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陰陽師物語  作者: 睦月火蓮
壱幕
5/61

巫一族

屋敷の中に戻ると、日美子は座敷に三人を座らせて、「そこで待っていてください」と言い、奥に行った。


『フー…危なかったな』


このヤロ…。

〝声〟は一安心したのか、『一旦切るわ』などと言って消えた。


陽矢「…(何なんだ…)」


「ワンッ!」


陽矢「…?」


子犬のような鳴き声が聞こえた気がした。

横を見ると…


右神の頭からは狼の耳は消えており…

足下を見ると、白銀の毛並みの子狼が陽矢を見上げている。

左神の方も見ると…右神と同じように頭の耳がなくなっていて、子狐が周りをウロウロとしている。


陽矢「…は?」


呆気にとられていると、子狼が足にじゃれてきた。

その様子は、まさに子犬のようだった。

それにつられたかのように、子狐も寄ってきた。


陽矢「なんだ…?」

右神「…月狼(ツキロウ)、遊ぶでない」

左神「…火狐(ヒノコ)、貴方もですよ」


月狼と火狐を見ると、どうやら陽矢に甘えてきているようだ。

離そうとしても、離れそうにない。

右神「…まさか、()たち以外にここまで懐くとはな…」


左神「珍しいですね」


陽矢「…ん? アンタ、一人称『我』じゃなかったか?」


右神「たわけ。それはこの式神を身に宿して狛犬役をしているときのだ。

 本名は『陰陽寺 夜月(おんみょうじよづき)』という」

左神「ついでに私は『花護寺 桃芽(はなごじももめ)』といいます」


そんなこんなをしていると、奥から日美子が戻ってきた。

手には小さな箱のようなものを持っている。


陽矢「…これは?」


日美子「…これをお返しする前に、貴方には話すべきことがります」


陽矢「…?」


日美子の顔を見ると、真剣な表情をしている。

しかし、その目はどこか辛そうな…哀しそうな目をしている。


日美子「…10年前、この神社の前に、一人の男性がやってきたのです──」


──その男性は…幼い少年を連れていて、私に言ったのです。
























『息子を…陽矢を守ってくれ』…と。


陽矢「…!」


日美子「──そういって、その男性…いえ、貴方の父方は、

 貴方の持っている笛…『巫月夜(ふづきよ)』と、これを残して去ってしまわれたのです」


日美子はそう言って、箱を開けた。

中には…赤い勾玉が入っていた。


陽矢「…これって…」

右神「『(かんなぎ)一族』の勾玉…」


陽矢「…『巫一族』…?」


聞きなれない言葉に思わず聞き返した。


日美子「…巫一族というのは、代々神々を崇め、神の力を使うことを許された一族です。

 …実を言うと、貴方もその一族の末裔の一人です」


陽矢「俺も…!?」


右神「何…?」


日美子「ええ」


最初、陽矢は驚いたが、心のどこかで納得もしていた。

実を言うと陽矢は、幼いころから千里眼や、物を動かす…などといった、特殊な能力があった。

実を言うと、朝美や綺羅もである。


日美子「…この話をしたということは、どういうことかお分かりですか?」


最初よく分からなかったが…次第に分かってきた気がした。

陽矢の顔を見て、日美子は答えを言った。


日美子「日神祀。そこに…貴方の両親がいます」


やっぱり…。

予想していたとはいえ…やはり、動揺する。

どんな人か全く知らない…だが、自分の両親と…やっと会える。


そんな時だ。

外のほうで風の音がした。

日美子「…さて、()もちょうど着いたようですね」

------------------------

外へ出ると、誰かが境内に立っていた。

黒い髪、背中には黒い翼の青年が…そこにいた。

右神「お前は…烏天狗の(ヨル)…」


烏天狗-夜。

しばらく周りを見てから口を開いた。


夜「…相変わらずですね。夜月様、桃芽様」


夜は陽矢を見ると、一瞬表情が固まったように見えたが…

一礼し、言った。


夜「私は烏天狗の式神、夜と申します」


陽矢「あ、いや、えっと…道陰 陽矢だ」


夜「陽矢殿。貴君のことは日美子様から既に聞いています」


日美子「彼には、旅の手助けをしていただきます。

 …夜月、桃芽」


急に本名で呼ばれ、驚きつつも日美子を見る。


日美子「…お二人も、陽矢君の手助けをしていただきます。

 …これは、狛犬役としてではなく、私からの頼みです」


左神「分かりました」


右神「…はい」


二人の返事を聞き、日美子は言った。


日美子「…それでは、お気をつけて」

------------------------

──上空


陽矢「高いな…」


陽矢たちは夜が変化した大鳥に乗って移動していた。


『…肝が据わっているな』


『もっと他に何か感想というものが…』


月狼の首輪についている玉から、右神(以降夜月)の声がする。

同じように火狐の首輪の玉から、左神(以降桃芽)の声がした。


実をいうと、夜に乗る前に二人は、式神である月狼と火狐の玉に身を宿し、現在に至る。

なんでも、己の式神になら憑依が出来るらしい。


陽矢「しょうがないだろ。

 …なんていうか、初めて見たって気がしないんだからよ」


夜月『…陽矢、といったな』


陽矢「お、おう…」


夜月『…お前の最も得意とする力は何だ?』


陽矢「…千里眼?」


夜月『…なら丁度良い、千里眼を使ってみろ』


陽矢「別にいいが…」


陽矢は目を閉じ、意識を集中させる。

頭の中に、どこかの田舎のような場所が浮かんだ。


夜月『おそらく今、お主の見ている景色…そこが日神祀だ』


陽矢「あれが…」


陽矢は、今見えた景色にどこか懐かしいような気がした。

そう思ったと同時に、一瞬だけ頭痛がした気がした。


桃芽『…どうかなさいましたか?』


陽矢「…いや、なんでもない」


夜「陽矢殿。そろそろ着きますぞ」

「…おやおや、彼が帰ってきちゃったようだね」


「…」

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