第14話 聖人
第14話 聖人
ユウト「俺は俺です。俺の意志をねじ曲げるような真似は
今後しないで下さい」
とのユウトの言葉に、塾長のクルトは考え込んだ。
クルト「・・・・・・なる程。君は私の管理下から離れたいと。
それは・・・・・・それは寂しいね」
ユウト「でも、俺は-もう子供じゃ無いです」
クルト「子供だよ。君は幼い。大人になろうとして、
背伸びしている子供だよ。もしくは、大人を
演じようとしている子供だ」
ユウト「どういう事です?」
との言葉に、クルトは目を細め、部屋を歩きながら
語りだした。
クルト「私は少年漫画が好きだ。何が好きかと言うと、その
荒唐無稽さだ。あの主人公達は美しい。
輝いている。
それは私にとり、うらやましいんだよ。
主人公達は世界に対して立ち向かっていく。
それは現実では絶対に出来ない。
たとえば、世界を牛耳る秘密結社が-あるとして、
彼等が戦争を引き起こしているとして、君は本気
で立ち向かえると思うかい?いや、無理だ。
そんな事をしようとすれば、まず、暗殺されるだろう。
そうでなくても、家族や友人が見せしめに殺される
だろう。それに耐えられる人間が-どれ程、居るか。
友人の少ない私でも、それは耐えたくないね」
と言い、クルトは言葉を区切った。
クルト「別の例を出そうか?
主人公達は-よく大人を否定する。というか敵の思想を
否定する。それは見ていて爽快だよ。
それは正論なのだから。
ああ、正論、素晴らしい。
でも、この世界で正論を振りかざした所で、どれ程の
反響が-ある?
いや、何も無い。それどころか潰されるのがオチだ」
クルト「浮気は良くない。嘘は良くない。脱税は良くない。
外見で人を判断するのは良くない。酒やタバコは良くない。
砂糖やブドウ糖は良くない。
そして、学歴社会は良くない・・・・・・」
と、クルトは自嘲気味に言った。
ユウト「それと俺が子供な事と、どう関係が-あるんですか?」
クルト「じゃあ、教えよう。大人とは行動しないモノなんだよ。
子供は考え無しに行動する。自分が正しければ何を
しても良いと、信じてるからね。
だが、現実は何かをしようとしても大抵は失敗する。
もしくは自滅する。
だからこそ、大人は-正しい行動だとしても、慎重に
動くのさ。色々と考えてね。
その点、君は何だ?今日、何故、私の所に来た?
退院したばかりなのだろう?
何故だい?明日、来れば良かったじゃないか?
確かに、私を問い詰めるのは正しいだろう。
私のとった行動に問題は-あるだろう。
だが、君は焦りすぎなんだよ。如月 ユウト君」
とのクルトの言葉に、カンナは怒りで体を震わせた。
クルト「おっと、今回の主導者は君だったか、カンナちゃん。
まぁ、君は本当に子供だからね。仕方ないさ」
カンナは何かを反論しようとしたが、悔しそうに口をつぐん
で、うつむいた。
すると、ユウトが口を開いた。
ユウト「カンナは大人ですよ。俺なんかより、ずっと物知り
ですし、頼りになりますし。何より優しいんだ」
カンナ「ユウト・・・・・・」
と、カンナは嬉しそうに口を開いた。
クルト「・・・・・・ほう」
と、一方でクルトは面白そうに二人を見つめた。
クルト「これは面白い。面白い関係だ。友達とも恋人とも
違う・・・・・・家族・・・・・・そう、家族という言葉が-
ふさわしい関係だね、君達は」
ユウト「多分そうなんです。カンナは俺にとって、大切な
妹みたいなモノですから」
と、はっきりとユウトは告げた。
そんなユウトに対し、カンナは霊体のハリセンで頭を
叩いた。
ユウト「な、なんでッ?」
カンナ『年齢的には私が-お姉さんでしょ。お姉様と
呼びなさい、この馬鹿』
ユウト「ええ・・・・・・?」
と、ユウトは困った風に呟いた。
そんな二人のやり取りを見て、クルトはクックと顔に
手を当て笑った。
クルト「これは、これは、非常に興味深いよ。
ただ、それでも君は子供だよ、ユウト君」
