第16話 星詠み
第16話 星詠み
カンナの右手には、今、強大な術式が凝縮していた。
その手の上には、三つの銀河が重なり、今にも弾けようと
していたのだった。
クルト『グゥッ・・・・・・だが、それでも私はッッッ!』
そう叫び、クルトはユウトを喰らおうと、一気に
躍り出た。
カンナ『愚か者がッ!』
次の瞬間、術式は発動し、小型のビッグバンとも言える
爆発が生じ、クルトの霊体は吹き飛んで行った。
さらに、建物に溜まりこんだ気も破裂し、建物からは、
次々と気が噴き出していった。
それを感じた霊感の強い生徒達は、泣き叫びだした。
さらに、突如、電灯や窓が割れだし、建物全体が揺れ出した。
そして、気づけば、ボイラー室から火事が起きた。
警報が鳴り、スプリンクラーが作動しようとしたが、
整備を怠っていたためか、すぐにスプリンクラーは-
止まってしまった。
生徒達と教師達は-この事態に、半狂乱になって、煙の中、
外へと逃げようとした。
そんな中、塾長の執務室に激しくノックがされた。
気づけば、ユウト達は-その部屋に居た。
見れば、クルトが苦しげに地面に倒れていた。
「塾長ッ!塾長ッ!火事ですッ!開けて下さいッ!」
との声が、扉の外からした。
カンナ『ユウト、逃げないと』
ユウト「あ、ああ・・・・・・」
しかし、ユウトは倒れるクルトを放っておけなかった。
そして、煙が部屋へと流れ込んでくる中、ユウトは
クルトの体を運んだ。
クルト「何故・・・・・・私を助ける。私は-お前を喰らおうと
したんだぞ・・・・・・」
ユウト「それでも、貴方には-お世話になりましたから」
との言葉に、クルトは返答に詰まった。
クルト「・・・・・・そうか」
とだけ、クルトは-か細く答えるのだった。
そして、ユウトはクルトの体を扉の前まで運んだ。
クルト「ここまでで良い。鍵くらい自分で開けれる。
お前達は、そっちの隠し階段から下りると
良い。早く、行ってしまえ・・・・・・」
と、うつむきながら言うのだった。
ユウト「はい。塾長・・・・・・今まで-お世話になりました」
と言って、ユウトはカンナと共に駆けて行った。
それをしばらくクルトは見つめた。
そして、呟くのだった。
クルト「彼を喰らうのは無理だな。あれ程の高潔な魂、
喰らえば、私の憎しみまで消え去ってしまう」
と、自嘲気味に呟くのだった。
そして、ため息を吐き、クルトは鍵を開けるのだった。
・・・・・・・・・・
ユウトとカンナは隠し階段を必死で駆け下り、隠し扉から
飛び出した。
そして、建物から離れて行くと、辺りが騒然としているのに
気づいた。
周囲には野次馬が群れており、救急車と消防車の
サイレンが近づいて来ていた。
カンナ『行きましょう。あまり、ここに居るのは良くないわ』
ユウト『ああ・・・・・・』
そして、ユウトは人混みに-まぎれ、家へと戻るのだった。
・・・・・・・・・・
小鳥のさえずる声が響いた。
そして、ユウトはベッドから起き上がり、目を覚ました。
ユウト「あ、なんだ。夢か。いやぁ、凄い夢、見ちゃったなぁ」
と言って、ユウトは-ほのぼのと笑った。
『夢じゃないわよッ!』
との声が机の上のフィギュアから-かけられた。
ユウト「あ、カンナ。おはよう・・・・・・って、やっぱ夢じゃ
ないのか」
カンナ『当たり前でしょ。塾長とのバトル、中々、大変だった
わね』
ユウト「ていうか、あれって、カンナが-やったのか?
何か、大変な事に-なってなかった?」
カンナ『あれでも手加減したのよ。溜まった気を上手く放出
しないと死者が出ちゃうからね。死者が出ない形で
運命操作を頑張ったのよ。偉いでしょ?
