっと、アサギを嫌っている
奴も居るのよ。それだと、明らかにアサギが殺したと
分かれば、警察にリークされるんじゃ無い?』
ユウト『なる程。その点、病院だと、ぽっくり死んだように
見せかけられるワケだね』
カンナ『そうね。人を殺す最も賢い方法は、事故か自殺に
見せかける事だからね。そうなれば、事件にも
ならないし、警察も動きづらい。そもそも、
この国は検死率が異様に低いから、多少-殺しに
ミスが-あっても、ばれない事が多いわけで』
ユウト『でも、そう考えると、車での事故を引き起こしたのも
アサギさん-の仕業なんだろうね』
カンナ『そうね。事故で死ねば良し。死ななくても、重傷に
なれば、病院で殺せば良い。二段構えって事ね』
ユウト『流石に、良く考えられてるなぁ。探偵が犯人やってる
ようなモノだからね・・・・・・』
すると、ゼンがユウトの方を見て、口を開いた。
ゼン「ん?どした、ユウト?浮かない顔をして」
ユウト「あ、いや。えぇと、ちょっと-お腹が減って。ハハ」
ゼン「なんじゃ、それなら、ほら。アサギが持って来たミカン
が-あるぞ。ワシの大好物なんじゃが、そんなに食えん
しのう」
ユウト「あ、ありがとう-ございます」
そして、ユウト達はミカンを食べ出した。
特に、ゼンは次々とミカンをほおばっていった。
カンナ『〈そんなに食えん〉とか言ってた割には、いっぱい
食べてるわね・・・・・・』
と、カンナは呆れたように言った。
ゼン「いやぁ、このミカン、相変わらず-甘くてうまいのう」
アサギ「ハウス・ミカンですからね」
そして、ゼンは再びミカンを食べ出した。
ゼン「しかし、最近、尿の出が悪くてのう・・・・・・。まぁ、
大した事じゃないんじゃが」
アサギ「まぁ、俺もよく-そうなりますよ。特に、女を抱き
過ぎた日には」
ゼン「はは。全く、女遊びが過ぎる奴じゃな」
ユウト「あ、あの・・・・・・」
ゼン「なんじゃ?ユウト」
ユウト「・・・・・・尿の出が悪いのは、腎機能が低下している
可能性が-ありますよ」
ゼン「どういう事じゃ?」
ユウト「つまり、腎臓が弱っていると、尿の出が悪くなったり、
逆に頻尿になったりとか-するんです。
絶対に、お医者さんに言った方が良いですよ」
ゼン「ふむ・・・・・・。なら、そうするかのぅ・・・・・・」
アサギ「考え過ぎでは?たかが、尿の出が悪いくらいで・・・・・・」
ユウト「いえ。腎臓が弱っていると食事も変えなきゃ
いけませんよ。たとえば、カリウムの含まれるモノは
食べちゃ駄目なんです。そう・・・・・・ミカンとか」
アサギ「・・・・・・つまり、俺の見舞いが毒だと?」
ユウト「・・・・・・病人にとっては、その可能性が-あります」
アサギ「・・・・・・」
アサギはユウトを睨み据えていた。
強烈な悪意と殺気がユウトに降り注ぐも、ユウトは一歩も
引かなかった。
ユウト「カリウムの過剰摂取で引き起こる-高カリウム血症
という病気の症状の一つは、手足の痺れなんで す」
と言って、ユウトはゼンの震える手を見るのだった。
アサギ「・・・・・・兄貴、失礼しました。今日は帰らせて頂きます」
そう言って、アサギは残ったミカンを持って、部屋を出るの
だった。
ユウト「はぁ・・・・・・」
と、ユウトは-ホッと息を吐くのだった。
それに対し、ゼンはクックと笑い出した。
ユウト「ゼ、ゼンさん?」
ゼン「いや、ユウト、お前さん-は本当に凄い奴かもしれんのう。
あのアサギに対し、ああも啖呵を切れる高校生がおる
とはのう。ヤクザですら、怯える-あのアサギに」
と言って、ゼンは再び笑った。
ユウト「ご、ごめん・・・・・・」
と、ユウトは深々と頭を下げた。
ゼン「まぁ、アサギを悪く思わんでくれや。あいつはワシの
好物を持って来てくれた-だけなんじゃよ」
ユウト「あ、うん。分かってるよ」
ゼン「しかし、ユウト、お前さん、色々と詳しいのう。
まるで、医者みたいじゃったぞ」
ユウト「あ、実は医学部-志望で受験勉強の合間に、色々と
そういう本を読んだりしたりしてて。本当は、
もっと、受験勉強に集中した方が良いとは思う
んだけど・・・・・・」
すると、ゼンは震える両手でユウトの両肩を掴んだ。
ゼン「ユウト・・・・・・。お前さん-が医者か・・・・・・。ほうか。
なぁ、ユウトよ。お前さん-は、もっと自分に自信を
持て。お前さん-は凄い奴じゃ。単なる頭でっかちとは
違う。偏差値で医者になる連中とは違う。ワシは-そう
思う。お前さん-のような奴こそ、医者になるべきじゃと
ワシは思う」
と言って、ゼンは何度も頷き、手を放した。
ユウト「・・・・・・ありがとう、ゼンさん。俺、頑張って医者に-
なるよ」
ゼン「おう。まぁ、医者も相当に大変じゃろうが、気張ってき」
と言って、ゼンは二カッと笑みを見せるのだった。
その頃、アサギは車の中で携帯を耳に当てていた。
アサギ「俺だ。・・・・・・計画は変更だ。プランBで行く。
後は任せたぞ。・・・・・・・・・・・うるさい。
分かっている。・・・・・・何?十分な前金は払った
だろう。なめているのか?いいから、言われた
通りに-やればいいんだ。切るぞ。いや、待て。
妙なガキが居た。気を付けろ・・・・・・・。ん?
名前は・・・・・・如月 ユウトと言ったな。
そうだ、患者だ。高校生で顔は整っている。
・・・・・・じゃあ、今度こそ切るぞ」
そう言って、アサギは携帯を閉じた。
そして、アサギは病院の方を振り返り、フッと笑った。
アサギ「・・・・・・じゃあな、兄貴」
そう呟き、アサギは車を発進させるのだった。
・・・・・・・・・・




