第15話 過去生
第15話 過去生
クルトの力で周囲の霊的な空間が歪んでいく中、カンナは
結界を張って自身とユウトの体を守った。
そして、その結界を浸食しようと、黒い影が結界に
纏わり付いてきた。
ユウト「え?ええッ?何これッ?夢じゃないのッ?」
すると、全身を黒い影に染めたクルトが半笑いで叫んだ。
クルト「ヒハハッ!違う、違うよ、ユウト君、これは夢で
あって、夢で無いッ。ただ、大丈夫、大丈夫だよ。
ここで死んでも現実世界では意識不明になるだけ
だからさぁッ!」
カンナ『ユウトッ!奴の言葉を無視しなさい。奴の言葉には
呪詛が混じってる』
ユウト「う、うん・・・・・・でも、俺、何をすれば」
カンナ『・・・・・・数分、意識を保ってなさい。今から、私は
術式を構築する。その間、私の意識は飛ぶから、
この結界の中で意識を保ち続けるのよ』
ユウト「わ、分かった。この結界の中に居れば-いいんだろ?
戦ったりしなくて、いいんだろ?」
カンナ『そう。絶対に、戦おうとしては駄目。この結界の中で
数分間、ジッとしてるの。いいわね』
ユウト「了解。それくらいなら出来るよ」
カンナ『油断しないで。なら、始めるわよ・・・・・・』
そして、カンナは詠唱を開始した。
カンナ《今、詠唱を開始する。惑星アークレイ、惑星アルカナ、
惑星アースの三点を基準として、術式を構築する》
と、この惑星に存在しない言語で、詠唱を紡ぐのだった。
そして、カンナの体の周囲に、数字の羅列が展開されて
いった。
ユウト「す、すごい・・・・・・」
と、ユウトは-その神々(こうごう)しい姿に見とれ、呟いた。
すると、クルトは結界にゆっくりと近づいて来た。
クルト『ユウト君ッ!君は、ここに来る途中に、見たハズだ。
輝かしいテンプル聖-騎士団の遺物を。あれは、失われた
彼等の鎧の霊体だ。
君は彼等の末路を知っているか?
彼等は-彼等の王と皇に、そして、
神に裏切られたのだ。
死後、彼等の魂は呪い続けた。
煉獄のような世界で呪い続けた。
金に執着し裏切った国王-フィリプス-五世を、
偽りの罪を着せた教皇-クレメンテ-四世を、
そして、王の子孫を、呪ったのだ』
さらに、悪魔の様な形相と化したクルトは続けた。
クルト『二人の王と皇は、テンプル聖-騎士団の壊滅から、
数ヶ月後に、原因不明の病で倒れ、死去した。
さらに、フィリプス-五世には三人の息子が居たが、
その息子達には男子は授からなかった。
結果、隣国との王位継承の争いが起き、
フランシス王国には千年戦争が巻き起こり、
王国には暗黒期が訪れたのだ』
そして、クルトは叫んだ。
クルト『だが、まだ足りないッ!誰よりも忠実であった彼等に
煉獄の苦しみしか与えなかった《神》、奴に対する-
復讐は未だ済んでいない。
オオッ、呪う、呪うぞ、神よッ!
多少の悪徳は成したモノの、誰よりも貴方に忠実に
仕え、戦った我等に対し、何故、そのような仕打ちを
なさるのかッ!オオッ、オオオオオオッ!』
と、体を炎のように歪めながら、クルトは叫び続けた。
ユウト「何なんだッ!あんたは何なんだッ!そんなの過去の話
じゃ無いかッ!」
と、ユウトは耳と目を塞ぎながら叫び返した。
クルト『違うッ!それは-ただの過去では無いッ!
