第3話 戦後
如月 ユウトは死神の少女カンナと契約し、少年・少女達を
死の運命から救う事になったのだが、何故かオッサンを助ける
事になってしまっていた・・・・・・。
神無エクステンド
第3話 戦後
十三年前、戦争が-あった。
大陸からの大規模な侵攻に、この島国は-さらされた。
そして、西日本の大半を占領され、それでも、自衛隊の
決死の働きと、あまりにも遅い友軍の到着により、日本は
領土を完全に取り戻した。
だが、戦禍の跡は、あまりにも-むごたらしく、この国に
残っていた。
そんな中、ワシは・・・・・・仲間達と共に、泥水をすするように
裏の世界で生きてきて・・・・・・。
男「夢・・・・・・か。懐かしいモンじゃ・・・・・・」
と、強面の男は目を開き、呟いた。
すると、ノックの音が響いた。
男「・・・・・・どうぞ」
と言いつつも、男は常の癖で、身構えると共に、退路の確認を行った。
男(もっとも。こんな事をしても-この体じゃ何の意味も無いが
のう・・・・・・。第一、暗殺者なら、ノックをせんだろうしの)
と、思うのだぅた。
すると、扉が開かれ、一人の少年が入って来た。
彼こそは如月 ユウト、その人だった。
男「おう、坊主か。なんじゃ?どうか-したんか?」
ユウト「いえ。オジサンが無事かなって」
男「無事って。ああ、昼間の事は冗談じゃ。気にせんで-ええぞ。
まぁ、でも、せっかく来たんじゃ。のんびり-してくと、
ええ」
ユウト「ありがとう-ございます」
男「ああ。そういう堅苦しいのは-いらんわ。仲良くしようや。
敬語とか無しでの」
ユウト「う、うん」
男「ところで、坊主、名前は?」
ユウト「如月 ユウト」
男「ほうか。ええ名前じゃな。ワシはな、高坂 ゼン-じゃ。
よろしく-のう」
そう言って、高坂は手を差し伸べた。
ユウト「よ、よろしく」
そう答え、ユウトは-おずおずと手を握りかえした。
ゼン「ああ。ワシの事はゼンと呼んでや」
ユウト「わ、分かった、ゼンさん」
ゼン「うんうん。ああ、ちなみにワシはヤクザとかやないで。
じゃから、仲良くしても暴対法で捕まったりは-
せんから安心せぇや」
ユウト「あ、うん。それは良かった・・・・・・」
とのユウトのホッとした声に、ゼンは笑った。
ゼン「しかし、坊主も物好きじゃのう。こんなオッサンの事を
気にかけるとは」
ユウト「ま、まぁ・・・・・・」
ゼン「とはいえ、見舞いは-これが初めてかもしれんのう。
ほんまに、独り身は辛いのう」
と言って、ゼンは-カラカラと笑うのだった。
ユウト「あの、あんまし聞いちゃいけない事かも-しれないん
だけど。ゼンさん-の職業って・・・・・・?」
ゼン「ああ。探偵業をやっとるわ。とは言っても-それは表向き
じゃ。裏は事件屋ちゅうのを-やっとる」
ユウト「事件屋・・・・・・?」
ゼン「そうじゃ。合法、非合法に関わらず、もめ事を何とか
するのがワシら-の仕事じゃ。坊主も困った事が-あった
ら相談に乗るで」
ユウト「い、いや、今の所、大丈夫だから」
ゼン「ほうか。それは良い事じゃ、ほんまならワシら-となんか、
関わらない方が幸せなんじゃよ・・・・・・」
と、ゼンは自嘲気味に呟いた。
ユウト「でも、そういった仕事って危険じゃ無いの?」
ゼン「そりゃあ、危険だらけじゃのう。同業者だけじゃなく、
警察にも注意を払わんと-いかんしのう」
ユウト「も、もしかして、その怪我も・・・・・・」
ゼン「・・・・・・ああ、ほうじゃ。車に細工されての。犯人の目星
は-ついとるんじゃがの。まぁ、今のワシじゃどうしよう
も無いわ」
ユウト「ご、ごめんなさい。変な事、聞いて」
ゼン「ええわ、ええわ。気にすんな。フッ・・・・・・まぁ、ワシの話
なんて聞いても-おもろう無いじゃろう?」
ユウト「そんな事ないと思うけど・・・・・・」
ゼン「・・・・・・はぁ、なら少し昔話に付き合ってや。
戦後、政府は原発をゼロにしようとした。
それは知っとる-やろ」
ユウト「うん。それで、自然エネルギーを中心にしようと」
ゼン「ほうじゃ。それで、メガ・ソーラー、巨大な太陽光発電
の施設を金に糸目をかけずに建設しようとした。
そこで、その設置場所に選ばれたのが、九州一帯
じゃった。
あそこらは、戦争のせいで農業に使えなくなって、
それでも大量の農地が余って、それで政府は特別法
を作って、農地も売買できるようにしたんじゃ」
ユウト「もしかして、その地上げを?」
ゼン「・・・・・・ああ。施設を作るには、まとまった土地が
必要で、土地に穴があるわけにはいかん。
じゃが、頑固な権利者は多くての。
いくら金を積もうと、土地を売ってはくれん。
それが、いくら国や地方の発展になると説いても
耳を貸しはせん。
ユウト、分かるか?周囲の土地を全て買ったのに。