ユウト「・・・・・・どうしてです?」
クルト「話は聞いている。君は見知らぬ子供を助けて、
事故にあったそうじゃ無いか。しかも、一度は
死にかけたとか。もしかして、カンナちゃんの
力で生き返ったのかい?だとしたら、素晴らしい。
人を生き返らせるなど、たとえ、条件や制約があるに
せよ聖人級の力だ。
その力、欲しいな・・・・・・」
と言って、クルトはカンナを刺すような目で見つめた。
それをユウトは-かばうように立ちはだかった。
クルト「ほう・・・・・・勇ましいね。さながら姫を助ける騎士
のようだ」
ユウト「家族を守るのは当然の務めです。
ところで、話を戻して良いですか?」
クルト「どうぞ。君との会話は何であれ、楽しいからね」
ユウト「あなたは、他人をかばってトラックに-はねられた
俺を幼いと言う」
クルト「その通りだ」
ユウト「なら・・・・・・俺は-それで良いです。
その行動が幼いと言われるなら、俺は幼くて
いいです。だって、それが俺の意志だから。
それを捨ててまで大人になる気は無いです」
とのユウトの言葉に、クルトは考え込んだ。
クルト「・・・・・・そのような自己犠牲的な生き方に何の
意味がある?自己満足か?
だが、今回は感謝されたかも知れないが、
次回また感謝されるとは限らないんだよ。
人を助けるという事は、大抵の場合、
別の人を傷つける事に繋がるのだから。
今回のように、非の打ち所がない救済という
のは、恐らく、君の人生でも-もう訪れる事は
無いだろう」
ユウト「かもしれません。でも、塾長、あなたは勘違い
してますよ」
クルト「ほう、何をだい?」
ユウト「俺は今回の件で、感謝されてませんよ。
助けた子供とも-あれ以来、一度も会えてません。
その子供の親族や関係者の方とも、誰とも会って
いません。今回、俺は誰からも感謝されていません
よ」
との言葉に、クルトは笑った。
クルト「ハハッ、それは寂しい限りだね、ユウト君。
君は自己満足すら許されなかったのか」
とのクルトに対し、ユウトは哀れんだ目を向けた。
それに対し、クルトはハッとした。
ユウト「塾長。あなたは悲しい人ですね。
俺は感謝されたいから子供を助けたワケじゃ
ないんですよ。もしくは、他の人に賞賛され
たいから、やったワケでも無いんです」
クルト「・・・・・・なら、何のために、君は-それをした。
何の見返りが-あった」
との言葉に、ユウトはクルトの目をしっかりと見据え-
はっきりと答えた。
ユウト「誰かを助けるのに、理由は要りますか?」
とのユウトの言葉に、クルトは大きく目を見開いた。
そんなクルトに対し、ユウトは続けた。
ユウト「それに、見返りなら-ありますよ。
そのおかげで、俺は色んな人達に会えた。
カンナ、ゼンさん-に会えて、シュウとも再会できて、
ルリちゃん-とも出会えて・・・・・・。
だから、俺に後悔なんて-ありませんよ。
もし、もう一度、同じ人生を繰り返すと-
しても、俺は同じ選択を繰り返すでしょう。
そう、誇りを持って言えます」
とのユウトの宣言に、クルトは体中を狂喜で震わせた。
そして、鼻に手を当て、考え込んだ。
クルト「これは・・・・・・これは・・・・・・そういう事か。
しかし・・・・・・これは、本物なのか・・・・・・。
なる程。ユウト君、なる程。素晴らしい。
君は確かに主人公だ。いや、違う、君は
選ばれている」
ユウト「確かに、俺はカンナの契約者に選ばれました」
クルト「そういう事じゃない。君には聖人の資格がある。
そう、聖人の資格が。そもそも一度-死んだと
いうのに生き返る、それこそ聖人の条件では
無いか。素晴らしい。欲しい・・・・・・欲しいよ。
ユウト君。私は君が欲しくて仕方ない」
と言って、クルトは唇を歪めた。
それと共に、音をたてながら-周囲の空間は変質していくの
だった。
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