日神祀
──日神祀…霊神村路中
陽矢たちは、ある場所へ向かっていた。
夜月の話によると…霊神村にある神社の神主は、巫一族の中でかなりの実力者と言われている。
その者に、朝美たちの居場所を探してもらおうと向かっているのだ。
陽矢「…こうやって見ていると、平和なトコだな」
夜「ええ。まあ……あ、陽矢殿前…」
陽矢「え?」
正面を向いた瞬間。何かが顔に張り付いてきた。
驚いた拍子に、後ろに倒れてしまう。
陽矢「いってぇー!…なんだよ一体…」
張り付いてきたヤツと引き離すと、子猫みたいなやつのようだ。
よく見ると…尾が二つに分かれている。
夜月「猫又。そいつはこの辺にいる妖怪だな」
桃芽「…あら?前…」
猫又を放し、顔を上げると…
道の真ん中で笛を吹いている者がいた。
遠すぎて誰なのか分からない。
陽矢「しっかし、道のど真ん中で笛を吹かれてちゃな…
メーワクだから一言言ってくるか…」
夜「…あ、陽矢殿…」
陽矢が一人で、笛を吹いている者の方へ歩いて行くと、
後から夜たちも付いていく。
近くに行くと、その者は男性のようだ。
しかし、顔は隠れていて分からない。
陽矢「おいアンタ。ちょっとそこどいてくれ」
桃芽「うわ直球ですか」
笛を吹いているものは、何も言わない。
陽矢を見て、含み笑いをするだけだ。
陽矢「あっ!テメッ今俺の顔みて笑いやがったな!」
「…元気な子供だね。君は」
笛を吹いていた者は、笛を吹くのをやめて遂に口を開いた。
「悪いけど、ここを通すわけにはいかないだよね」
陽矢「何…?」
陽矢以外は、それぞれの武器を取り出す。
夜月は二刀流、右に「蘭(アララギ)」、左に「櫟(イチイ)」を。
桃芽は薙刀「睡蓮(スイレン)」を。
夜は持っている錫杖を薙刀に変える。
陽矢「え?何?何なの?」
夜月「下がってろ」
無理矢理後ろに下げられ、陽矢はムスッとした顔をする。
夜月「…貴様、一体何者だ」
「…私の名は『天邪鬼』。君たちと此処で一戦を交える気はないよ
…というわけなんだ、君たちには此処で退場していただこうかな」
夜「答えになっておりませんが」
桃芽「話の辻褄も合いませんし、わけがわかりませんわ」
天邪鬼は、再び笛を吹き始めた。
陽矢はその音を聞いているうちに…ある映像が頭に浮かんだ。
何処かの湖。誰かに突き落とされた自分。その自分を助けようとする者。
その突き落とした者は…
目の前にいる天邪鬼そのもの。
陽矢「…!」
再び鋭い痛みが襲う。
足元がふらつき、視点も定まらない。
夜「…!?…陽矢殿!」
薄れていく意識の中で見えたのは…
異変に気付いた夜たちの焦る顔。
そして…天邪鬼の、嘲笑う顔。
陽矢はそこで、意識が途切れた──