第10話 退院
第10話 退院
如月 ユウトは-ついに退院する事となっていた。
ユウト「いやぁ、案外、早く退院できて良かった、良かった」
と、軽く荷物をまとめているのだった。
カンナ『あんた、さっきから、何度、荷物を詰め直したら
気が済むの?』
ユウト「いやさ。何か、する事が無いと暇というかさ」
カンナ『する事なら-あるでしょ。人助けよ、人助け。
それが契約の対価なんだから」
ユウト「まぁ、分かってるんだけど・・・・・・あ、そうだ」
カンナ『何よ?』
ユウト「やばい、忘れてた。勉強しないと」
との言葉に、カンナはハリセン(扇子)でユウトを叩くも、
霊体のハリセンは透き通っていった。
ユウト「それ、何の意味が-あるの?」
カンナ『ノリよ。のりのり。フフッ』
ユウト「ふーん。でもさ、俺、一応、医学部-志望でさ、
しかも、義父さんと義母さんに迷惑をかけたく
無いから、なるべくなら国立に行きたいんだよ。
あ、国立は学費が安いんだよ」
カンナ『知ってるわよ、それくらい』
ユウト「あ、そうなんだ」
カンナ『あのねぇ・・・・・・あんた、あんまし常識に捕らわれてると、
ひどく後悔する事になるわよ』
ユウト「どういう事?」
カンナ『今は何も言うまい』
と言って、カンナはフッと笑った。
ユウト「そ、そう・・・・・・。しかし、色々ありすぎて、勉強する
って選択肢が飛んでたなぁ。やばいな、塾の宿題、
大変な事に-なってるぞ、こりゃ」
カンナ『どこの塾に行ってるのよ?』
ユウト「緑鳳会だよ」
カンナ『ゲッ・・・・・・』
ユウト「え?知ってるの?」
カンナ『まぁ、こっちでも有名だからね。怨念のたまり場って』
ユウト「え?そうなの?」
カンナ『そうよ。授業に付いていけなくて止めていく子とかの
念が、たまりに-たまってるのよ。ユウトは-よく頑張れるわね』
ユウト「いや、まぁ、大変だけど・・・・・・。はぁ、確かに宿題の
事を考えると気が重いよ」
カンナ『大丈夫よ、ユウト。世の中には浪人という選択肢も
あるのだから』
ユウト「浪人は-したくないなぁ」
カンナ『ぜいたくな奴ねぇ』
ユウト「いや、義父さんと義母さんに悪いからさ」
カンナ『あっそ。まぁ、いいわ。せいぜい、今の内に勉強して
おきなさい』
そう言って、カンナは消えていくのだった。
・・・・・・・・・・
そして、いざ退院の日となった。
両親が退院の手続きをしている間、ユウトは入院アンケートに律儀に
記入していた。
カンナ『マメねぇ』
ユウト『まぁ、お世話に-なったんだし』
そして、ユウトはアンケートを二つ折りにして、箱に入れた。
すると、両親が歩いて来た。
父「ユウト、さぁ、行くぞ」
ユウト「うん」
母「ユウト、荷物、本当に自分で持つの?」
ユウト「大丈夫だよ、これくらい」
と、カバンを掲げながら答えた。
母「そう・・・・・・」
父「さ、行こう」
そして、ユウト達は父の運転する車に乗り込むのだった。
・・・・・・・・・・
その晩、ユウトの母による退院祝いの料理が振る舞われた。
それは豆腐料理やお粥など、一見-質素に見えたが、それぞれに
工夫が凝らされ、その味も折り紙付き-だった。
父「いやぁ、母さんは何を作らせても-おいしいなぁ」
母「あらあら」
と、ユウト母は照れくさそうに答えた。
ユウト「病院食もおいしかったけど、義母さんの料理には
敵わないね」
母「そうかしら?」
その様子を見て、カンナは-物欲しそうな顔をした。
ユウト『カンナ、食べる?』
カンナ『いいわよ、別に。で、でも、じゃあ、少し-もらおうかしら』
と言って、ササミの霊体をヒョイとつまんで食べた。
とはいえ、物質としてのササミは残っており、ユウトは
不思議な感覚に陥った。
そして、試しに、そのササミをユウトは箸でつまんで
食べてみた。
ユウト(なる程・・・・・・。心なしか味気ない感じだ。
神棚に-お供え物するのって、もしかしたら、
神様に-お供え物の霊体を食べてもらってるって
事なのかもなぁ)
と思うのだった。
カンナ『まぁ、そんな所ね。あ、私、お酢系は苦手だから』
ユウト『あ、そうなんだ。俺は好きだけどな』
カンナ『・・・・・・べ、別に-お供え物しても、いいんだからね』
ユウト『・・・・・・神棚-作れって?』
カンナ『そんなの作らなくていいから、何か依り代を用意して
くれると助かるわ』
ユウト『依り代?』
カンナ『後で説明するわ。ともかく、今は食事を済ませなさい』
とのカンナの言葉に、ユウトは頷くのだった。
・・・・・・・・・・
それから、ユウトは-ひさびさの自室で、ベッドに寝転がっていた。
カンナ『太るわよ』
ユウト「ちょっとくらい許してくれよ」
カンナ『そうね。でも、綺麗な部屋ね。生活臭が無いと言うか』
と、部屋を見渡しながら言った。
ユウト「ああ・・・・・・あんまし、趣味とかも無いしね」
カンナ『フーン。まぁ、いいわ。それより、依り代よ、依り代』
ユウト「ああ、さっきも言ってたね。で、俺は何をすれば
いいんだ?」
カンナ『私が-こっちに居やすいように、器を用意して欲しいのよ』
ユウト「何か難しそうな注文だなぁ。俺、宗教的な儀式とか
全く詳しく無いんだけど」
カンナ『そんなの必要ないわよ。話は単純よ。人形か何かを
用意しなさい。それに私が乗り移るから』
ユウト「つまり、人形に憑依するって事?」
カンナ『ええ。そうすれば、私は現世に留まりやすくなるわ』
ユウト「ふーん。分かった。人形なら何でもいいのか?
