闇日蝕
俺が修業を始めて十日目。朝から妙な気配を感じた。
それは夜月達も同じようなことを考えていたらしい。
俺が修練所で暦と修行をしている時、その気配が突然大きく膨れ上がった。
が、二人とも丁度竹刀を相手に振りかざしていた状態だった為…気を取られたせいで集中力が欠けて、お互いの竹刀がお互いの頭に当たった。
二人「「いってぇええっ!?」」
夜桜「何してるの?」
暦「見りゃわかるだろ!つーかそれより外!」
夜「…あっ陽矢殿!」
俺は修練所を飛び出して、気配の元を探した。
陽矢「この気配、まさかあんの笛野郎!…うわっ!?」
廊下を走ってその場所に向かおうとしていると、後ろから襟首を掴まれた。
この気配からして…
陽矢「…夜月」
夜月「…急ぐのは良いが、一体いつまで目隠ししているつもりだ」
陽矢「…あ。忘れてた」
夜月に指摘されて、俺はやっと気付いた。霊力が強くなった影響で周囲の波長に視界を遮断してもわかるようになっていた。
あと若干視力が上がったっぽい。
暦「いやーいっけねー、すっかり忘れてた」
夜桜「君まで目隠ししたまま飛び出そうとしたから呆れるよ」
桃芽「最近兄様のキャラが安定していませんが」
夜桜「それは気にしない」
夜月「そんなことより…この気配」
夜「………!? 空が!」
空を見ると…次第に暗くなり始めている。その原因は…
陽矢「…皆既日食…?」
清明「ただの日食じゃない、五百年に一度の日食…『闇日蝕』じゃ」
夜月「お爺様…。!…母上、体は!?」
六花「今はまだ、大丈夫よ…」
陽矢「闇日蝕って!?」
清明「太陽が消え…如何なる神も抗うことが出来ない、如何なる神も抗えぬ、常闇の時空。それが闇日蝕なのじゃ」
──もうすぐ、世界が闇に包まれる時が…如何なる神でも抗えぬ世界が来てしまう。
最近聞こえてきた声の言っていた言葉。まさか…これのことなのかよ。
陽矢「如何なる神が抗えないって…それじゃ!」
突然、空からの殺気を感じた。十六夜で飛んできた何かを跳ね返す。
それは地面に突き刺さって、黒い煙になって消えた。
夜月「これは…」
「『天照る神に選ばれし者。太陽の力宿り月を手に八つの闇を打ち払う』。
…流石『百』の執行者。修業した分もあるしこの程度防御できるよね」
その声とともに空からまっすぐ降りてきたのは…
陽矢「…よぉ、久しぶりだな。陽炎」
陽炎「修業の成果はどうだったかい?」
俺とよく似た謎の少年。最初の頃より妖気が溢れているのが分かる。
…けど、その割には…?
吉昌「あの刀は…」
陽炎「やぁ、久し振りだね。お姉さん達」
夜月「…」
陽炎「あはは。そんな目で見ないでよ。大丈夫さ、僕が用があるのは…『オリジナル』である陽矢だけだ」
陽矢「オリジ…?…うわぁ!?」
夜月「!」
突然、足元の地面がなくなった。辛うじて腕で落ちないようにしているものの…。
…俺がこんな踏ん張っているというのに、アイツは笑顔で手を叩いている。
陽炎「あははっ、すごいすごい。その判断は良かったね」
夜月「陽矢!…!」
陽炎「邪魔しないでよ。いくら貴方が僕の中の『ヨウヤ』の姉だからって、『陽炎』の意識でなら、母親だって、陽矢だって、全員、殺せるんだから。逆に君を殺すことも…出来るんだから」
夜月「っ…貴様!」
陽矢「っ…こんのヤロ…!」
陽炎「でもさぁ。…いい加減落ちてくれないと、君の大切な家族や仲間が酷い目に遭うよ?
君の行方不明の父様だって、ね」
陽矢「…!」
陽炎「なんてね」
俺が動揺した一瞬に、陽炎が俺に峰の方を向けて刀を振り下ろした。
陽炎「遅いよ」
陽矢「っ!」
文字通り、俺は陽炎に叩き落とされた。
深い深い底の見えない穴に。
「──陽矢ァアアアアア…ッ!!」
陽矢「…よづき……おね、え、ちゃん…」
遠くなってく光と意識の中で、俺は久々にそう呼んだ──