小鳥達のお話だと、死者は居ないそうよ』
ユウト「あ、小鳥と話せるんだ。初耳だよ」
カンナ『ともかく、ネットで調べて見たら?』
ユウト「そうだね」
そして、ユウトはパソコンを起動し、トップ・画面の
ニュース欄を見た。
そこには見出し付きで、『緑鳳会・本校にて火災が発生』
と載っていた。
それをユウトは憂鬱な気分でクリックした。
ユウト「ええと・・・・・・あ、死者も重傷者も無しだって。
良かった。煙を吸い込んで気持ち悪くなった
人が数名いるみたいだけど、それだけみたい
だ。はぁ、本当に良かった」
と、ユウトはホッと胸をなで下ろした。
カンナ『流石、私。これ程の精密な術式の使い手も
まず居ないでしょうね』
と、誇らしげに言うのだった。
それに対し、ユウトは苦笑を漏らした。
ユウト「全く。カンナには敵わないよ」
カンナ『当たり前でしょ。今更なにを』
すると、部屋の扉がノックされた。
母「ユウト、朝よ。起きなさい」
との朗らかな声が響いた。
ユウト「あ、うん。今、行くから」
と、ユウトは答えるのだった。
・・・・・・・・・・
ユウト家の食卓では、食事が-つつがなく行われていた。
ユウト「チャーシュー、とっても-おいしいよ、義母さん」
父「母さんのチャーシューは本当に-おいしいからな。
もちろん、他の料理も」
母「ふふ、ユウトの退院祝いに作ってみたの。大丈夫?
胃もたれ-しない?」
ユウト「大丈夫、むしろ、体が肉を欲してる感じ」
父「とんだ肉食系だな」
と言って、ユウト父は微笑むのだった。
母「あっそうだ。ユウト、お母さんね、昨日、夢を見たのよ」
ユウト「え?どんな?」
母「えっとね、昨日、ユウトが-お話してた-お人形の子、
居るでしょ。あの子が夢に出てきたの。とっても
良い子だったわよ。色んな-お話をしてくれたわ。
起きたら、忘れちゃったけど・・・・・・ユウト?」
ユウトは口をあんぐりと開ける事しか出来なかった。
カンナ『フッ、あの後、ユウト母と、夢で-いっぱい
おしゃべりしたのよ』
と言うカンナを、ユウトは口を開けたまま、チラッと
見るのだった。
父「か、母さん・・・・・・。その、人形とは何の事だい?
私の聞き間違えで無ければ、ユウトが人形と話して
たと聞こえたんだが・・・・・・」
との言葉に、ユウト母は両手で口を押さえた。
母「ち、違うのよ。ええと、人形じゃ無くて、フィギュア
よ・・・・・・」
ユウト(母さん、フォローになって無いよ・・・・・・)
と、ユウトは内心、泣きそうになりながら、呟くのだった。
父「ま、まぁいいか・・・・・・聞かなかった事にしよう」
と言って、ユウト父は-ぎこちなく食事を再開した。
母「ユウト、ごめんね。お母さん、うっかり-しちゃって」
と、ユウト母は本当に済まなそうに言うのだった。
ユウト「い、いいよ、別に。大丈夫だから」
カンナ『うーん。ユウト母は天然で可愛いなぁ』
とのカンナの声に、ユウトは深く-ため息を吐くのだった。
母「そ、そうだ。テレビ、点けましょう。テレビ。
今日は-どんなニュースをやってるのかしら」
と、ユウト母は話題を変えようとした。
そして、ユウト母がリモコンでテレビを点けると、
緑鳳会での火災事件を丁度やっていた。
母「あら?これって、ユウトが通ってる塾じゃないの?」
父「ほんとだ。大変だぞ、ユウト。ん?どうした、ユウト?」
ユウト「いや・・・・・・何でも無いよ」
と、ユウトは真実も言えず、答えるのだった。
そして、ユウトは再び、ため息を吐くのだった。
そんなユウトを横目に、カンナは眠たそうに-あくびをするのであった。
・・・・・・・・・・
緑鳳会の建物は鎮火されていたが、
建物の大半が焼け焦げ、さらに水浸しに-
なっていた。
その様子を人混みにまぎれ、一人の魅惑的な女子高生が
見ていた。
女子高生「あらら・・・・・・こりゃ、この建物は使い物に-ならない
わね。受験シーズン-まっただ中だってのに、これは
痛いわね。しかも、今までレールに沿って勉強して
来た生徒達は、この突発的な事態を対処できずに、
パニックを起こすんじゃないかしら?
天下の緑鳳会も今年は厳しいかもね」
と、呟き、興味を失ったように去って行くのだった。
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