というか、動物とかの人形でも-いいの?」
カンナ『ま、まぁ、よっぽど変なのじゃ無きゃね。
私のイメージに近いモノが嬉しいわ』
とのカンナの答えを聞き、ユウトは部屋から人形を探した。
すると、押し入れの奥からヒナ人形が出てきた。
ユウト「これは?」
カンナ『それは既に、魂が入ってるわ。粗末に扱わない事ね』
ユウト「マジですか・・・・・・。綺麗にしとこ」
そう言って、ユウトはヒナ人形に付いたホコリを綺麗にした。
すると、心なしかヒナ人形が微笑んだように見えた。
ユウト「・・・・・・さて、となると、弱ったな。何か良い人形は
無いかな」
と、呟き、部屋のあちこちを探し回った。
すると、引き出しの中に、アニメのフィギュアが有った。
ユウト「ち、違うんだ。これは友達に-もらったモノで」
と、ユウトは-いきなり言い訳を始めた。
カンナ『あ、それ-いいわね。それにしましょう。うん。
中に、何も入ってない感じだし、清楚な感じが
私にピッタリね』
と、カンナはフィギュアを見て、何度も頷いた。
ユウト「ま、まぁ、いいけどさ」
カンナ『じゃあ、決まりね。まぁ、ユウト、恥ずかしいかも
しれないけど、学校に-このフィギュアを毎日、持って行くのよ』
ユウト「ファッ?い、今、なんと?」
と、ユウトは奇声をあげて、尋ねた。
カンナ『だって、傍に居ないと-いざって時、困るでしょ』
ユウト「ま、まぁ、そうかも知れないけど・・・・・・。あ、なら、
別の人形を探すよ。義母さんに聞いてくるから」
カンナ『その必要は無いわ。この人形、気に入ったわ』
ユウト「チェンジで」
カンナ『不可よ』
ユウト「お、俺・・・・・・毎日、鞄にアニメのフィギュアを持って
いかなきゃ-いけないのか」
と、肩を落としながら言った。
カンナ『大丈夫よ。ばれても-きっと、生暖かい目で見られる
だけよ』
ユウト「それが嫌なんだよ・・・・・・。まぁ、いいや。袋にでも
入れておけば、ばれる事も無いだろう」
カンナ『じゃあ、決まりね。パッパと人形に-入る事にするわ』
ユウト「どうぞ」
カンナ『じゃあ、行くわよ』
そして、カンナの体はフィギュアの中に吸い込まれていった。
すると、フィギュアから念話で声がした。
カンナ『私よ、私。どう?私の声、ちゃんと聞こえてる?』
ユウト「ああ、聞こえてるよ」
と、ユウトはフィギュアに向かって答えた。
カンナ『よし、これで魔力の消費を抑えられるわね』
ユウト「魔力?何かゲームみたいな事、言うね」
カンナ『他に何て言えば良いのよ。オーラとか?ともかく、
私が-この世界で何かをするのはエネルギーが必要
なのよ』
ユウト「なる程ね。カンナも苦労してるんだなぁ」
カンナ『そうよ、いたわりなさい』
ユウト「カンナは偉い、偉い」
と言って、ユウトはフィギュアの頭を撫でた。
カンナ『何か馬鹿にされている気がするわ。でも、良い子
良い子されるのは嫌いじゃ無いから、もっとして
いいわよ』
ユウト「そ、そう。でも、恥ずかしいから-もういいや」
カンナ『何でよッ!いじわるッ!』
ユウト「い、いや、だって、端から見たら、深夜にアニメの
フィギュアの頭を撫でてるのって、やばくない?」
カンナ『端から見なきゃいいでしょ!』
ユウト「そんな事、言われても・・・・・・」
と、ユウトは困ってしまった。
すると、部屋の扉が-いきなり開かれた。
母「ユウト、どうかしたの?今、話し声が聞こえ・・・・・・」
とまで言いかけ、ユウト母は絶句した。
その視線の先には、アニメの美少女フィギュアが-あった。
母「ユ・・・・・・ユウト。そ、そう。か、可愛い-お人形ね。
そのお人形と-お話してたの?」
と、ぎこちなく尋ねてきた。
ユウト「ち、違うんだ、義母さん!こ、これは誤解だよ」
母「い、いいのよ、ユウト。私も小さい頃は-おままごとして
お人形とお話して遊んだモノだからね。お、男の子も、
お人形とお話しても、不自然じゃ無いわよね。うん、
そうよね」
と、ユウト母は必死に自分に言い聞かせるように言うの
だった。
ユウト「違う、違うんだ」
母「だ、大丈夫よ。お父さんには言わないからね」
ユウト「そういう問題じゃ無くて、誤解なんだよー」
と言い、その後、ユウトは必死に弁解を述べるも、
ユウト母には-あまり伝わらなかったのだった。
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