一つ。一つ-真ん中に小さな土地を持っているアホの
せいで、施設を作る事が出来ぬ悔しさが」
ユウト「・・・・・・それで非合法な手段で脅したりしたって事?」
ゼン「・・・・・・そうじゃ。あの頃はワシも若くての。やばい橋も
渡ったりした。じゃが、おかげで仲間と一緒に大もうけ-
出来た。ところが、後で聞いた話じゃと、ワシが脅して
土地を売らせた権利者が自殺をしたんじゃ・・・・・・。
そいつは元々、精神を病んでいてな・・・・・・。
だが、悪い奴では無かった。そう、悪い奴では。
あれほど、むかついていた相手じゃが、死なれると
なると、こたえたわ・・・・・・」
ユウト「そう・・・・・・なんだ」
ゼン「すまんの。後味悪い話をしてしもうて。
じゃが、大怪我をして、これも自業自得と思うように-
なってのう。
あいつの苦しみは-こんなモノでは無かろう。
焼身自殺の苦しみは・・・・・・。
やり直したいのぅ・・・・・・やり直したい。
この汚れきった人生をやり直したいのぅ・・・・・・」
と、目に涙を浮かべながら、ゼンは呟くのだった。
ユウト「やり直せるよ、きっと」
と、ユウトはゼンの目を見据え、言うのだった。
その言葉を聞き、ゼンは目を少し見開いた。
ゼン「ユウト・・・・・・お前は、違うのう。他の人間とは何かが
違う。お前さん-の言葉は何故か心に染みいる。
そうか・・・・・・ワシじゃったのか。ワシ自身じゃったのか。
やり直そうとしなかったのはワシ自身じゃったのか。
ああ・・・・・・やり直そう。そう。体を早く治して、
やり直そう。
ユウト、ありがとう、ありがとう-のう。
お前さん-と会えて良かった。
本当に・・・・・・」
そう言って、ゼンは手を差し出した。
ユウト「俺もゼンさん-と会えて良かったよ」
そう微笑みながら答え、ユウトはゼンの震える手を
握るのだった。
・・・・・・・・・・
深夜の病室でユウトは眠れずに居た。
ユウト「カンナ、居る?」
カンナ『・・・・・・何かしら?』
ユウト「ゼンさん-は、やり直せると思う?」
カンナ『どうかしら。一度、裏の仕事に手を染めると、
まっとうな職に就けなくなるわ。何故なら、普通に働くのが
馬鹿らしくなるから。あの手の職業は上手く行けば、
数日で数百万とか稼げるでしょう?』
ユウト「そ、そうだろうね・・・・・・」
カンナ『・・・・・・ただ、失敗した時は一瞬で何千万と飛んでいく
職業よ。とはいえ、上手くいっている時は、真面目に
働くのが馬鹿らしくなる程の金が手に入るわ。
その生き方を捨てるのは難しいんじゃないかしら?』
ユウト「そう・・・・・・なんだろうね。でも、俺は信じたい、
ゼンさんを信じたいんだ」
カンナ『・・・・・・まぁ、可能性は-あるでしょうね。何事にも』
ユウト「うん」
カンナ『それより、あれは確かに命を狙われても-おかしくない
類いの人間よ。ユウト、もし、あなたが彼を救いたい
のなら、何か策を施した方がいいんじゃない?』
ユウト「うーん。とはいえ、誰が暗殺者か、というか-そもそも
暗殺者が既に入りこんでいるのか。いや、もしかしたら、
見舞客に紛れて襲う可能性も-あるし・・・・・・。
うーん・・・・・・」
カンナ『でも、恐らくは病院に居る人よ。悪意を感じるから』
ユウト「なぁ、カンナ。その悪意って、いつも感じているのか?
つまり、今とかも」
カンナ『そうね。今も感じるわね』
ユウト「なら。今、泊まって居る人なんじゃないか」
カンナ『そうね。となると、入院患者か、看護師か、医師か。
という事になるわね』
ユウト「それでいて、看護師や医師だとしたら、昨日、今日
と、当直の人なんじゃないかな?」
カンナ『恐らくはね。ただ、私の感覚も100%じゃないわ。
悪意の残滓を感じているだけ-かも知れないし。
あまり、当てにしない方が良いかもしれないわ。
あくまで目安ていどに思っておいて』
ユウト「分かった。ただ、今までの情報からすると、ゼンさん
の命が狙われているってのは確かな気がする」
カンナ『恐らくね』
ユウト「となると・・・・・・うーん。どうしようも無いなぁ」
カンナ『まぁ、明日もゼンに会いに行って、さりげなく、
命を狙っている相手を聞くといいんじゃない?』
ユウト「まぁ、そうなるよなぁ。しかし、相手を聞いても、
実行犯が分からなきゃ-しょうがないよなぁ」
カンナ『そうね。でも、犯人も大変よね』
ユウト「大変?」
カンナ『潜入するのだって一苦労じゃない?患者になるなら
病気にかからなきゃ-いけないし。看護師や医師なら
資格が居るし』
ユウト「ああ、確かに。あれ・・・・・・待てよ・・・・・・」
カンナ『どうしたの?』
ユウト「もしかして、手がかりが見えたかも知れない」
と、ユウトは呟くのだった。
・・・・・・・・・・