聖騎士団の幹部が次々と捕まっていく中、
一人の若者が全ての暗号を手に、逃げ出した。
カレドニア・ランドへと逃げ延びたのだ。
そう、彼はフランシス王国内に残してある-
聖騎士団の財宝の隠し場所を、暗号として-
全て手にしていた。
そして、彼は-いつの日か、いつの日か、その資産を-
元に、聖騎士団を再び結成する事を夢見て、秘密結社
を作り、その暗号を継承し続けた』
ユウト「だから、それが貴方と何の関係がッ!」
クルト『まだ、分からないかッ?その若者こそ、私の前世だ。
しかし、現世、その記憶を失っていた私は愚かにも
使命を忘れ、意味も無く暮らしていた。
だが、ある日、悪魔の男と出会い、私は全てを
思いだした。
ああ、あの時の感覚、忘れられない。
今にして思えば、かつて、私は世界の鍵であった。
しかし、ふと気づけば、私は-ただの学生であった。
しかも、私が願いを託した秘密結社は暴走しており、
私の理想とは程遠かった。
そして、私は深く絶望した。
何と言う事だ。何と言う事だ。
これなら、過去生など思い出さなかった方が
良かったのだ。下らない獣のままの方が、どれ程、
幸せであっただろうか・・・・・・。そう思った」
そして、クルトは突如、泣き出した。
いつの間にか、ユウトは-その様子を目を開き、見つめていた。
クルト「・・・・・・だが、新たな希望を見つけた。
新たな人類の存在に私は気づいた。
彼等を導く事が私には出来る。
そう、新人類の王国を現世に体現する事が私には
出来るッ!
そして、神が陰ながら愛し続けた旧人類を、奴隷の
ように扱ってやろう。
それが、私の目的なのだッ、如月 ユウトッ!」
との鬼気迫るクルトの言葉に、ユウトは気圧された。
ユウト「そ、それが本当だとして、俺には関係無いッ!」
クルト『いや、関係はある。この塾は新人類を探し出す-
ためのモノでもある。公安よりも先に見つけ出さ
ねば-ならない。
幸い、日本政府は他国と違い、この事態を軽く
見ており、公安も-まだ予算不足で大して動けて
居ない。
今しかない、今しか。
今を逃せば、私達は数の力で旧人類に滅ぼされる
だろう。
だからこそ、ユウト。君を認めよう。
君を一人の男と認めよう。
だから・・・・・・私に協力しろ。いや、協力してくれ。
君は-かろうじて新人類に該当するだろう。
これから、激しい迫害が起きる。
中世の暗黒期を越えた-魔女狩りが始まる。
その時、かつてのテンプル聖-騎士団と同じように、
偽りの罪で、新人類は処刑されていくだろう。
私は-それを防がねばならない。絶対に-それだけは
防がねばならない。
だからこそ、私は、この日本という国に、私の政党
を作らねば-ならないのだッ!』
とのクルトの演説に、ユウトは聴き入ってしまっていた。
ユウト(こ、このヒトは本気で言っている。そして、このヒト
の言っている事には、多分に真実が含まれている。
でも、どうすれば・・・・・・俺は・・・・・・)
そして、ユウトは-凜とクルトを見据えた。
完全に黒い影と化したクルトは結界に張り付こうと
していた。
ユウトは結界越しに、クルトの頭の部分を撫でた。
ユウト「あなたも・・・・・・辛かったんだね・・・・・・」
との言葉に、影のクルトは、後ずさった。
クルト『お、お前は・・・・・・お前は何だ・・・・・・。
私を哀れんでいるワケでも無い・・・・・・。
ああ、私は-この感覚を知っている。
そう、祝福だ・・・・・・洗礼だ。
ユウト・・・・・・お前、お前は、天使や精霊にも
匹敵するというのか。
ならばこそ・・・・・・絶対に、その力は
手に入れねば-ならないッ!絶対にッ!
お前の魂を喰らえば、私は最強になれるッ!
なる程、なる程、最強の星詠みのカンナが
お前を選ぶワケだ。
フハハッ!
喰らってやるぞッ、ユウトッッッ!
私と一つとなろうじゃ無いかッ!』
そして、クルトは手を結界に突き刺した。
クルトの手は結界の光で焼かれて行くも、結界は
衝撃でヒビ割れだした。
ユウト「ま、まずいッ・・・・・・」
しかし、ユウトに成すすべは無かった。
クルト『あと少し、あと少しで、ユウトが私のモノ
にィッッッ』
と、叫び、クルトは波動を結界に叩き込んだ。
次の瞬間、結界が砕けた。
そして、クルトはユウトに襲いかかろうとした。
その時、クルトは急に動きを止めた。
クルト『馬鹿な・・・・・・何だ、この力は・・・・・・。
ば、化け物か・・・・・・お前ッ』
と、クルトは体を震わせながら、呟いた。
カンナ『やれやれ、間一髪みたいね』
と、術式の構築を完了させたカンナは、言うのだった。
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